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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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333 炎上


「白姫だって! ここにはもういない……」

「何処だ! 言えッ」

「そこまで教えるつもりはない……グッ」


 ウシツノの尋問に答えることなく、魔獣使い(ビーストテイマー)の男は奥歯に仕込んだ毒を噛み砕き、自害した。

 シオリを連れ去ったライシカを追うウシツノ、ハクニー、マユミの三人がようやく平原を移動していたランダメリア教団の残党どもに追い付いたというのに、肝心のシオリの姿はそこにはなかった。


「ダメだよ。ライシカって奴もいないよ」

「クソッ! 他に生きてる奴はいないのか? こいつら何考えてるんだ!」


 十数人いた魔獣使い(ビーストテイマー)はみな臆すことなく自害していた。

 自身の命より教団の行く末を重視するよう徹底的に仕込まれているらしい。

 よほど教えに感銘を受けねばそのような洗脳は無理だろう。

 でなければ物心つく前からそう教育する以外ない。


「私が聞き出してみよっか?」


 ここへ追いつき戦闘をこなしたのでマユミの姿はいま淫魔艶女ナイトメア・サキュバスである。


「どうやって?」

「もちろん操って」

「まさか、死人も操れるのか?」


 一瞬ウシツノの脳裏に黒姫になったレイの姿が思い出された。


「死人なんて操れるわけないじゃない。そもそも死人に口なしだよ」

「そ、そうか」


 物質を操るのと死体を操るのは似て非なるもののようだ。


「うーんと、あの子にしようかな」


 マユミは少し離れた位置にいた蒼い獣をターゲットにする。


「あの子って、バル・カーンだよ?」

「そうだよ。さ、こっちおいで~」


 先ほどまでウシツノたちを威嚇していた獣だったが、途端に従順に頭を垂れそっと手を差し伸べるマユミの前でお座りをする。

 マユミは膝をつき、同じ高さの目線になってジッと見つめ返す。


「グルゥ」


 獣のうなり声がした。


「そう。ありがとう……カレドニアだって。ライシカと数人に連れられていったってさ」

「ええっ!」

「わ、わかるのか? 言葉が」

「なんとなく、片言だけどね」


 話を聞いたバル・カーンを平原に解き放ちながらマユミは歩き出す。


「姫神ってさ、上限ないよね。何でもできるんじゃないの?」

「だな……」

「ほら何してんの! 行くよー」


 いつの間にか転身を解いたマユミが向こうで手を振っている。

 ウシツノとハクニーは遅れじと走り出した。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 暗闇に紛れて闇が蠢く。

 人々が寝静まった時刻、ついに彼らは行動を開始した。


 周囲の異変を察知したエユペイから報告を受けたゼイムスは、明かりを消した部屋の中で静かに椅子に腰掛け手にしたナイフを弄んでいた。

 明日、ついに王の座へと返り咲くつもりでいた。

 妨害があるとすれば今夜だろう。

 その場合、裏切り者は相当数に絞られる。


「やはり古い世代にはご退場いただくしかないな」


 立ち上がると傍らのベッドで微睡みの中にいるライシカをそっと揺り起こした。


「すまないが、着替えをしている暇はない」

「ん……」


 薄手の夜着の上からストールを一枚羽織っただけで部屋を出た。


 屋敷が襲撃された際、すぐに自ら火を放つ事を取り決めていた。

 余計な証拠を押収されたくないというのもあるが、絶大な人気を得ようとしていたゼイムスの屋敷が燃え上がれば事は一気に公になる。

 それすらも民衆の支持を得る材料になると踏んでいたためだ。


 予定通り、部下の誰かが火を放ったらしい。

 すぐに町中で襲撃が知れ渡ることだろう。


「民意を甘く見ないことだな」


 ゼイムスはライシカを伴い地下室を目指した。

 このような時のために地下洞へと繋がる脱出口が用意してある。

 そこへの入り口に白いスーツに赤いネクタイを締めたエユペイが待っていた。

 いつものように、気負う事もなく淡々と状況を報告してくる。


「襲撃者どもはかなりの手練れだ。おそらく暗殺専門に鍛えられた者たちだろう」

「そうか。では先に行く。ジョン・タルボットの元へ身を寄せることにする。この国の大将軍になら早々手は出せまい。あとで連絡する」


 地下への扉前で仁王立ちするエユペイにここは任せ、二人は暗い地下洞へと降りた。

 屋敷内では至るところから暴力の音が聞こえてくる。

 同時に空気の焦げる臭いとパチパチと火の粉の爆ぜる音がする。

 ゼイムスの部下たちも善戦しているようだが、こと暗殺に特化したこの部隊が相手では、少々手に余るようだった。

 少しずつエユペイの前にも暗殺者たちが姿を現し始める。

 短刀を閃かせ、足音を立てず襲いくる敵をエユペイは手刀で打ちのめす。

 倒れたそいつの首を踏み折る。

 そして転がる短刀を正面に立つ者に向かい蹴り飛ばした。


 両手の先がないトカゲ族の老人は飛んできた短刀を苦もなくかわす。

 その立ち居振る舞いにエユペイも気を引き締める。


「もしや、剣聖か」

「それはもう捨てたわい」


 ゆらゆらと酔ったように体をふらつかせながらそこに立つトカゲ族に、エユペイはこの国に来て初めて戦いの構えをとった。


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