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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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329 貴婦人来訪


 聖都カレドニアの上空を我が物顔で飛び回る、羽根つきの蒼い獣フリューゲル。

 獰猛なこの獣によって街の中と言えども安心して出歩くことは出来ないでいた。

 討伐に出た衛兵たちが矢を撃ち上げるが、それらをあざ笑うかの如くヒョイヒョイと避けケタケタと笑う。

 そして一瞬でも気を抜けば鋭い爪を閃かせ急降下してくるのである。

 付近の住民たちは身を寄せ合いながらも戦果を挙げない衛兵を非難する。

 

「何してんだ衛兵たちはよぉ!」

「さっさと追い払っておくれよ」

「やっている!」


 獣と住民、両方にいら立ちを隠さない衛兵たちだったが、突然の轟音に事態は収束を迎えた。



 ドララララッッッ!



 横合いから無数に連射されたダーツが数匹のフリューゲルを撃ち落としたのだ。

 素早く現れた猫耳族(ネコマタ)兎耳族(バニー)犬狼族(ウルフマン)といった亜人が落ちた獣の首を取っていく。

 それをきっかけに残った獣は飛び去り、ここら一帯はとりあえずの窮地を脱したようだ。


「チッ、冒険者か」


 衛兵たちはその顛末に舌打ちする。

 撃退したのはシャマンの右腕に装備したパワード・アームのアタッチメント四番、ガトリング・ダーツであった。

 衛兵たちは苦々しそうにシャマンたち五人を一瞥するとその場を去り、住民もまた何も言わず扉を閉め引きこもってしまった。

 レッキスが顔をしかめる。


「礼の一言もないんよ」

「恐れているのじゃろう」

「衛兵はスッゴい睨んでたけどね」

「面白くないのじゃろう」


 クルペオの言うとおりだった。

 バル・カーンを退治すると一匹につき報酬が出る。

 アカメの提案により実施されている害獣駆除特別報奨制度(ケモノ狩り)

 この施策により冒険者や仕事にあぶれた傭兵が獣退治を買って出た。

 しかし反面、衛兵たちは激増する職務に対し特別な報酬が出るわけでもなく、むしろ住民たちから一向に事態が改善しないことへの不満を一身に浴びることになった。

 そこに感じる不満、不公平感からシャマンたちのような冒険者をだいぶ煙たがるようになっていた。


「実際この施策は短期的になら効果的だったかもしれんが、事態の収束が見えず、こう長引くとそろそろ潮時かもしれんな」

「確かにね。報酬額も引き下げられちゃったし」


 先日来、報酬額が一律十五パーセント引き下げられたばかりだ。

 経済活動がほぼストップした状態で国も無尽蔵に金を放出し続けることはできない。

 ましてハイランドはおよそ三十年前の亜人戦争により、多額の賠償金が今なお重くのし掛かったままなのだ。

 この状況では旨味がないと、ハイランドを離れる冒険者も最近増えてきていた。


炎炭石(フレアカートン)も残り少ない。なるべく無駄撃ちは避けてえな」


 背負ったバックパックを覗きながらシャマンが愚痴る。

 パワード・アームの拡張ギミックを使うには炎炭石(フレアカートン)という燃料石を要するのだが、当然物流のストップしているハイランドでは品薄になっている。

 炎炭石(フレアカートン)は日常生活でも暖をとったり調理に使ったりといわば生活必需品なのだが、季節はこれから春を向かえ暖かくなるので、それほど消費量が上がらなく需要が落ち着いているのが救いだった。


 そんな折、通りをたくさんの人々が小走りに走っていった。


「おい! 広場でゼイムス様が演説してるってよ」

「行ってみようぜ」


 そんな声があちらこちらから聞こえてくる。


「オレたちも行ってみるか?」


 シャマンたちが広場へ着く頃には数百人規模の聴衆が集まっていた。

 ゼイムスの姿は遠くからでしか見えないが、その声は当たりによく通っていた。


「諸君らの不安はもっともだ。だが、どうか信じてほしい! この危機に私は間に合った! それは諸君らを救うため、神がお示しになられた奇跡なのだ! 我らには奇跡を起こす力があるということ!」


 パチパチパチと拍手が起こる。


「明晩、新たな物資の補給が届く! みな、辛いだろうがもう暫くだ! 家族や親友、愛する者を思いやり、どうか耐えてほしい! そして信じてほしい! 私はゼイムス! ハイランドに安寧をもたらすため、帰って来た!」


 聴衆から大きな拍手が鳴り止まない。

 シャマンたちは顔をしかめながらその場を離れた。


「結構な数、あの皇子に盲信してるみたいなんよ」

「真相を知る者は少ないからのう」

「だが全員ではなさそうだぞ。あそこを見てみろ」


 ウィペットの示す先、聴衆からは目立たない端の方でいさかいが起きているようだ。

 肩を怒らせた若者が威嚇するようにゼイムスの取り巻きらしき中年の男に食って掛かっていた。


「揉め事か? クーン、聞き取れるか?」

「雑音が多いからにゃあ」


 そう言いつつもメインクーンはそっと近づき耳をそばだてた。


「いい加減お前ら事態うさんくせぇんだよ! 奇跡だぁ? 頭沸いてんだろ」

「いやいや、そんな……そう声を荒げずとも」

「だいたい今さら前王の息子だかしんねえけどよ、知らねぇよあんな奴! オレが生まれる前の話だろうが」

「まあまあ、ここではなんですから、向こうでじっくり、お話、聞かせていただけますか?」

「はあ? フザケんな、さわんじゃねえよジジイッ」

「どうかどうか、これで」

「ん……?」


 急に若者は態度を軟化させ、渡された小袋を上下に振るとニンマリする。


「へっ、しょうがねえな……大声出すのはやめてやるよ」


 そうしてほとんどの聴衆に気付かれないまま、ヘコヘコと頭を下げながら奥を指差す、頼りなさげな中年男性に連れられて路地裏へと消えていった。


「なるほどな」


 戻ったメインクーンが話の内容を伝えた。


「いかに前王レンベルグが有能だったとて、三十年もたてばそれも伝わらない世代も出てくる」

「まああれは言いがかりつけて憂さを晴らしてるようにしか見えなかったけどね」

「行こう。うちらに出来るのはバルカーンを退治することだけだよ」


 広場を去るシャマンたちの背後から演説の終了を告げる万雷の拍手が響いていた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ドカッ!


 ドカッ!


「う、うう、もう、勘弁してくれよ……」


 ガツンッ!


「ぶッ」


 他に誰もいない路地裏でうずくまり、頭を踏みつけられているのは先ほど威勢の良かったあの若者だった。

 足蹴にしているのは同じく先ほど垣間見たあの頼りない中年男性。

 その中年男性が容赦なく若者の腹に靴先をめり込ませた。


「がはっ」


 肚から呼吸をすべて吐き出したかのように苦しむ若者を見下ろし、中年男性は乱れた髪を手櫛で撫でつける。


「理解できたか坊主。二度と舐めた口きいて絡もうとするなよ」

「うぅ……は、はい……」


 ドガッ!


 最後に額を蹴られ若者は完全に伸びてしまった。


「だらしない。この国にはこんなクズしかいないのか」

「ホホ、ゼイムスの部下にしては荒っぽいのね」

「誰だ?」


 そこにひとりの貴婦人が立っていた。

 安物のローブとフードをまとっているが、男は確かに貴婦人という印象を持った。


「ゼイムスの元へ案内してくれぬか?」

「お前は……すでにこの街に入り込んでいたのか」


 フードを外して出てきた顔は、元エスメラルダ大司教にして宰相、そしてランダメリア教団神官長ギノ・ミュウキの実の姉でもあるライシカであった。


2021.05.08 168話「セーラー服のなおしかた」に挿絵を追加しました

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