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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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290 迫りくる蒼


 ワゴンを押すメイドに扮したギワラは、幸運なことに誰からも呼び止められることなく、崩れた第一の塔にまでやってこれた。


「もう大丈夫です」


 ウシツノとタイランがワゴンの下から這い出てみると、そこは城内だというのに一面の赤い空の下だった。


「夕焼けだ」


 ウシツノはそう呟きながら周囲を見る。

 大きな瓦礫はそのままに、壁も天井も崩落しきった第一の塔の有り様だった。

 ここは広いエントランスだったようだ。

 上階へと上がる大階段が途中までで途切れている。


「ここからさらに上空へ飛び上がれば誰にも目撃されずに脱出できます」


 鳥人族(バードマン)のタイランがいることを念頭に置いた算段だった。


「ギワラは行かないのか?」

「せっかくなのでもう暫く城内に留まります。まだ私の正体はレーム皇子しか知りませんから」

「そうか、気を付けろよ」

「我らの今の拠点はアダイ公爵の屋敷跡地だ」

「わかりました」


 羽ばたくタイラン、その足にウシツノはしっかりと捕まる。


「行くぞ。長居は無用だ」


 赤い翼が羽ばたいて、赤い空の一部に溶け込んだ。

 飛び去る二人を見送った後、ギワラは足早に城内へと戻った。


「大丈夫かウシツノ!」

「ゲコォ~ッ」


 あまりの高さにさすがのウシツノも軽い恐怖を覚える。

 絶対に手を離してはならんと気合を入れる。


「ッ! あれは」


 ある程度の高度まで上り詰めたとき、ウシツノが地平の彼方に気になるものを見つけた。


「気になるもの?」

「というか、動きというか」


 確かめようと慎重にそちらへ向かい飛翔する。

 とうに街を越え、二人はどこまでも続く平原の上を飛んでいた。


「なんだあれは!」


 はじめ草原が波のように動いているのかと錯覚した。

 そうではなかった。

 動いていたのは獣だった。

 青い毛並みの猛獣が、群れで大移動をしていたのだ。


「バル・カーンだな。しかしこの数は」


 数十匹ですら脅威となるのに、それは平原を覆い隠すほどの大軍団であった。

 空は赤く、大地は青い。


「数えきれない。数万レベルでいますよ。しかもゆっくりと街へと向かっているような」

「そのようだな」

「退治しないと」

「この数を駆逐するなど、たとえシオリがいたとしても難しいぞ」


 文字通り、無限に沸いてきそうな獣の群れを見て戦慄が走る。


「伝えた方がいいでしょうか」

「オレたちがせずとも、早晩ハイランド側も気づくだろう。だがその時打つ手があるかどうか」


 押し寄せる猛獣の群れに飲み込まれる聖都カレドニアの姿が容易に想像できる。

 今はなす術なく、二人は街へと取って返した。


「戻るぞ。まずはアカメたちと合流だ」

「はい。そしてシオリ殿を助けに行きましょう」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「どうぞ。お受け取りください」

「よもやお前からこの箱をプレゼントされるとはな」

「ほほ、無欲の勝利とでも申しましょうか」

「どの口がほざく」


 薄暗い何処かの部屋で、変色竜(カメレオン)族のウサンバラから魔道商人チェルシーへと小箱が渡される。

 青く輝く金属でできた箱はズッシリと手に重みを伝えてくれる。


「そんな小箱がこの国では仰られるほどの効果を発揮するというのですか? 信じられませんね」

「お前が信じる必要はないさ。だが多くの民がこの箱の奇跡を目の当たりにし、そしてオレを王と崇めるようになる」


 ククク、とくぐもった笑い声を出す。

 その顔は長年見知った彼から始めて見せる暗い笑顔であった。


「ついに念願叶ったり、ですか」

「ああ。もうじきハイランドは我が手に()()。新たなる盗賊都市をこさえるのにもってこいだ」

「それはよいアイデアですね」

「チェルシー様」


 背後の闇から声がする。

 チェルシーの部下のひとりだ。


「ノーサンブリアより一報が」

「何があった」

「それが…………」


 報告を聞くうちにチェルシーの顔が険しくなる。


「馬鹿なッ」

「おやおやこれは一大事で。ブロッソ王が亡くなられましたか」


 面白げに笑うウサンバラとは対照的にチェルシーの顔は怒りに満ちる。


「最期までオレの意に背くとは! オレから全てを奪った奴だけは、この手でくびり殺すつもりであったものを」

「行くのですか?」


 立ち上がったチェルシーを見上げ、ウサンバラも問う。


「もう容赦はせん。代わりに奴の息子どもを始末してやる! そして父の無念を晴らしてくれる」


 そうして彼もまた、闇の中へと消えるように、表舞台へと出て行った。


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