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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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259 同窓生


 すれ違う兵士やメイド、そして貴婦人たちは、皆一様に黙礼だけして通りすぎて行く。

 それは(うやうや)しく、時には優雅に、時には典雅に。

 だがウシツノもアカメも気付いていた。

 通りすぎたあと、皆例外なく一旦立ち止まりこちらを盗み見るのである。

 兵士やメイドは眉をひそめながら、貴婦人方ははヒソヒソと小声で言葉を交わしながら。

 その一連の流れを何度か目にしたウシツノがアカメにそっと耳打ちする。


「アカメよ。もしかしてオレたち、目立ってやしないか?」

「そりゃ目立ちますよ。皇子と歩いているのですから。誰も無視などしてくれませんよ」

「そうなんだけど、そうじゃなくてだな」

「二本差しの者が言うのは吾輩への態度についてであろう」


 耳ざとく会話を聞き取ったレーム皇子が割って入る。


「吾輩はこの城では厄介者の変人扱いであるからな。突然カエルを連れて歩けば、皆今ごろ今度はなんだと陰で笑っておることであろう」


 それに対し心傷めると言った風は微塵も見えない。


「そうなのか? そいつは申し訳ないな」

「んん?」


 ウシツノの発言にレームはいささか驚嘆した。


「何に対して申し訳なく思うのだ?」


 振り返りつつ尋ねてくる。


「いや、オレたちを連れてるせいで笑われるのだろう? おま……殿下にしたら不本意ではないかと思って」

「愚かな。自らを卑下するでないぞ。笑うものこそ笑われることを自覚せよ」

「は、はあ」


 ピン、と右にはねた髭を摘まみながら、再びレームは前を向く。


 やがて第三の塔の上層階にまでやって来た。

 廊下や広間の装飾が見るからに華美絢爛を増してきた。

 ここは大事な客のために用意されたフロアらしい。


「ところでそなたらの名をまだ聞いておらんな」

「アカメです」

「ウ、ウシツノ……はあだ名で、本名はクラン・ウェルだ」


 名を知られていいものか、一瞬躊躇したが答えてしまった。

 ウシツノに至っては聞かれもせずに本名まで。


「出身は?」

「カザロだ」

「知らぬ」

「ぐ……」


 カエル族が住まうカザロは西の辺境大陸のさらに山奥だ。

 知られている方が珍しい。


「二人ともか?」

「そうですが、私は十年ほどアイーオの学院に寄宿しておりました」

「なに! アイーオとな」


 レームの反応が先ほどと違う。


「ではお主は吾輩の後輩という事になるな」

「え?」

「吾輩も若輩のおり、数年世話になったのだ。あそこは亜人ばかりだったゆえ苦労した。が、楽しかったな」


 急に過去を懐かしむ遠い目になる。


「何を学んでおったのだ?」

「主に術技(マギ)についてです。世界中の、失われたに等しい術技(マギ)を学問として調べておりました」

「ふむ。吾輩がもっとも興味を引いたのは考古学であった。だが帝王学に必要ないと無理矢理帰国させられたのが今も無念でならない。スイフト先生を存じておるか?」

「私もスイフト先生の教え子です。そういえば珍しい人間がいたと伺ったことがありますが、そうですか。あなたでしたか」

「先生は息災であろうか」

「今は五氏族連合(フィフス)の評議連で相談役に就かれてるそうです」

「そうであったか。世事には疎くてな」


 何組かのメイドとすれ違う。

 礼節をわきまえているようで、先ほどまでのような失礼な態度は微塵も見せない。

 階層が上がると教育も行き届くのだろうか。


「ふむ。気に入ったぞ、お前たち。あとで面白い者を紹介してやろう」

「面白い者?」

「そうだ。変わった生き物でな。吾輩が生まれた頃からこの城におるのだが、存在は秘匿とされているのだ」

「秘密ってことか? どうして」

「祖父である聖賢王のご遺言であるそうだ。父もそれだけは忠実に守っておられる」

「誰なんです?」

「バンという名でな。人語を解す小動物なのだ」


 バンとは聞き覚えのある名だ。


「おい、アカメ。もしかしてそれって」

「ええ。ダンテ殿の依頼にあった囚われ人と同じ名ですね」

「どういうことだ? 高貴な身分のヒトではないのか?」

「おお、着いたぞ。ここが桃姫の部屋である」


 ふたりが疑問の答えに行きつくより前に、どうやら目的地へとたどり着いてしまったようだ。


「ここか」


 ゴク、とウシツノが息を飲む。

 桃姫も出兵していることは調べ済みだ。

 ここにはいない。

 それはわかっているが転身した姫神の強さを知っているだけに緊張感は隠せない。


「か、勝手に婦女子の部屋に忍び込んでいいものか……」

「今さらなに言ってるんです、ウシツノ殿。桃姫のいない今しかチャンスはないのですよ」

「わ、わかってる」

「おや、鍵がかかっていないな」

「え!」


 ガチャ


 ウシツノの戸惑いなど一顧だにせず、レームはとっととノブを回し扉を開けてしまった。


「あっ」

「アァッ」


 鍵が開いていた理由はすぐにわかった。

 部屋の中には先客がいたのだ。

 きらびやかなドレスをまとった貴婦人がひとり、部屋の真ん中に置かれたテーブルの()にいた。

 中腰で、テーブルに置かれたある物を持ち上げようと踏ん張っていたようだ。

 貴婦人としてはとてもはしたなく見える。


 入室した三人に気付き急いでテーブルを降りる。

 洗練された身のこなしを持つ女だ。

 しかも右手を背中に隠している。要注意だ。


「盗人か」


 ウシツノの第一声にどの口が言うのかと思いつつ、アカメは目の前のドレスを着た女を注視した。

 女が持ち上げようとしていたのは(まご)うことなきシャイニング・フォース。


「シオリさんの神器です。やはりここにあった!」

「まさかそれを狙う者が他にもいたとはなッ」


 すぐさまウシツノが女に飛びかかった。



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