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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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315 炎の結晶


 翡翠の星騎士団の陣幕に、カムルート砦の女王サトゥエからの使者がたどり着いたのは、その日も城壁前での攻防から撤退したばかりの夜半の事であった。


「以上がエスメラルダ女王サトゥエ陛下からのご命令です」


 銀姫ナナの天幕に同席した四人の処女騎士たちがナナの返事を待つ。


「撤退しろと? あと一歩でハイランドは落ちるのにか?」

「此度の戦は大司教ライシカ殿の謀略によるもの。ハイランドの王族問題にマラガの盗賊ギルド、そしてランダメリア教団とも画策しての(はかりごと)であることが判明いたしました」

「そう書いてあるな」


 ナナはいたって冷静であるが、居合わせた処女騎士たちの動揺は大きい。


「何故あの邪教徒どもと共同戦線を張れと命じられたのか、今なら納得できます」

「まさかギノ・ミュウキと姉妹だったなんてね」

「私たちはそんな輩の命令に何年も従っていたのか……不覚だわ」

「女王陛下にはハイランド側が教団と結託している、とウソの情報を信じ込ませていたんだ。私にはその方が怖いね」


 元々女王や大司教に対してそれほど信奉していたわけではない四人である。

 それぞれの口ぶりに女王の使者は内心居心地の悪さを噛み締めていた。


「ナナ様?」


 一向に沈黙したままのナナに一同が怪訝な顔をする。


「うん。そうだな……戦を止め撤退するとして、ハイランドからの抗議はどうする?」

「それは今後の外交に委ねられます。ちょうど今わが国にはクァックジャードもおりますし」

「調停役のクァックジャードか。ハイランドの反発は強いだろうが」

「ある程度の賠償金は止むを得ないかと」

「それで済むか? 我々はすでに三つの街を落としているのだぞ。被害も大勢出している」

「それは、そうですが……」


 面白くもなさそうにナナは嘆息した。

 この使者を問い詰めたとて意味はないのだ。


「わかった。明朝この地を引き払う。あとは外交に任せよう」


 ホッと胸をなでおろした使者が退席するとナナは四人の部下に帰国の準備を命令する。


「ミオ、リン。あなたたち一番隊と二番隊から出なさい。メアの三番隊と私の近衛隊が続きます。ライム、悪いんだけど」

「お任せください。殿(しんがり)は立派に努めて見せます」

「ハイランドに追撃に割くほどの兵力が残っているかは疑わしいけど、一応警戒しておいて」

「はいっ」


 四人が退出し、ひとりになると、ナナは椅子の背もたれに寄りかかり天井を見上げたまま固まった。


「……どうでもいい」


 ハイランドとエスメラルダの紛争など、最初からどうでもよかった。

 ナナにとってこの世界でのすべては、自分を庇護してくれたハナイ司教だけだった。

 そのハナイがエルフにさらわれ不慮の死を遂げた。

 絶望したナナは復讐のためにエルフの砦を殲滅した。

 そのあとはハナイのいた国を護るためと自分に言い聞かせ、騎士団を指揮して今日まで戦ってきた。

 何も考えず、ひたすらに剣を取ってきたのだ。


「でも、生きていた」


 よもや北の草原の国で桃姫と再会するとは思わず、彼女からハナイ生存を聞かされるとも思ってはいなかった。


「そうだ。戦争など、もうどうでもいいのだ。捕まえた白姫を連れて、ハナイ様を助けに行くのだ」


 そのために必要な白姫の神器を取りに、カレドニアへ戻った桃姫からはまだ何も連絡がない。

 白姫は別動隊である星屑隊に監視させているが、桃姫と連絡が取れるまでハイランドに滞在させておくことが出来るだろうか。


「最悪の場合は私ひとりが残ればいい」


 不安と不満がない交ぜになった状況だったが、疲労には勝てず、ナナは次第に眠りについていった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 燃え盛る火の手とほとばしる剣戟、怒号のような雄叫びにナナは眠りの底から目を覚ました。

 慌てて天幕の外へ出ると騎士団が無数のバル・カーンに襲われ交戦していた。


「ナナ様ッ」


 直属の近衛隊長が駆け寄ってくる。


「襲撃です! バル・カーンの群れが我らに……」


 駆け寄りながら報告を急いた近衛隊長が血を吐きながら倒れた。

 背後から襲った獣に胸を貫かれたのだ。


「貴様ッ!」


 その獣を一刀のもとに斬り捨てる。


「どういうことだ! ライシカめ、裏切りがバレた途端、我らにバル・カーンをけしかけたか」

「ナナ様ァ」

「ミオか! ランダメリア教団は明確に我らの敵となった! 隊を立て直せ! 獣どもを駆逐しろ」


 その間も火の手はますます燃え上がる。

 口から青い火球を吐くゴア・バルカーンの仕業だった。


「次から次と、私の前には敵ばかりが現れるのだなッ」


 怒りに目をギラつかせるとナナは剣を抜き天に構える。


「転身姫神! 鋼鉄神女(メタル・ウーズ)!」


 姫神になると刃がクリスタルに変化した神器銀星号(ザ・シルバースター)を炎に向かい振るう。

 剣先からキラキラと光る水流がほとばしる。

 その水が炎に触れるとたちまち結晶化され炎の形をしたオブジェとなる。


「クリスタルフリーズ!」


 ナナの結晶化する剣が火の手を食い止めることで騎士たちの戦意も向上していった。


「掃討せよ!」


 ナナの号令に翡翠の星騎士団の反撃が開始された。



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