表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

285/723

285 銀色


 一瞬――。


 斬り飛ばされた右腕を、マユミは呆然と見上げていた。

 宙を舞う右腕には、しっかりとシオリの神器シャイニング・フォースが握られていた。

 肘から先を消失したまま、反射的に尾の一撃を襲撃者に見舞う。

 鋭い穂先と化した尻尾がケイマンを打ち払った。

 どこまで吹き飛ばしたかはわからない。

 マユミの意識は斬り飛ばされた自身の右腕に奪われていたから。


「――ッ!」


 その一瞬を逃すはずがあろうか。

 赤い鳥のレイピアが、鋭くマユミに突き出された。

 振り向いたマユミの顔を覆う呪われた蝙蝠マスクにレイピアが突き立つ。


「ぎゃぅッ」


 眉間にヒットした瞬間、バチン、と強い衝撃が走り、マユミが悲鳴を上げる。

 だが貫通とまではいかず、レイピアもまた弾き返されてしまった。


「ぐっ! ただのマスクではないッ」


 衝撃により痺れた右手から左手にレイピアを持ち替え、タイランは油断なく構えなおした。

 そのタイランの背を跳び越えて、ウシツノがマユミに向かい斬りかかる。


「ガマ流刀殺法! 質実剛剣ッ」


 空中から振り下ろした自来也の斬撃は、よろめいているマユミを完璧に捉えていた。

 ウシツノは確かに見た。

 目を見開き死を覚悟したマユミの顔を。

 ウシツノは確信した。

 この一撃で勝負が決することを。


「ッ!」


 すぐに異変を察した。

 マユミの足元、石畳の隙間から何かがジクジクと染み出してきた。

 それは液体のようだが銀色で、どうにも鈍く光っていた。

 その銀色はみるみる大きな水溜まりとなって、やがてマグマのように勢いよく噴き出した。


「ぐあっ」


 不思議なことにその銀色は、液体のようでありながら鋼鉄の固さでもってウシツノの一撃を防ぎマユミを守った。


「……来てたの?」


 失った右腕を抑えながら、脂汗を浮かべたマユミが銀色に語り掛ける。

 柱のように吹き出した銀色が割れて、中からひとりの女が顔を出した。


「助けてやったのだ。感謝したらどうだ。桃姫」

「どうせ私のためじゃあないでしょう。銀姫」


 現れたのは、全身を鏡のように光らせた銀色のスーツをまとった女。

 姫神銀姫、〈鋼鉄神女(メタル・ウーズ)〉、秋枝ナナであった。


「ぎ、銀姫だって!」

「銀姫……エスメラルダの姫神か」


 ウシツノとタイランに緊張が走る。


「何しに来たのよ?」

「あれが白姫か」

「……そうだけど」


 マユミの質問には答えず、ナナは重装人形(アーマーパペット)に担がれたままのシオリを見る。


「とろとろとパペットの行進に付き合うつもりはない。行くぞ」

「ヒドイ言い草」

「きゃあッ」


 シオリの悲鳴が聞こえた。

 いつの間にやら銀姫の足元から銀色の水溜まりが広がりを見せ、シオリを担いだパペットにまで到達していた。

 その足元がまるで底なし沼のようにパペットごとシオリを飲み込み始めたのだ。


「シオリ殿ッ」


 ウシツノは全速力でシオリの元へと駆ける。

 だが間に合わない。

 目の前でシオリは完全に銀色の沼に沈み込んでしまった。

 後を追いかけようとすかさずウシツノもその沼へと飛び込む。


 ガギンッ!


()ェッ!」


 しかしその銀色は鉄のように固く、ウシツノはしこたま額を打ちつけ軽い脳震盪を引き起こしてしまった。


「ではさらばだ」


 ナナの冷たい声が聞こえてくる。

 見ればマユミの腰に手を回し、二人とも足元から沈み込んで行くところであった。


「待て」


 タイランが二人に斬りかかるが、ウシツノの時と同様、液体に見える銀色は大きく波立ち、固い壁と化していた。

 足止めもできず、二人の姿が完全に飲み込まれると、取り残された多数のパペットが一斉に活動を停止した。

 もはやそれらはただの金属片にすぎず、押せば簡単に倒れる伽藍洞(がらんどう)であった。


「桃姫の魔力が途切れた……すでにこの地にはいない、という事か」


 レイピアをしまいながらウシツノの元へと歩み寄る。

 そうしながらマユミに吹き飛ばされたはずのケイマンを探したが、どこにも見当たらなかった。


何処(いずこ)へか消えたか。……立てるか、ウシツノ」

「は、はい……」


 まだ少しクラクラする頭を押さえながら身を起こす。

 そこへこの東門に詰める衛兵隊のシド隊長が近づいてきた。


「おふた方のご助力、感謝します。そして、我らが不甲斐ないばかりにあの少女を……申し訳ない」

「いや……そんなこと……」


 隊長らしき男の畏まる姿に謙遜はしたが、だがシオリを連れ去られたウシツノの落胆は大きかった。


「顔を上げるんだ、ウシツノ。まだ何も終わってはいない。あの二人はシオリの命を奪おうとはしていなかった」

「はい」

「ところで……」


 遠慮がちにシド隊長が声を掛ける。


「あの剣は、その少女の物であろう?」


 シドの示す先、マユミの斬られた右腕が握ったままのシオリの剣が転がっていた。

 気味悪がって誰も近づこうとしていない。


「それと、パンドゥラの箱がどうとか? まさかと思うが、あれは本物なのか?」


 シドも箱はおとぎ話の産物だと信じていた。

 しかし姫神という超常の娘たちが話す以上、本物だとして何の不思議があろうか。


「そうだ。ハクニーの奴、上手く回収できただろうか」


 ハクニーの走り去った先に目を向けると、人々を脇に押しのけながら騎士の一団が広場へと入り込んでくるのが目についた。


「やれやれ、今更援軍のお出ましか」


 しかめっ面を隠そうともしないシド隊長だったが、先頭で馬を駆る人物を見て表情が変わる。


「あ、あなた様はッ」

「獣どもが押し寄せ派手な戦闘を繰り広げていたようだが、まさか貴様らだけで収束したというのか?」

「こ、これは、トーン殿下! 殿下御自らご助勢にお越しいただけるとは……」


 慌ててシドが片膝を着く。

 その一団を率いていたのはハイランド王室第一皇子トーン・ウォーレンスであった。


「貴様がこのここの隊長か。状況を説明せよ」

「は、はいッ。実はそちらのおふた方と、ある少女のご助力を得まして……」


 必死に説明を試みようとするシドの背後、そこにいるカエル族とトーンの目が合った。


「貴様はッ」

「あ、あんた……」


 先日、煮え湯を飲まされた者と飲ませた者が、早くも再会する形となってしまった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「あれぇ……みつからないよう……どんだけ無茶苦茶な肩してんのよう、もうッ」


 人気のない通りでハクニーはひとり、焦り、動揺し、困惑していた。

 確かにこの辺りにパンドゥラの箱があるはずだった。

 大きな放物線を描きながら落下していくのを、必死になって目で追いつつここまで来たのだ。


「絶対この辺に落ちたと思うんだけどなあ」


 もう何度も見まわした路地裏を見る。

 脇の側溝や植え込みの中、ゴミ置き場に人家の屋根まで、それこそくまなく探したものの見つからない。


「そんなはずないのに……この辺誰もいなかったよね。どうして見つからないのぉ」


 焦りの色を隠さぬまま、ハクニーは路地を曲がり、隣の区画へと探索範囲を広げていった。

 そのままここへハクニーが戻ってくる気配もない。

 息を殺してさらに数秒、様子を見届ける。


「……行っちゃいましたか。だいぶ粘りましたね」


 すると誰もいないはずの路地裏に、ぼんやりと人影が浮かび上がった。

 いや、ヒトではない。


「これがパンドゥラの箱で間違いないようです。チェルシーに大きな貸しができますね」


 青い小箱を手に、変色竜(カメレオン)族の男がそこに立っていた。

 彼は周囲の色に同化して身を隠すことができる。

 彼はウサンバラ。

 あの名高い盗賊都市マラガを牛耳る盗賊ギルドの現マスターである。

 ハイランドの盗賊ギルドとの()()のため、彼はこの街に来ていたのだ。


「しかし、ひとりでも手を焼く姫神が、まさかこの地に三人もいるとは。はてさて、チェルシーは上手いことこの国を掌握できるんですかねぇ。ま、どちらにせよ私に損はありませんが。クフフフ」


 嫌らしい笑みを残したまま、ウサンバラは箱を手に足早に立ち去っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ