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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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263 ウェディングドレスの盗賊

登場人物紹介


ウシツノ    カエル族長老の息子。本名は小クラン。

アカメ     カエル族一の博識。

レーム     三皇子の次兄。学問好き。くの字のヒゲ。

メインクーン  ネコマタの盗賊。弓の名手で糸使い。


 腰を落とし、たわめた膝に力を溜め、跳躍する。


 シオリの神器が置かれたテーブルを跳び越え、ウシツノは純白のドレスを着た女盗賊に飛びかかった。

 そのドレスはウェディングドレスだろうか。

 頭から白いベールを被っているため、相手の表情が見えない。


「ッ! 待て」


 その女盗賊は慌てた様子で制止の声を発したが、ウシツノはそれを無視して愛刀〈自来也〉を引き抜くと横薙ぎにする。

 女盗賊は背中に隠していた短刀で防御した。

 柄頭(ポメル)(ガード)も棒状で平行しており、柄の形状は真っ直ぐ、刃はくさび型の両刃で薄い。

 

「バゼラートか」


 短刀の形状を見てウシツノが判断する。

 短刀よろしく刺突に向いているが工具としても有用で、戦闘から食事にまで使える万能の剣だ。

 野外調理が得意というウシツノの意外な見識がここで発揮される。


(どちらかと言えば冒険者向きの短剣だ。街の盗賊ではないのか……)


 しかし相手の得物がわかれば対処もしやすい。

 横薙ぎは防がれたが構わず力を込めて振りぬく。

 普通の刀の三倍は分厚い自来也と、カエル族にしては膂力に優れるウシツノだ。

 力比べで女盗賊に後れを取ることはない。

 ものの見事に女は吹っ飛ばされ横倒しになる。

 すかさず眼前に自来也を突き付けることで動作を封じ観念させた。


「貴様は何者だ?」

「何者か、だって?」


 女は少し怒った声で返し、顔を覆い隠すシルクのベールをはぎ取った。

 乱れたミディアムボブの髪に猫耳がピンと逆立っている。


猫耳族(ネコマタ)!」

「私だよ私! お前シャマンと一緒にいたカエルだろ? 私のこと気付かなかったのォ」


 それは紛れもなくシャマンたちの仲間、猫耳族(ネコマタ)の盗賊少女メインクーンだった。


「え? 会ったことあったか?」

メイド・イン・ヘブン()でちょっとだけ会ったろ」

「そうだっけか?」


 実は初めてあの手の店へ行ったウシツノは、緊張で周囲が見えていなかった、とは口が裂けても言えないのであった。


「その人がメインクーンさんですよ、ウシツノ殿」

「シャマンたちが助けに来たのはあんただったのか」


 アカメに紹介されてようやくウシツノは刀を納める。


「まったく、殺されるかと思ったにゃ」

「ちゃんと峰打ちにしてたさ」


 刀の峰をポンポンと叩く。


「撲殺される勢いだったにゃッ」


 ドレスの裾をはたきながら起き上がり抗議する。

 その彼女の着るドレスだが、どう見ても純白のウェディングドレスにしか見えない。

 それもとびきり豪華なプリンセスタイプだ。

 肩は大胆に露出しつつ、スカートはコレでもかといっぱいに広がっている。

 おそらく尻尾が邪魔でくっきりと脚線美が出るマーメイドタイプは避けたのだろう。


「に、似合ってるじゃないか。ドレス。結婚するのか?」

「しないにゃ! 殺すぞ!」


 機嫌を取ろうと放ったウシツノの言動だが、実に火に油だったようだ。


「そうか、お前はクネートが連れてきた五番目の嫁だな」


 それまで成り行きを見ていたレーム皇子がここで割って入る。


「お前たち知り合いであったか」

「ご、五番目ですか!」

「なんだ、やっぱり結婚するんじゃないか」

「し・な・い・にゃー!」


 キシャーッとメインクーンが喚き散らす。


「そうがならなくとも良い。今回のあ奴めは本気であった。五番目とは言うたが間違いなく過去一番であるそうな」

「私はネコマタにゃッ」

「たしかに。ハイランドの長い歴史において亜人が王家に連ねたことはない」

「そうじゃなくてッ」

「うむ。どういうわけか弟は貴族の令嬢に興味を示さず、下々の女ばかりを寵愛する(へき)がある。まして此度は亜人。さすがに父も渋っておった」


 くの字の髭を摘まみながらメインクーンを見つめる。


「だがどうか諦めないでほしい。伝統に囚われていては進歩は望めぬ。吾輩も応援しよう。異種族婚、大いに結構じゃないか」

「私は諦めてほしいんにゃ……」


 何かを勘違いしたまま語るレーム皇子にゲンナリする。


「それで、花嫁がここでなにをしてたんだ?」


 今度はウシツノが話を進めようと割って入ってきた。

 わからず屋ばかりの相手にメインクーンは抗議の声を上げるのをついに諦めた。


「頼まれたにゃ。白姫の神器を持ってきてほしいって」

「頼まれた? 誰にですか?」

「白い小さな……しゃべるタヌキにゃ」

「それはバンだな」


 レームの回答にメインクーンは頷く。


「それこそが先ほどお前たちに紹介してやろうと思っていた者だ」

「タ、タヌキなんですか?」


 バンとはおそらくダンテに救出を頼まれた者と同一人物と思われる。

 しかししゃべるタヌキとは予想外もいいところだ。

 ウシツノとアカメは目を見合わせるが、皇子に本来の目的を知られるのは不味いと思い、今は口をつぐむ。


「不明である。やけに博識なのだが、自身については何ひとつ語ろうとはせんのだ」

「それがどうしてシオリさんの神器を欲しがるのでしょう」

「ふむ。そも神器とはなんぞや?」


 レームの疑問ももっともだろう。

 アカメですらシオリと出会うまで姫神という存在を知らなかったのである。

 どんなに学識豊かでもこれが当然の反応だろう。


「ここにある、この異様に長く白い剣がそうであるか」

「え、ええ、まあ」

「ふむふむ。確かにこれは美しい。欲しがるのも頷ける」


 少々厄介だ。

 この剣とそのタヌキとやらを持って帰りたい、と言って快く承知してくれるわけがない。

 いっそ気絶させて……。

 ウシツノがそう考えていると、


「ふむ。これが欲しいのだな。よかろう。持っていくがいい」

「え?」

「はっ?」

「にゃん!」


 三人とも目が丸くなる。


「吾輩が求めるのはあくまで知識だ。それは吾輩自身の快楽でしかない。無責任かと思うかもしれんが、ほれ、吾輩はこの城では変人で通っておるからな」

「い、いいのですか?」

「察するにこれは元々そなたらの物であろう。盗品が我が城にある、というのはよろしくないと思わんかね? 吾輩はそう思うぞ」


 バカ正直だ。

 王族ゆえの余裕なのか、根っからのお人好しなのか。


「まあ、その、代わりと言ってはなんだが、そなたらの知る異世界の知識を多少なりと教えてもらえれば、吾輩は嬉しい」

「は、ははは」

「皇子。そのお望みにはできうる限り、お応えさせていただきましょう」


 ウシツノとアカメは知らず、この変人に心を開いていることを自覚し始めていた。

 神器とメインクーン、そしてバンという囚われ人まで紹介してもらえるとは、こうもトントンとうまい具合に進むものかと気が緩んだ時だった。



 ガッシャアアァァァァアン!



 突然部屋にある大きな窓が砕け散った。

 外側から何かが飛び込んできたのである。

 ここは王城で三番目の高さを誇る第三の塔、その頂上付近である。

 おいそれと窓の外をぶらつく者などいようはずがない。


 だが飛び込んできたのは人だった。

 砕けたガラスの上を転がりながら、やがて壁にぶつかりそいつは止まった。

 この城のメイド服をまとった女だ。

 メイドが窓をぶち破って侵入してきた。


「ん? あ、あれ? レッキスにゃ。なんでメイド服?」

「イツツ……、助かったぁって、あれ? メインクーン? なんでウェディングドレスなんよ?」


 窓から飛び込んできたのは、小脇に小さな檻を抱えたメイド服姿のレッキスなのであった。


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