324 邪神像がロボにな~る
突然に動き出した巨大な邪神像に教団の信者たちは慌てふためいた。
生贄を磔台ごと飲み込んだかと思えば、動き出し暴れ始めたのだ。
神の奇跡だと祈りを捧げ始める者もいたが、崩れ出す天井の下敷きに恐れて逃げ出す者も多い。
「ほらほらほらほら! 逃げないと踏んづけちゃうぞ」
マユミは邪神像をパペット化し、ことさら大げさに動かし威嚇して見せる。
それでもその場を動こうとしない信者の上に崩れた瓦礫が落ちる。
「あ、危ない」
マユミは邪神像の腕を動かし、下に跪く者たちを落ちてきた天井の一部から防いでやる。
「早く逃げないから」
ようやく身の危険を顧みて、広場の信者たちがバラバラと退散し始めた。
「マユミ殿の能力であいつらも操ったらどうだ?」
ウシツノはミゾレの四肢を縛る縄をほどいてやりながらマユミに言った。
だがマユミはその意見を却下する。
「それじゃあこの人たち反省しないでしょ! 肝冷やすぐらいにはビビらせてやらないと!」
「お、おう……」
姫神に転身しているマユミは邪神像の頭頂部に昇ると、信者たちを追い立てるように蹴散らしてゆく。
そこへ邪神像と同程度の巨体を持ったバル・カーンが、複数の魔獣使いによって現れた。
「ゴア・バルカーンだぞ!」
「ううん、もっとデッカイよ! あれはバル・カーンロード!」
「ロード? バル・カーンの王か!」
確かに士官クラスと言われたゴア・バルカーンよりさらに図体がでかい。
色もどす黒い毛並みで、頭にはヘラジカのような雄々しい角まである。
ゴァァアアアアァァアアアッッッッッ!
縮み上がるような雄叫びを発しながら、バル・カーンロードは正面から邪神像に突進してきた。
お互いの両手を掴み合い、手四つで力比べが始まる。
頭頂部に立つマユミの目の前に恐ろしい形相のバル・カーンロードが唸り声をあげて威嚇してくる。
「みんな降りて! その中は危ないから」
邪神像の口の中にいたウシツノはミゾレを抱き上げると地面に向かって飛び降りる。
「ハクニーも来い! 受け止めてやるから」
高さは十メートルはある。
カエル族であるウシツノならばなんともないが、普通は躊躇なく飛び降りれる高さではない。
その時、ジジジ、とバル・カーンロードの口中に青い炎が球状に寄り集まりだした。
「ゴァッ!」
大爆発!
青い火球が邪神像の頭をぶっ飛ばす。
「あぁッ! ガトゥリン様の像になんてことッ!」
ギノ・ミュウキが頭を掻きむしりながらそばにいた魔獣使いの頭を小突く。
「イテテテ……大丈夫かハクニー?」
「うん、間一髪だったね、えへへ」
爆発の直前に飛び降りたハクニーの下敷きにウシツノはなっていた。
「マ、マユミ殿は無事か?」
下から見上げた邪神像は見事に頭が吹っ飛ばされていた。
肩から上がブスブスといぶされた煙が立ち上っている。
「マユミ殿!」
頭のない邪神像が力でバル・カーンロードをねじ伏せる。
手四つを振りほどき強烈な右ストレートを叩き込み相手を吹っ飛ばした。
「大丈夫! ここは私に任せて先に行って!」
煙の向こうから仁王立ちするマユミが姿を現した。
「本当に大丈夫なのか!」
「私は姫神様だよっ! 早く行って! 白姫ちゃんが待ってるんでしょ!」
「そ、そうか。気を付けろよ!」
ウシツノたちが広場を出ていくのを確認する。
「ここは私に任せてッて、アニメでよくあるパターンだね」
立ち上がるバル・カーンロードを警戒しつつ、マユミは日本にいては味わえない高揚感を覚えていた。
「ちょっと違うけど、まるで巨大ロボを駆使して怪獣と戦うこのシチュエーションもたまらないね」
「グォアアアアァアアァァァ」
雄叫びを上げて再び突っ込んでくる怪獣をマユミは笑いながら迎え撃った。
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「チェンジ・ケンタウロスモード」
ハクニーが指輪をきらめかせながら叫ぶと下半身がみるみる馬のそれに変わった。
「乗って!」
「あなた、ケンタウロスでしたの?」
驚くミゾレを背に乗せてハクニーは疾走する。
その横を離れずウシツノが追走する。
「シオリはどこだろ!」
「あいつに聞こう!」
前方にギノ・ミュウキの姿があった。
向こうもこちらに気付いたようで、数人の剣を持った信者が斬りかかってくる。
「ガマ流刀殺法、風林火斬!」
素早い回転斬りで瞬く間に信者たちを斬り伏せる。
「あわわわ……」
ガタガタと震える骨と皮ばかりのギノ・ミュウキに、ハクニーがすさまじい剣幕でシオリの行方を問う。
「あ、あの娘なら、すでに姉様に連れられて、カレドニアへ向かった」
「カレドニア?」
ハイランドの首都であり、ウシツノたちがいた街だ。
「クソッ、行き違いか」
「お、お前たち、こんなことして、ただじゃすまないぞ……ガ、ガトゥリン様が復活したら、覚えてるがいい」
「ウシツノも乗って!」
すでにハクニーは走り出していた。
ギノを無視して三人は岩山の神殿を飛び出す。
「シオリはもうここにはいなかった。急いでカレドニアへ」




