表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: あずえむ
第一章 姫神・放浪編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/721

030 一触即発

 昼に小一時間ほどの休憩をはさみ、一行は強行軍を続行した。

 霧雨とぬかるんだ地面、そしてけたたましいセミの鳴き声に、一行は大幅に体力を奪われることになってしまった。

 あまり距離を稼ぐこともできないまま、やがて日は沈み、うっそうとした木々と淀んだ沼のほとりで一晩を明かすことになった。


「うへえ。今夜はここで野宿かい」


 インバブラが愚痴りながらへたり込む。

 アカメは荷物を降ろし、ランタンに火を灯す。

 ウシツノは周囲を確認しつつ、食事の用意に取り掛かる。

 シオリとレイは水筒の水を飲み干し、手拭いで汗を拭きとっていた。


 ヌマーカとタイランは周囲を巡りながら枯れた枝を探し、拾い集めていた。


「ふむ。沼の周りはうっそうとした木々が生い茂るのみ、か」

「そうじゃのお」


 ヌマーカは何本ものツタを切って束ねている。


「ま、雨は止んでくれたし、そう悪いことばかりでもないかの」

「まったく」

「……のう、タイラン殿」

「なんです?」

「アユミ……とは、何のことかのう?」

「…………!?」

「昨夜の火線の迸り、それを見てお主がつぶやいたのだが」


 押し黙るタイランと、しゃがんだままツタを束ねるヌマーカの間に沈黙が流れる。


「……タイラン殿。お主が何らかの密命を受けて、この地に来ていることは承知しておる。クァックジャードは各地の調停を担う存在でもあるしのう」

「……」

「正直ワシらは多くを失ってしもうた。ウシツノ様やアカメといった若い衆にはまだ未来があるがな」


 そう言いつつ、ヌマーカは懐に手を差し入れ、タイランを背中越しに見やる。

 タイランは黙して語らず。ただじっと、ヌマーカの挙動に注視している。


「お主は強い。ワシよりもはるかにの。そして騎士道を重んじる心がよう見える。平時に出会ったならば、きっと良き友となれたことだろう」

「……」

「話してはくれぬか……でなければこれ以上、お主を連れて行くわけにはいかぬ」


 ヌマーカが懐に手を入れたまま立ち上がる。

 タイランも手に持つ枝の束を地にばらまく。


「断っておくが、水仙郷へのルートはワシしか知らぬ。ワシなしで追手から逃げ切るのは難しいぞ」

「……」

「…………やむなしか」


 ヌマーカが懐中で握りしめた得物を抜き出そうとした時だ。


「あ、いたいたー」

「む」

「ッ」


 一触即発の場にのんきに入ってきたのはシオリだった。


「二人とも遅いから様子を見に来ちゃいました~」

「……」

「……」

「あ、枯れ枝いっぱい落ちてる。持っていきますね~」


 シオリはタイランの足元に散らばる枯れ枝を拾い集める。


「よし。じゃあ先に行きますよ。早く戻ってくださいね。アカメさんが心配してましたから」


 そう言って皆の元へと歩きだしたシオリが不意に振り返る。


「て言っても私の言葉、通じないんでしたっけ。えへへ」


 そう笑顔を残して行ってしまった。

 タイランとヌマーカはその間、一言も発しなかった。

 シオリのニホン語は何ひとつわからなかったが、その雰囲気に見事に毒気を抜かれてしまったのだ。


「フ、フフフ。不思議な娘だ。あの娘といい、アユミといい……」

「ほっ」


 ヌマーカはタイランの笑うところを初めて見た気がした。

 やはりこやつ個人はそう悪人でもなさそうだ。

 それがヌマーカのタイランに対する評価だった。


「ヌマーカ殿。確かに私はある密命を受けている。今はそれがなんなのか、お教えすることはできぬが、悪いようにはしない。信じてほしい」


 真摯な瞳でタイランはそう語る。

 ヌマーカは懐に入れていた手を抜き、脱力する。


「ふう~。腹が減ったわい。すきっ腹で命のやり取りはしとうないからのう」


 ヌマーカもシオリの後を追って歩き出す。


「あれでウシツノ様は料理が好きでのう。きっとそれなりのものを作ってくれるぞい」


 カカカとヌマーカは笑う。


「フッ……それは楽しみですな」


 タイランも後について歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ