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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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287 キングのハート


「撃退したのだな?」


 広い謁見の間にブロッソ王の声が響く。

 白い全身鎧はところどころ薄汚れたままだが、気にせず玉座に座り込んでいる。

 鎧と同じ、白い円柱の立ち並ぶテラスからは、眼下に街が一望できる。

 街の外周、東門の方からは先程までおびただしいほどの粉塵と雷鳴が轟いていた。


「被害は?」

「それが、なんとも奇跡的と申しましょうか。東門の城壁は一部が破壊されましたが、人的被害は軽微だと」


 居並んだ廷臣たちはブロッソ王に対し恐る恐るそう報告した。

 南アップランド戦線からの敗走に畳み掛けるかのようなバル・カーンの襲来。

 さらには昨日(さくじつ)、王城ノーサンブリア第一の塔崩落事故。

 数日前の末子ゼイムス二世誕生によるお祝いムードも瞬く間にかき消されてしまった。


「エスメラルダ軍はどうしている?」

「聖都カレドニアの南方およそ十キロ地点に展開したまま動きはありません」

「パペットは?」

「謎の一斉行動の後、完全に停止しました。復旧の目途は立っておりません」


 奇妙なことに数刻前、突如城中のパペットが行動を停止し、それきり物言わぬガラクタと化してしまった。

 わずか数ヶ月の間にこの国の労働力、軍事力を担う存在となっていたパペットであるが、その動力源はたったひとりの女によるものであった。


「マユミはどこだ?」

「わかりません。つい先ほど入った報告によりますれば、その……」


 言いにくそうに口をつぐむ。

 しかし王はすでにその報告は聞いていた。


「銀姫と共に姿をくらました……か」


 力なく玉座に背をもたれさせる。

 目を瞑り何度か息を吐く。


「どうしてこのようなことになった」


 悪夢なら一刻も早く覚めたい気分だった。

 言い訳に聞こえるだろうが、この数ヶ月、なにやら正常な判断が下せなかった気がしている。


 〈パペット〉という無限の()的資源を手に浮かれていた。

 財政的に困窮するハイランドを救う奇跡であるとも思われた。

 だがそれはとても危ういもの。

 異世界から訪れた女ひとりを頼るなど、大国の為政者としては常軌を逸している。


「だから、どうしてこうなった」


 もしや自分もマユミに洗脳されていたのか。

 万物を操る異能力者だ。

 人心を操るぐらい訳はあるまい。

 事実、魅入られていたのはこの場にいるほぼ全員だ。


「舞が、見たいな……」


 よくここで、マユミの舞を見ていた気がする。


「ああ、あるいはあれが……そうだったのか」


 呆っとする国王と居並ぶ廷臣たち。

 マユミが去って、まるで抜け殻のようだった。


「父上! 今戻りました!」


 がなりながら入ってきたのは第一皇子のトーン・ウォーレンスであった。

 バル・カーンの襲撃と、雷鳴の轟きを聞き、わずかな騎士を引き連れ飛び出していったのだ。


「トーン。そういえば、お前は歌舞宴曲などくだらぬと、いつもマユミの舞を見ずにいたな」

「なんのお話ですか。そんなことより不審者を連れてまいりました。是非とも今すぐに断罪いただきたい者たちです」

「断罪?」


 トーンが部下に命じると、謁見の間の入り口から騎士たちに連れられて、二人の亜人が現れた。

 刀を持ったカエルと、赤い出で立ちの鳥だった。


「誰だ?」

「賊です。このカエルが第一の塔を破壊し、バンを連れ去ったのです」

「もうひとりは?」

「こっちは……」


 トーンが何かを言う前に、その赤い出で立ちの鳥人族(バードマン)が先に口を開いた。


「王の御前にて(こうべ)を垂れぬ非礼をお許し願おう。我が名はタイラン。クァックジャード騎士団(オーダー)騎士(マスター)であります」

「クァックジャード」


 居並ぶ廷臣たちがざわついた。

 各地の戦争、紛争の調停役を担っているクァックジャード騎士団は、このハイランドでは少々印象が悪い。

 その原因は三十一年前に終結した亜人戦争による。

 この戦争の最大の戦犯国として、ハイランドはクァックジャードの調停により多額の戦争賠償金を課されたのだ。

 その支払いはいまだ完済には程遠い。


「常に中立、どの勢力にも屈さないクァックジャードか。で、そちらのカエル殿がかしずかないのはどうしてだ?」

「オレは……」

「この者はカエル族の長老、大クラン・ウェルの遺児である。次期カエル族頭領として、一国の王と比肩しうる者だ」

「ほう。これは失礼した。名をお聞かせ願えるか」

「クラン・ウェル。親父……父の名をいただいた……ました」


 慣れない作法に舌を噛みそうになる。


「大クラン・ウェルとはあの水虎将軍の事か」


 トーンが割って入る。


「知っているのか? 父を」

「戦史教本に載っていた。亜人連合側では随一の剣豪にして人格者でもあったと」

「そうか」


 カザロ村から遠く離れたニンゲンの国にまで、その名が轟いていた。

 父親の巨大さに嬉しい反面、ウシツノはその名の重さに身が引き締まる思いがした。

 何せ今、自分は罪人のように扱われようとしているのだ。


「ところで、この者たちの話を聞く前に、トーンよ。襲来したバル・カーン共はどうした」

「撤退したようです」

「お前がやったのか?」

「……いえ。私が現場に着いた時にはすでに決着がついておりました」

「では東門の衛兵隊のみで成し得たのか?」

「…………いいえ」


 それ以上口を開かないトーンからブロッソ王は二人の亜人に目を移す。


「実はな、報告は先に受けている。そなたらが加勢したおかげで撃退できたのだそうだな。そしてその場にもうひとりいた」


 はぁっ、とひとつ息を吐く。


「姫神が三人も現れた。ひとりいれば、世界が変わるという姫神が」


 事実、桃姫ひとりでこの国の在りようは変わりつつあった。


「そして、先ほどから聞こえてくるこの怒号」


 そう。

 この謁見の間には街を一望できるテラスが直結している。

 そこからずっと、大勢による、訴えるかのような声が聞こえているのだ。


「トーンよ。お前が連れてきたのだ。あの大勢の民衆は」


 ウシツノを連行しようとする第一皇子の行動に、異議を唱えた民衆が今もまだ城の前で人だかりを作っているのだ。


「彼らは気づいていないのです。この国を繫栄させることができるのは誰なのかを」

「誰なのだ……」


 絞り出すような声でトーンを問い詰めるブロッソであったが、何やら顔色がおかしい。


「ち、父上?」

「おい……」

「むっ」


 全員が異常を察した時、ブロッソは荒い呼吸をつきつつ、鎧の胸当てを掻きむしりながら、玉座からずり落ち意識を失っていた。


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