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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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301 アカメ対ゼイムス


 あきらかに晩餐会の中心となったゼイムスとマユミ。

 その二人の元へ、あからさまに場違いなアカメがヒタヒタと歩み寄っていく。

 近づきながら大勢と談笑する様子をつぶさに観察してみるが、その視線を遮るようにメイドがズイ、と立ちふさがった。


「……」


 射すくめようと睨みを利かせるメイドの態度にアカメは察した。


(なるほど。どうやらゼイムス皇子の護衛役が何人も潜んでいるのですね)


 しかし彼にとってこの国は、いまや敵以上に味方する者の方が多いかもしれない。


(暗殺で済ますのが手っ取り早いかとも考えましたが、いやはや)


 胸中で不穏な謀略をとりあえず引っ込めることにした。


「おや、カエル族とはこの国では珍しい」


 そこへ機先を制す形でゼイムスから先にアカメに声をかけてきた。


(度量の広さを見せつける気でしょうか。まあ、願ってもない)


 アカメはしずしずとゼイムスとマユミの前へ出る。


「アカメと申します。殿下にはご機嫌麗しゅう」

「ありがとう。貴殿はハイランドに長いのかね?」

「いいえ、旅の途中であります。見聞を広めたく西より参りました」

「ほう。なにか発見はあったかね」

「ええ! それはもう、今、目の前に」


 アカメが満面の笑みでそう答える。


「こんなにもお美しい王子様を私は初めてお目にかけます! いやなんとも凛々しくお美しい」


 それまで怪訝な目で見ていた周囲の者たちも、アカメのこの一言に場が和んだ。

 このカエルもちゃんとわきまえていると安堵する者、その通りだと同調する者など反応は様々だ。


「白磁のようなキメ細やかな肌、透き通るような黄金色の髪、整った目鼻立ちに意志の強さを感じさせる瞳。まさしく天上から降臨なさった神子(みこ)たらんことと」

「それぐらいにしておきたまえ。世辞とはいえ、むず痒い」

「世辞などとんでもございませんよ。まるでお人形のように美しい、ああ、その美を上手に表現できぬもどかしさを痛感しております」


 なんと口の達者なカエルだと周囲が沸き立つ。

 すっかり緊張は解けたようだ。


「貴殿は見聞を広める旅と言うたが、語り部にでもなられてはどうか。例えば吟遊詩人など」

「ご勘弁を……歌の才は持ち合わせていないのです。あ~、あ~。この通り、残念ですが」


 調子っぱずれの歌声を披露して見せたのでさらに周囲が沸き立った。

 フフ、とゼイムスも笑いながらワイングラスを傾ける。

 ただそれだけのことだが、その優美な動作にご婦人たちから熱いため息が漏れる。


「いやいや、様になりますね。差し障りなければ、美を保つ秘訣などお尋ねしてもよろしいでしょうか。ご婦人がたもご興味がおありかと」

「さて、これといって特には」

「そうなのですか? それは益々、凄まじい」

「……凄まじい?」

「そうですとも。失礼ですが、殿下はこれまで随分と御苦労されてきたのではないのですか?」

「ん?」


 少し風向きが変わったことに誰も気付かない。


「幼少のみぎり、国を出奔されて、南方の過酷な環境に身をやつしていたと聞き及んでおります」

「……」

「幼子がひとり生き延びるには多くの辛酸を舐めてきたことでしょう。ですがその艱難辛苦を乗り越え、殿下はついに凱旋なされた」


 ゼイムスの顔に先程までの余裕が消え、警戒色が強くなっている。


「端正なお姿に物怖じしない胆力、そして多くの富と部下を引き連れて。そんなことのできる者などそういません」

「そのようなこと……」

「いえいえ、殿下はお強い。強靭なメンタルをお持ちだ。私の評価したい部分はまさしくそこです」

「国を思えばこそ、それ一心であったのだ」


 ゼイムスの声は堅かったが、周囲はその言葉に感動を覚えたようだ。

 ハンカチで目頭を拭う者も多数いる。


「殿下のお心、このアカメにも染み渡りました。なに、チカラの良し悪しはこの際問いません。願わくば……」

「……」

「私利私欲でなく、公平無私であらんことを」

「無論だ」


 一礼し、それでアカメは引き下がった。

 それを見るゼイムスの視線はいつしか厳しいものになっていた。


「そうそう、ところで桃姫様」


 去り際にアカメがマユミに向かい声を掛ける。


「なに?」

「あなたの欲しているものは、今は私の連れが持っていますよ」

「……なんのこと」

「白のチカラが必要なら、あれはなくてはならないでしょう」

「……どこ」


 アカメの口の端がニヤリとする。


「希望は常に、落ちた先から見えるものです。深い深い、奈落の底ほど、見える希望は光輝く」

「難しいことを言わないで」

「足元ですよ」


 それ以上は何も言わず、アカメはその場を離れレームの元へと戻ってきた。


「収穫はあったかね?」

「いくつか確認できました」

「ほう」


 ふたりは人目を避けテラスへと移動する。


「ゼイムス皇子はおいくつですか?」

「三十五ぐらいではなかろうか」

「人間として男盛りであることは認めますが、綺麗すぎませんか?」

「綺麗?」

「端正すぎます。苦労の割に老け込むこともなく、シミやシワもありません。白髪もです」

「それが間近で見たかったのかね?」

「幼子が盗賊都市へ流れ着き、幹部にまで出世する。幸運が過ぎますよ。それであの若さと美貌まで持つなどと」

「たしかに。大した超人ぶりだな」


 ジッとアカメは遠くから今一度、ゼイムスの姿を見つめ直す。


「それが気になるのかね?」

「……私はただ……」


 小さくつぶやく。


「人形のような男だと……思いまして」


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