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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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274 真相


「な、なんだあ? この人だかりは」


 バンを連れて闇医者の青空診療所に戻ったウシツノとレッキス。

 だがそこでの予期せぬ光景に驚いていた。

 だいぶ夜も更けたというのに、診療所には何人もの人々が集まっていたのだ。


「か、患者か?」

「あの闇医者がそんなに人気者とは思えないんよ」


 しかしこの人だかり、みな大なり小なり怪我を抱えているのが見てわかる。


「傭兵か? ハイランド軍についた傭兵が多いみたいだな」

「でも避難民らしい人もいるみたいよ」

「あ、あそこ! 光ったでし」


 ウシツノの頭に乗っかったバンが指差す。

 列をなす人々の先頭だろうか、ボゥ、とかすかな光が瞬いた。


「まさかあの光」

「行ってみよ」


 列の横を駆け抜けたウシツノはその光を見て確信した。

 案の定、光のもとはシオリだった。

 傷病兵らしい男の傷口に手をかざすと、淡い光がみるみる傷を癒していく。

 どう見ても何針もの縫合が必要に思える裂傷が、あっという間に完治していた。

 男は何度もシオリに頭を下げる。

 困ったような、弱々しい笑顔でシオリはそれに応えていた。

 すると次に待機していた、これまたひどい怪我をした男がシオリの前に立つ。

 今度の男は肩を押さえ、顔には脂汗を流している。

 ひとわたり様子を見るとまたしてもシオリが光る手をかざす。

 同様の奇跡がまたしても目の前で起こる。

 周囲の人々がそれを食い入るように見つめていた。

 そんなシオリの背後にはハクニーと、この場所の主、ドクターダンテが見守っていた。

 ハクニーはシオリを支えようとしているが、ダンテは何を思っているのか。


「戻ったか、ウシツノ」


 立ち尽くしていたウシツノに声をかけたのは赤い鳥、タイランであった。


「タイランさん、これはいったい」

「ああ、実はな……」


 無事な様子を見てとったタイランは、早速ことの顛末を話してくれた。

 最初は目の前で転んだ子供の擦り傷を治してやっただけだった。

 するとほどなくしてその子供が怪我をした母親を連れて戻ってきた。

 母子はウラプールからの避難民だった。

 大した怪我ではなかったが、その母親も治してやると瞬く間にシオリの噂が難民キャンプに広まってしまった。


「それでこの有り様ですか」

「アカメ!」

「シャマンなんよ」


 ちょうどよく話の終わるタイミングで、アカメとシャマンたちが帰って来た。


「みんな無事か」

「お前らもな。そいつがバンか? クーンの言った通りだな」


 シャマンたちがしげしげとバンを見つめる。

 注目ぶりに照れたのか、バンはウシツノの後頭部にずり落ち身を潜める。


「なんで今さら照れるんよ。恥ずかしいのはあっちの花嫁姿の方なのに」

「うるっさいにゃレッキス」

「私やレッキスも大概だと思うぞ」


 クルペオが諫める。

 メインクーンはいまだウェディングドレスのままだし、レッキスとクルペオもメイド服のままだ。


「ん? ギワラは?」


 ウシツノがひとりだけ姿の見えないギワラを気にした。


「ああ、あやつはせっかくなのでメイドのまま、城で探りを入れる事にするそうじゃ」

「大丈夫なのか?」

「何かあればすぐに脱出すると言うとった」

「とにかく着替えたいにゃあ!」


 悲痛なメインクーンの要望もあって、とにかくこの場を引き払うことにした。

 とはいえそれから小一時間、ようやく最後のひとりが元気に帰っていくまで、シオリの青空(と言ってもすでに深夜になるが)診療は続いたのだった。


「ごめんなさい。お待たせしました」


 少し疲れた様子のシオリだが、すぐにここを移動すべき、と待ちかねたかのように、一行はこの場を引き払った。

 これだけの人だかりができてはすぐに追っ手が現れるだろう。

 協議の末、ドクターダンテの生家である、あの幽霊屋敷に潜むことになった。


「仕方あるまい」


 ダンテは渋々といった風であったが了承した。


「シオリ殿。これを」

「あ、私の剣」


 ウシツノがシオリの剣、シャイニング・フォースを差し出す。


「ありがとう。ごめんね、重かったでしょ」

「いや、そうでもない。実は」


 ウシツノが頭の上に居座るバンを指差し、


「こいつがいるせいか全く重さを感じなかったんだ」

「え? どうして?」

「それはたぶん……」

「バンも姫神だったからでしね」


 白いタヌキが自分でそう答える。


「え? この子が?」





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 夜中に再訪する幽霊屋敷ほど恐ろし気な場所はない。


「ここに我々がいることはあまり知られたくありません。明かりを灯すならなるべく屋敷の奥の部屋に向かいましょう」


 手入れのされていない屋敷はいたる所が傷んでいる。

 床板が腐っていたり、壁が崩れていたり。


「上階は避けた方がいいな。少なくとも明日以降、明るくなるまでは」

「ウィペットは鎧が重たいからね」


 一階の奥に手ごろな大部屋があった。

 おそらく客人を招いて会食をするなどに使われていたのであろう。

 なかなかの広さになかなかの調度品が埃をかぶりつつ残されていた。

 各々が荷物を置き、腰を落ち着ける。

 いくつかの燭台に明かりが灯されると、全員の姿がぼんやりと確認できる距離感であった。


「さぁて、何から聞けばいいのやら」


 シャマンの言うとおり、全員疑問が山積している状態だった。


「まずはダンテさんにご報告ですね。お探しの要人をお連れしました、と」


 アカメがウシツノの頭にのさばるバンを差す。


「そうだ。闇医者先生よぉ。あんた人が悪いぜ。囚人がタヌキだなんて一言も言わなかったじゃねえか」


 シャマンがダンテに食って掛かる。


「そう言うな、猿人族(ショウジョウ)。オレも知らなかったのだ」

「知らなかった?」

「ああ。この人のことは父から聞いていただけだったからな」

「ウート・アダイ公爵ですか」


 ダンテはコク、と頷いた。


「なんでこいつを探してたんだ?」

「バンという方が聖賢王シュテインの治世に終止符を打った張本人だと知ったからだ」

「ああ?」


 全員がバンを注目した。


「この小動物が?」

「そういうことなんよ?」

「生前、父が言っていた。バンという知己を得たシュテインは、やがて人が変わったように狂気に取りつかれ、そして」

「そして?」

「……亜人戦争を引き起こした」


 沈黙が流れた。

 それぞれが言葉の意味を理解しようと脳内で咀嚼している。

 意外にも最初に声を発したのはウシツノであった。


「そういえば、お前ゴルゴダって所へ行くとか言ってよな? それ関係あるのか?」

「ゴルゴダだって!」


 シャマンたちが腰を浮かせる。

 思わず大声まで発してしまった。


「そうなんよ。私もびっくりした。まさかここでこの言葉が出てくるなんてさ」

「ゴルゴダ。そうか、ゴルゴダというのですか」


 アカメは以前解読していた古代書の一節を思い出していた。

 同時にネズミの言葉も思い出す。


 姫神について知りたければ、亜人戦争について調べてみるといいかもしれない。


「どうやら、私たちは知らず真実に迫っていたようですね」


 アカメがバンに向き合う。


「さあ、知っていることをすべて、話していただきましょう」


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