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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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318 ライシカの野望


「ね、姉さん! ほ、本当に、姉さん? どうしてここに……」


 目の前で自分を見て驚く妹に、ライシカはとりあえず水を一杯と頼む。

 カムルート砦からバル・カーンを駆って、星屑隊と合流。

 翡翠の星騎士団からの追手を警戒して、昼夜を問わず強行軍を行い、三百騎の星屑隊を連れてこのランダメリア教団総本山にまでたどり着いたのだ。

 このような行軍に不慣れなライシカは、追われるストレスも相まってだいぶ疲労困憊していた。


「ギノ、状況が変わりました。わたくしは、エスメラルダから追われる身となった」

「ね、姉さんが? どうして」


 ライシカはうんざりした顔をするだけで、説明しようとはしなかった。

 自らの没落を語りたがらない自尊心もあったが、それ以上に獣を操る以外に脳のない、この妹に話したところで無駄だと見下していた。


「それよりも、状況は?」


 もはやエスメラルダを意のままに動かすことは出来ない。

 しかしこの教団とハイランドの王位継承問題に首を突っ込むことで、自分の野心はまだ潰えないと思っている。


「ひ、翡翠の星騎士団を、バル・カーンに襲わせて、か、壊滅させた」

「……なんですって?」


 ライシカは驚いた。

 何故、味方であるはずの()()翡翠の星騎士団をバル・カーンに襲わせる必要がある?


「ギノ、あなた何を血迷って」

「チェル……ゼ、ゼイムス皇子に言われて……だから……なんでだろうって、思ったけど……ね、姉さんが追放されたから、だったんだ、ね」


 納得した顔で頷く妹だが、ライシカはそこまで楽天的ではない。


(ゼイムス皇子はわたくしに見切りをつけたのか)


 連絡が滞ったのは事実だ。

 暗躍がバレたのもその通りだ。

 だがその程度、傀儡の女王を言いくるめる自信はまだまだあった。

 あの赤い騎士はたしかに厄介だが、まだこの教団の力がある。

 自分にはまだ戦力がある。

 そうだ。

 まだこのライシカには十分な価値がある。

 そもそもわたくしを切り捨ててこの教団を動かすことなど……


 だが実際に妹はライシカ抜きでゼイムスの命令を聞いていた。

 翡翠の星騎士団を襲うなどという予定にない命令を拒みもせずに。


「ギノ……あなた……何故ゼイムス皇子の命令に従ったのです」

「え? だって、ね、姉さんは、あの皇子のいう事、き、聞いてたし……」

「あなたまさか」


 ギノはその骨と皮ばかりの形相を不気味なほどに赤らめていた。


「ゼイムスに惚れましたね? まさか一夜を……」

「そ、それは……」


 初めて見る妹のもじもじとした所作にライシカの怒りは頂点に達した。


「たわけが! あの男にたぶらかされおって!」

「ヒィッ」


 飛び跳ねてうずくまる妹にライシカは舌打ちした。

 自分もあの男に熱を上げていたのだ。

 年甲斐もなくたぶらかされたのは自分も同様だった。


「ゼイムスめ。我らを利用するだけして切り捨てる腹積もりだったな。せっかくここまで尽くしてやったものを」


 ライシカは妹の腕を掴むと無理やり立ち上がらせる。


「ヒ、ヒィ! ごめんなさい、ね、姉さん」

「ギノ……もうよいのです。しっかりなさい」

「姉さん」

「わたくしも詰めが甘かった。そして欲をかき過ぎました。エスメラルダの権力だけでなくハイランドと、そしてあの色男までも所望したこと、反省しましょう」


 ライシカはすべてを失いかけ、そして真にすべきことを全うする覚悟が身に着いたのだ。


「わたくしたちの使命を思い出しました。このくだらない俗世を破壊すべきであることをです」

「ね、姉さん、もしかして」


 ライシカの覚悟は決まっていた。

 俗世に係わろうとしたことが間違いであったと。

 こうなったからには自分も教団の魔獣使い(ビーストテイマー)に戻る時が来たのだと。


「わたくしも、ランダメリア教団にこの身を捧げましょう。獣神ガトゥリン様復活の時です」

「姉さんッ」


 ギノが満面の笑みを浮かべライシカに抱き着く。


「我ら教団に伝わる言い伝え、あれが真であれば、今こそその千載一遇のチャンスなのですよ」

「箱、パンドゥラの箱」

「そうです。あの箱にガトゥリン様は封印されています。そしてあの箱は」

「あの箱は、ふ、普通の人間には、あ、開けられない」

「そう。あの箱は選ばれし者にしか開けられません」


 ライシカはギノを連れ星屑隊の元まで行く。

 騎士たちは薄気味悪い教団内部で一箇所に集まり待機していた。

 そしてその中にいまだ檻に入れられたままの少女がいる。


「この娘です」


 ライシカが檻の前で妹に紹介する。


「この、娘?」

「そうです。この娘こそ、選ばれし者です」

「この娘が?」

「そうです。そうですよね? あなたは姫神なのだから」


 ライシカは檻の中の少女、シオリにそう云い放つ。

 シオリは話の流れがつかめず困惑する。


「ひ、姫神! 姫神なら、箱、開けられる」

「そうです。あの箱は姫神にしか開けられないのです」


 ライシカが高笑いする。

 釣られてギノも不気味に笑いだす。

 まさか白姫がこの手に入るとは。

 ライシカはまだまだ自分に運が向いていると確信した。

 そして獣神ガトゥリンを復活させ、ハイランドもエスメラルダも、すべて自分の前にひれ伏せさせる野望を新たにしていた。


「この娘に、ガトゥリン様を復活させていただきましょう」


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