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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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304 桃一号作戦


「ちょっと、やめるんよ」


 珍しく弱音を吐くレッキスだが、この状態では致し方ない。

 しかし無情にも両脇に添えられたマユミの指が動き出す。


「んっ、キャハハハッ! やめ、やめれッ」

「どうしてぇ? いいでしょ?」

「アハハハハ! 止めろって」

「言葉遣いが悪いわよ、アユミちゃん」

「ッ?」


 聞き間違いか?

 ギワラとメインクーンが目を合わす。


()ユミって聞こえたけど、こいつの名前()ユミよね」

「でも自分の名前を言うとこではないと思いますが」


 自分のくすぐりで身をよじるレッキスにマユミはご満悦のようだ。


「そうそう、笑って。笑ってアユミ」

「やめ、やめッ! アハハ」

「ホントだった。あのカエルの言ったこと。私の希望は地下にあった」

「な、なんよ!」

「アユミちゃんの笑顔……」

「なっ」


 マユミは泣いていた。

 泣きながらくすぐり続けていた。

 謎に情緒が不安定で意味不明なマユミにその場の全員が寒気を感じる。


「ちょっとそれぐらいで!」


 見かねたメインクーンが脇に置かれた拷問用の棒を振ってマユミを止めに入る。



 ガィンッ



 それを弾いたのはマユミが手にした鞭、龍騎(ハイドライド)だった。

 彼女自身が振るったのではない。

 鞭は彼女への攻撃に反応し、自ら動いたのだ。

 神器はメインクーンにギワラも加わった攻撃を自動防御(オートガード)し続ける。


「ごめんね。ごめんねアユミ」


 もはや誰に何を謝罪しているのだろう。


「ハッ、ハッ、ハッ……」


 加減を知らないのか、くすぐられ続けてレッキスに過呼吸の症状が現れる。



 バシッ!



 鞭をかいくぐり必死に攻撃から繋いだメインクーンの足払いがようやくマユミの手を止めさせた。

 床に倒れたマユミは「はあ、はあ」と乱れた息遣いで天井を見上げた。

 そしてそのまますぐには起きてこなかった。


「はひぃ、はひぃ」


 ようやく息を整える時間を得たレッキスだが、思わぬ展開に軽くショックを受けていた。


「なんで、こいつ、何言ってんのか、全然……」

「待つにゃ! シッ!」


 メインクーンが口元に指を立て黙るように言う。


「なに?」


 マユミは眠っていた。

 スゥスゥと静かな寝息を立てて。


「ほんとに……なんなん?」

「見てください! 桃姫の右腕」


 そこで三人は気が付いた。

 ドレスを着たマユミは長手袋をしていたのだが、右肘から覗く肌が金属の光沢を帯びている。


「なに、これ?」


 手をとり確認しようとした時だった。


「クケーケッケッケ!」


 突然マユミの右腕だけが動き出し、そして笑い出したのだ。


「この笑い声!」

「こいつ、右腕がパペットにゃ!」


 ビリリ、と手袋が裂け、金属製の腕が現れる。

 その手の甲には目玉がギョロ付き、掌には大きく裂けた口があった。

 近寄っていたメインクーンを敵とみなしたのか、右腕だけがブンブンと唸り拳を振り下ろす。


「あぶなッ」


 思わぬ不意打ちに慌てて飛び退る。

 拳は強い衝撃をもって床に叩きつけられた。



 ズズンッ



 部屋全体が振動する。

 パラパラと天井から小石の欠片が降り注ぐ。


「なんてパワー!」


 右腕の勢いは止まらない。

 ギュンギュンと振り回すことで本体であるマユミの体まで浮き上がり、まるで風に舞う木の葉のようにフラフラと、ヒラヒラと舞い踊る。


「これも自動防御(オートガード)なの!」

「わかりません! もしかして制御不能に陥っている可能性も」

「グゲゲゲゲゲゲゲッ!」


 ひときわ重たい一撃が振り下ろされた。

 当然直撃をかわそうとしたため、その一撃は床を叩く。

 ベコッ、と音がするぐらい、破壊のパワーは一撃を中心にキレイな真円を描く。

 その一撃に床石は耐えられなかった。


「床が、抜ける」


 地下室ではあるが、この下は巨大な地下空洞になっていた。

 慌ててメインクーンとギワラはレッキスがいる磔台にしがみつく。

 その磔台は天井から滑車で吊るされていたのが幸いした。

 床に空いた巨大な穴に、眠るマユミと破壊された床石が、吸い込まれるように落ちていく。

 それは暗く、深い、奈落の底。

 磔にされたままのレッキスの体にしがみつき、メインクーンは耳をそばだてる。

 しかしいつまでたっても地の底から音は返ってこなかった。


「落ちたけど、この真下って……」

「わかりません。しかし地底湖は巨大ですから」

「あとはウシツノに任せるんよ」


 三人は吹き上げる風に身をこわばらせながら息を飲む。


「だいぶ予定と異なりましたが、桃一号作戦、とりあえず達成ですね」


 予定通り、とはいかなかったが、結果的にマユミを地底湖に追いやることはできた。


「だいぶ幸運に助けられましたが」

「私はだいぶ苦しんだんよ」

「そうね。悪ノリが過ぎたにゃ」

「でも作戦の第一段階は終了です。あとはウシツノさんが」

「そうにゃ。上手く行けば」

「うん」


 三人はそれ以上口に出さなかった。

 口に出すことで成功率が下がるのでは、という根拠のない考えがよぎったのである。


 アカメが提唱した桃一号作戦。

 それは桃姫マユミを、こちら側の仲間にする作戦。


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