表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

303/723

303 ティクティクトーチャー


「これはちと、ヤバイんではなかろーか」


 王城の地下の奥、どんなに騒いでも地上まで声が届きそうにもない、それほどまでの奥の奥。

 もう夜が明けた頃だろうか。

 そこそこ空腹を覚える程度の時間は過ぎている。

 レッキスはその間、まごうことなき拷問部屋に放置されていた。

 天井から滑車で吊るされた、巨大な車輪のようなものに四肢を伸ばして(はりつけ)にされている。


「今ごろなにを言っているか」


 そこへ部屋に入るなり、瞳に怒りを称えたこの国の大将軍ジョン・タルボットが鞭を振った。

 鼻の先でビュンビュンと空気を裂く音が、我が身を襲う痛々しい想像を掻き立てる。


「待たせて済まなかったな。さあ尋問を始めようか」

「お、落ち着くんよ。聞きたいことならなんでも答えるから」


 将軍が脇に控える拷問吏(ごうもんり)に用意を促す。

 全身黒いスーツに髑髏(どくろ)の面で顔を隠した拷問吏が、鞭を手にレッキスの目の前に立った。

 表情が見えない分、無機質な恐怖がいや増す。

 心ならずもレッキスは、ごくりとつばを飲み込み緊張を押し隠す。


「何を盗もうとした?」

「パンドゥラの箱」

「てィッ」



 ビシィッ!



「うぁっ」


 レッキスの太ももに鞭が打たれる。

 激しい音が部屋中に響き渡る。


(ん?)


 違和感を覚える。


「圧倒的国宝に手を出すとは不届き千万。誰の手の者か」

「ト、トーン皇子」

「てィッ」

「ちょっ!」



 バシィィン!



 今度は反対の太ももを鞭打たれる。


「ちゃんと答えてるんだから()たないでよ!」

「他に仲間はいるのか?」

「…………」

「てィッ」


 バシィン! ビシィン!


「答えねば鞭を打つぞ」

「答えたって打つやんか」


 将軍は磔台のすぐ脇にあるハンドルを手にする。

 それを見て拷問吏が口を開く。


「お待ちください将軍。もし本当にトーン皇子の命令でしたことであれば、この者は賊ではなく……」

「そのような心遣いは無用! 今や真の王はゼイムス皇子である!」


 拷問吏の制止も厭わず、将軍はハンドルを回し始めた。


「ちょっ、それはちょっと」


 レッキスの声に焦りが混じる。

 彼女の膝から下は床をくりぬいた水槽の水に浸かっていた。

 そのようなことなど意に介さず、磔台が静かに回転し始める。

 徐々にレッキスの体は横向き、なおも回転は止まらない。

 いよいよ水面が顔に近づくと、たまらず大きく息を吸い込んだ。



 ドプンッ



 完全に頭が水没する。

 逆さまになったところでようやく数秒停止する。

 ボコボコ、と水泡がいくつも泡立つ。

 ほんの五秒程度だったのだが、レッキスにはたまらなく長い時間に思えた。

 やがて回転が再開されると、水上に顔が現れる。


「ブハッ! ゴホッ、ゴホ」

「さあ言え! 仲間は誰だ! 何人だ! 何処にいる!」

「ゲホッ! ゲェホ」


 そこへ扉を開けてもうひとり、髑髏の面をつけた拷問吏が入ってくると声高に報告を始めた。


「将軍! エスメラルダの翡翠の星騎士団が侵攻を再開しましたにゃ! トーン皇子がお呼びです」

「来たか! 今度こそ返り討ちにしてくれよう! 我らには箱の加護と救世主様がついておる」


 ジョン・タルボットは鞭を投げ捨てると、とっとと部屋を飛び出し行ってしまった。


「ゴホゴホッ……なんなんよ、あのサディスト……ただストレスの発散しただけなんじゃ……」

「あーあー、ビショビショだにゃあ、レッキス」

「は? その声、クーン?」


 新たに入室してきた拷問吏が面をとると、下からメインクーンの顔が現れた。


「じゃあこっちは」


 残ったもうひとりも面をとる。


「やっぱりギワラ!」

「気付いてましたか」

「鞭が全然痛くなかったから」

「痛くないように打ちました。鞭の扱いには慣れてますので。ウフフ」


 鞭に頬擦りしながら笑うギワラに対し、二人して愛想笑いするのが精一杯だった。


「にしても、アカメの言ったようにしたらとんでもない目に遭ったんよ」

「トーン皇子の指示でした、という嘘のことにゃ?」

「そう言えばしばらくは何もされずに時間が稼げるって言ったのに」

「取り調べにゼイムスの信奉者である大将軍が着いたのは計算外だったのでしょう。すぐに私にサポートするよう言ってきましたから」


 ギワラがアカメを擁護する。


「ふうん。つっても多少はやられてんだけど」

「にゃにゃにゃん」


 不平を垂れるレッキスに対し、メインクーンが不適な笑みをこぼす。


「なに? クーン」

「まさか、もう助かったとでも思ってるんじゃあ、にゃいよね?」

「は?」

「よくも私をクネートに売って爆笑してくれたにゃ。恨み忘れいでか」

「爆笑なんてしてないよ!」

「うるさいにゃあ! 目には目を、爆笑には爆笑にゃ」


 コチョコチョコチョコチョコチョコチョ


「ばっ! やめ! キャハハハ!」

「おあつらえ向きの磔にゃん! しばらくくすぐり地獄を味わうがいいにゃ!」

「キャハハハ! ごめん! なんかわかんないけどごめんって!」

「にゃにゃにゃにゃあ」


 止めはしないが隣でギワラは心底呆れた顔をしていたのだが、


「ッ! 誰か来ます」


 緊張した声で発したギワラの警告は、だが一歩遅かった。


「楽しそうに、笑ってる……」


 そう言いながら、いつの間にかこの部屋に入り込んでいた。

 美しいドレス姿だが顔のマスクだけは異様の女。


「奈落を探してさ迷ってたら、なんだかとっても愉しそうね」

「も、桃姫にゃッ」

「どうしてここに」

「私も混ぜてくれないかしら? 女の子くすぐるの、大好きなのよね」


 暗い顔のマユミだが、不幸な獲物を見つけた目をしてすり寄ってくる。


「こわっ」

「うそ……またなのお?」

「また? そのウサミミ、私前にもあなた、くすぐったような? ほら、塔の外壁で」

「うっ」


 バンと一緒にロープでぶら下がったところをくすぐられた経緯がある。


「やっぱりそうなんだ。きっと私たち、縁があるのね。くすぐりの」

「ないないないない!」


 両の指をわちゃわちゃ蠢かしながら、マユミはジタバタもがくレッキスに近づく。


「私、希望を探しているの……お願い、くすぐらせて……」

「ヤ、ヤダ! ヤメテ! 来るなぁ」


 あまりの異様さにメインクーンもギワラもついつい道を開けてしまった。

 正気を失ったかのような顔のマユミは、レッキスの前まで来るとその両手を、彼女の両脇に添えたのだ。


「いくよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ