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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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317 帰宅困難


 ――もし神様が本当にイテ、何かひとツ、願いヲ聞いてクレルなら。


 ――ワタシが許したヒト以外、コノ世からスベテ消えてホシイ。





 そこは見知らぬ天井だった。


 あれは夢か(うつつ)か……。

 ついいつも思う妄想を口走った気がしないでもない。


「物騒なことを言うのだな」


 現だった。

 聞いていた人がいるらしい。


 目を覚ましたマユミが最初に見たのは、寝台に横たわる自分を見つめる、黒髪長髪白衣の男だった。


「そのような発言は医師の前では慎んでもらいたい。勤労意欲が減退する」


 戒めるような口調だった。

 白衣の男、ドクターダンテは、マユミの左手首の脈を計り、瞳孔をチェックする。


「気分はどうだね? 頭痛や吐き気はあるかね?」

「ここはどこ?」

「私の実家だが、今は簡易診療所だ。半身麻痺や言語障害などは見受けられないな。記憶はどうだね? 自分の名前を言えるか?」

瀬々良木(せせらぎ)マユミ。二十四歳。住所は東京都……」

「ふむ。異常はなさそうだな。その右腕は動かせるかね?」

「右腕?」


 言われてマユミは自身の右腕を見て息を飲んだ。


「な、なにこれ!」

「パペットの義手だそうだが。覚えていないのかね?」


 ゆっくりと義手を動かす。

 ごく自然な動作に見える。

 しかしマユミの顔は蒼白だった。


「姫神の魔力は失っていないようだな。若干の記憶障害が見られるが、一過性のものだろう。ゆっくりと静養したまえ」

「私、森で、女王と呼ばれてた人に、何か頭の中に入れられて……」

「プシュケーという精神の上位精霊だったそうだ。あいにく私は精霊術技(エレメント・マギ)について詳しくないのでこれ以上の回答は不可能だ」


 ダンテは立ち上がると診察室を出て行った。

 入れ替わるように兎耳族(バニー)の女拳法家レッキスがやって来る。


「目覚めたみたいね。悪いけど、しばらくは私が監視させてもらうんよ」


 そう言って入り口脇の椅子に腰かける。


「監視?」


 少し怯えた様子の見えるマユミに、レッキスは幾分拍子抜けした。


「どうしたんよ? 毎回人を舐めた態度でおちょくってたあんたが」

「そうなん、ですか? ごめんなさい」

「ええっ?」


 自分の記憶にある桃姫から、あまりに人が変わったマユミにレッキスも不安になる。


「あんた本当にあの桃姫なん? 私はあんたに酷い目合わされたっていうのに。無理矢理くすぐられたりさ」


 そう言いながら指を動かし、くすぐる手付きでマユミに近付こうとする。



 ビュンッ!



 するとそのレッキスの鼻先に鞭が一閃した。

 マユミを守ろうとしたのか、傍らに置かれていた神器ハイドライドによる自動防御が発動したようだった。


「お、おお! 冗談、冗談よ」


 顔をひきつらせつつ、再び入口脇の椅子に戻る。

 しばらくの沈黙が流れる。

 マユミは居心地悪そうに寝返りを打ちレッキスに背中を向ける。

 そんなマユミにレッキスは疑問をぶつけてみた。


「あんたさあ、なにがしたいん?」

「え?」

「あんたが異世界から来た人間だって事は知ってるよ。姫神っていうスゴい力を持ってることも知ってる。それで、これからどうしたいんよ?」

「どうしたいって、言われても」


 そんなこと考える暇もなかった。

 いや、正直なところマユミはこの数ヵ月の記憶が曖昧だった。

 まったく覚えていないとは言わないが、自分の意思で動いていたという自信はない。

 ただその中でひとつ、つい最近になって思い出したことがあった。


「娘がいるの」

「娘? この世界に?」


 意外な答えにレッキスの思考が止まる。


「違う。家に。まだ小さいの。きっと私のことを待ってるはず」

「……」

「アユミのところへ帰りたい」


 そうつぶやくマユミの顔に、レッキスは彼女が本心から娘を心配しているのだと思った。

 自分勝手で気分屋で淫乱でイヤな女だったらと思ったが、やはりこの女も利用されていたにすぎないのかもしれない。

 ミナミやシオリは運が良かった。

 出会った仲間にツイていた。

 誰かそんなようなこと言ってた気がする。


「けど……」


 レッキスはそこで言葉を飲んだ。

 マユミは元の世界に帰りたいのだろう。

 しかし元の世界に帰る方法はない。

 四百年以上をこの地で過ごしたという元白姫のバンがそう言っていた。

 それを信じるかどうかであるが……


「そう。なら帰る方法を探さないとね」


 レッキスはそう答えた。

 そして……


「なんならさ、探すのを手伝ってあげてもいいしさ」


 なぜだか自然にそう言ってしまっていた。

 そこには打算もなにもない。

 ただなんとなく、そう思ったのだ。


 マユミは背中を向けて寝ていたため、レッキスからは表情まではわからなかった。


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