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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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325 空襲


「待ってください! まだここには捕まっている人たちがいます! 彼女たちを見捨てて行くわけにはまいりません」


 いまにも神殿を飛び出しかけていたハクニーにミゾレがそう叫ぶ。


「え、でも……」


 ハクニーは躊躇した。

 一刻も早くシオリを追いかけたい。

 それに何人いるかもわからない捕虜を助けられたとして、その人たちを連れて行くとなれば移動は困難だ。

 というよりもっと言えば足手まといでしかない。


「どうしようウシツノ、いいかな?」


 けれどハクニーの心は決まっていた。

 シオリなら、絶対にその人たちを見捨てたりしない。

 一族を代表して白姫に付き従うと決めた以上、シオリに顔向けできない選択をとるわけにはいかなかった。


「ああ! すぐに戻ろう」


 ウシツノも想いは同じだったようだ。


「すみません。ありがとう」


 この状況で他者を憂えるミゾレが謝ることはない。

 そう告げたウシツノにミゾレは感激した。


「その人たちはどこ?」

「おそらく地下牢です。私もいた場所です。案内できます」


 四本足から二本足に戻ったハクニーから降り、三人は神殿の地下へ続く階段を駆け下りた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 そこは立ちはだかる邪教徒よりも崩れ落ちる天井の方が遥かに危険だった。

 もう少し来るのが遅ければ囚人たちは瓦礫の下敷きになっていただろう。

 いまだに時折ドスンドスンと地響きがする。


「激しい戦い繰り広げてるようね」

「マユミ殿は周囲を破壊しながらでないと戦えないのか」


 ハイランドの城を破壊したこともあったな、とウシツノは思い出していた。


「みなさんもう大丈夫ですよ! さあ逃げましょう」


 ミゾレが地下牢入り口の壁に掛かっていた鍵束を使い、錠を開けながら囚人たちを解放していく。

 みんな歓喜の声を上げて飛び出てくる。


「ミゾレさま! あぁ、ミゾレさま」

「ミゾレさま助けて」

「私たち、まだ生きれるんですね?」


 どうやらこの囚人はみな、ミゾレが領主代理を務めていたネアンの街の女たちのようだ。


「もちろんです。全員助けます! 誰も見捨てません。安心して」


 わんわんと泣くまだ少女と言える年頃の囚人を抱きしめながら、ひとりひとりしっかりと目を見つめ元気づける。

 異変を察知して散発的に現れる教団の戦闘員を斬り捨てながら、ウシツノは十人ほどに膨れ上がったこの一行でどう脱出するか考えていた。


「みんな助けたみたいだよ、ウシツノ」


 同じように槍を振るっていたハクニーが報告する。


「女ばかりみたいだな」

「うん。生贄のために捕まえてたみたいだからね」

「参ったな」


 一瞬途方に暮れたウシツノを背後から剣を振りかぶった邪教徒が襲いかかる。


「危ないウシツノ様!」


 とっさに落ちていた剣を拾ったミゾレが鮮やかな剣技でその者を斬り伏せた。

 とても素早く、流れるようであった。


「平気でして?」

「あ、ああ。やるじゃないか」

「領主の娘として、一通りの武芸は叩き込まれてますわ。父のオロシはこの国一の武人ですからね」

「そうか。他に戦える者はいるか?」


 ミゾレは首を横にふる。


「まあ仕方ないな。ハクニーと二人で後列の護衛を頼む。前から来るやつはオレが受け持つ」

「わかった!」

「承知しましたわ」


 ハクニーとミゾレはそろって元気よく返事した。

 ミゾレは戦いやすいよう、着ていた純白のドレスの長い裾を切り裂いてしまう。


「私の脚に見惚れないでくださいね、ウシツノ様」

「バッ、バカ言うな……オレはカエル族(フロッグマン)だぞ」

「シオリさんと同じこと仰るのね」

「?」

「なんでもありません! でも、それならまだ私にもチャンスがあるということかしら」

「?」


 フフ、と顔を赤くしながら微笑むミゾレを謎に思いつつ、ウシツノはみんなを先導して神殿の脱出を開始した。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 拍子抜けもいい所だが、脱出は案外簡単だった。

 これといって邪魔されることもなく、神殿の外まで来れたのだ。

 何度か斬り結ぶことはあったが誰も負傷せず難を逃れた。


「外だ!」


 しかし幸運もここまでだった。

 烏合の衆に近い教団員とは違い、外には多くのバル・カーンがひしめいていたのだ。

 しかも戦闘スキルを持たない一般の教団員まで見境なく襲い掛かっている。

 魔獣使い(ビーストテイマー)の数にも限りがあるのだろう。

 神殿の倒壊から逃げ惑う教団員を食い散らかす蒼狼の数は増えるばかりだ。

 血の匂いに引き寄せられて、凶暴さも歯止めが効かない様子。


「これは厳しいんでない?」


 ハクニーに言われるまでもない。

 潜入した時のように教団員に紛れても意味がない。

 岩伝いに身を潜めながら進むにしても相手は獣だ。

 匂いや気配で絶対に見つかってしまうだろう。


「わたしがケンタウロスになって囮になるよ」

「だけど」

「平気だよ! 逃げきれるから!」


 それしかないのか。

 他にすぐに思い付く妙案はなかった。

 しかしそれもすぐ却下することになる。


「羽持ちだ! 見つかった」


 すぐ真上を飛んでいた有翼の蒼狼、フリューゲルに発見されたのだ。


「なんですのあれ!」

「新種だとさ! みんな伏せろッ」


 ゴウッと唸りをあげて伏せた頭上をフリューゲルが滑空した。


「フィイイイイッ!」


 そして再度上空で制止すると甲高い声で鳴き始める。


「あいつ仲間を呼んでるよ!」

「ヤバい! もう来てるゾ」


 そいつの後ろからさらに数匹の羽持ちが羽ばたいてくる。

 明らかにこちらをターゲットしている。


「た、戦いましょう!」

「待て! あんたじゃ無理だ」


 剣で迎え撃とうとするミゾレを押し留める。

 人間相手なら相応の戦果を挙げられる腕前は認めるが、羽持ちは並みの冒険者でも返り討ちに遭うのが珍しくないほど強い。

 それにミゾレの戦法はテクニックとクイックネスに頼った剣技だ。

 人間相手にポイント制の試合ならいい線いくだろうが、獣相手にはそうはいかない。


「さすがに疲れたろう? さっきから剣が重そうだぞ」


 とはいえ無駄にプライドを傷つけないよう、別の言い回しで思いとどまらせようとする。


「はっきり言っていいんですよ。私じゃ勝てないとお思いなのでしょ?」

「う、……ゲコ」


 見透かされていた。


「フフ、優しいのですね。でも戦う以外ないでしょう」

「確かにな」


 ここはミゾレの言うとおりだ。

 肚が座った。

 有翼餓狼(フリューゲル)をウシツノは三匹までなら同時に相手できる。

 だがそれ以上は自信がない。

 全部で七匹もいる。


「五匹オレが受け持つ。あと二匹、倒さなくてもいい。なんとか二人で持ちこたえてくれ」

「うん」

「はい」


 ハクニーとミゾレが緊張した面持ちで頷く。


「来るぞッ」

「ギャオォォッ!」


 七匹がいっぺんに襲い掛かってきた。

 ところが襲ってきた羽持ちが都合七匹、ウシツノたちの目前で突然地べたに這いつくばった。

 強烈なしなる一撃をそれぞれが浴びたようだ。


「あ、あれ?」

「今の攻撃……マユミ殿か!」

「なんだ。まだこんなところにいたの」


 見上げたそこにマユミがいた。

 天馬型パペットのオルディウスに跨り、数十条の蠢く鞭、ハイドライドを握りしめて。


「マユミ殿! バル・カーンロードを倒したのか」

「ううん、実はね」



 グギャオオオアアアァァァァァァァァ!



 腹にズシンと響く雄叫びと共に巨大なバル・カーンロードが大地を駆け迫ってきた。


「こっち来る!」

「倒してないのか!」

「いやぁ、巨大ロボ、負けちゃった! アハッ」

「なっ!」


 あっけらかんと笑うマユミ。


「大丈夫大丈夫! ここなら広いから!」


 だから何だと言うのか。


「おもいっきり、戦えるでしょッ」


 颯爽と地面に降り立ったマユミが鞭をブンブンと振り回す。


「あともうちょっとでなにか、掴めそうなのよね」


 十メートルを超す獣の王がマユミに爪を振り下ろした。


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