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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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258 トイレの皇子さん


「なあ、おい、アカメよ。いいのか? あんなにあっさりと」


 前を行くアカメに追いついたウシツノが声をかける。


「なにがです?」

「なにって……」

「これ以上話し合うことはないでしょう。彼らは彼ら。我々は我々です」

「そうではあるが……」


 アカメが歩みを止めると、ウシツノに顔を近づけ真剣な顔で囁く。


「いいですか。これから先、脱出するまで彼らのことを私たちは何にも知りません。いいですね?」

「何にも、って?」

「彼らの氏素性も目的も、なんなら存在さえもです」

「なに言ってるんだ。オレたちはもう仲間……」


 発言を遮るようにアカメが口元に指を立てる。


「いいですね。私たちは彼らの事は何も知りません。捕まった時はそう言うのですよ」

「ッ!」


 ようやくウシツノにもアカメの言わんとしていることが分かった。


「よろしい。では行きましょう」


 再びアカメが歩き出す。


「しかしアカメよ。本当にお前の頭の中には城内の地図が入っているのか?」

「もちろんです。この城は十本の塔からなる、といってもそれぞれが独立している訳ではありません。ほぼひとかたまり、一本の巨大な塔と見てもかまわないでしょう」

「ふむ」

「ようは最も高い部分に王族が住み、三番目に高い塔の中腹辺りに謁見の間や執務室があるというだけの事です」

「お、おう」

「ですから各塔と連結している城の中腹辺りを調べて回るのがまずは妥当だと思いますよ」

「なるほど。わからん」


 すでにウシツノは考えることを放棄している。

 少しジト目でウシツノを見ながらアカメはいろいろ思案する。


「まずは厨房へ行ってみましょう。桃姫の食事を配膳する者がいるはずです。メイドなら話も聞きやすい」


 抵抗されても抑え込めます。とアカメは付け足す。

 あまりメイド相手に手荒なことはしたくないな、と思いながらも考えるのを放棄したウシツノに反論する権利はない。


「待て。アカメ、誰か来るッ」

「隠れましょう」


 通路の先から足音を聞き取ったウシツノが、アカメと共に近くの扉を開け身を潜ませる。

 閉めた扉に耳を押し当て気配を窺う。

 数人の騎士たちが会話を交わしつつ通り過ぎようとしていた。


「まったく、どこへ行かれたのだ」

「執務室にも書庫にもおいでになりませんでしたね」

「結局ブロッソ王について出陣されたのはトーン皇子だけか」

「戦に関心があるのはトーン皇子だけ。レーム皇子もクネート皇子も何を考えておるのやら」

「とにかく探せ。今からでも参陣していただかなくては……」

「しかし戦況はおもわしくなく…………」


 少しずつ声が遠のいていく。

 必死に聞き取ろうとより強く耳を押し当てるのだが、



 ジョロジョロジョロジョロジョロ……



 耳障りな音がしてよく聞こえない。


「アカメ、少し静かにしてくれ」

「私じゃありませんよ」


 確かにアカメはウシツノ同様、しゃがみ込み壁に耳を押し当てているだけだった。


「じゃあ……」


 二人が部屋の中に目をやる。

 そこは主に使用人が使うための男性用の(トイレ)であった。

 そこでひとり、用を足している身なりのいい男がいた。


「ん? すまんな。ついもよおしてしまい使わせてもらっている。今あける故」


 ピッピッ、と身体を震わせると下履きの前を閉めこちらを振り向く。


「おやぁ。この城にカエル族の使用人など、おったかのう?」


 男は人間族の中年であった。

 深緑色のジャケットに山高帽、ウェーブのかかった黒髪を肩まで伸ばし、鼻の下には「く」の字を横にしたような立派な髭がピン、と左右に張っている。

 少々たれ目がちのその顔立ちはどことなく現国王ブロッソに似ていなくもない。


「はて? お前たち、どこの所属だ? それとも出入りの業者かな?」

「あ、あ」

「すまんなあ。吾輩(わがはい)は学問にしか興味がない故、下々の者たちの顔までいちいち覚えとらんのだよ」

「レ、レーム……皇子!」


 ようやく絞り出したアカメの声にウシツノは驚き、男は大楊(おおよう)に頷く。


「いかにも。吾輩はレームである」

「ウシツノ殿ッ!」

「なんだ?」

「確保ォッ!」


 アカメの指令にウシツノが動く。

 前述の通り、考えることをすでに放棄したウシツノに疑問を挟むつもりはない。


「な、なんだッ、お前たちッ! コラ、やめるのだ!」


 ハイランド現国王ブロッソの次男、レーム・ハイランド・ウォーレンス皇子。三十五歳。

 第一王位継承者にして長男トーン皇子のような武勇を持たず。

 また、第三皇子クネートのような社交性と人脈も持たず。

 ただただ学問に傾倒する本の虫であり、信頼する友も、誇る武力も持たない彼が、たったひとりでウシツノに敵うはずもなく。


「ま、待つのだ。これは一体全体どういう事の顛末かね」


 軽くであるが後ろ手に縛られ、床に腰を落ち着けられたレーム皇子は、目の前で刀を突きつけるウシツノとアカメに抗議するのであった。

 いささかその抗議の声に上ずった感じがあるのは仕方あるまい。


「誰かに聞ければと思っていましたが。まさかこんな大物がひとりのほほんと用を足しているとは」


 若干呆れ顔のアカメであるが、幸運なことに変わりはない。

 いや、事を荒立てすぎてしまったか。

 一瞬そう思ったが、何より優先されるのはこのミッションをクリアーすること。

 すなわちシオリの神器を取り戻すことだと考えを改める。


「レーム皇子。あなたにお聞きしたいことがあります」

「なにかね?」

「姫神、桃姫の寝所はどこです?」

「なに姫神ィ?」


 一瞬目を見開いたレーム皇子だが、すぐに、


「よかろう。案内して遣わす」


 と言って立ち上がったのである。


「は、はあ?」

「え? なんて?」


 アカメもウシツノもあまりの呆気ない返答に言葉に詰まる。


「案内してやると言ったのだ。実は吾輩も桃姫の寝所へ行きたいと思っていたところなのだ」

「ほ、本当か?」


 あまりに都合がいいことのように思える。


「本当だ。姫神。吾輩も研究対象として実に興味深い。お前たちが何用であそこへ行きたいのかは知れぬが、吾輩だって行きたいと思っておったのだ」

「なんでだ?」

「異世界人だぞ! いくらでも見たい聞きたい話したいだろう」


 興奮を隠そうともせずいきりたつ。


「行けばいいじゃないか」

「行けるならとっくに行っておる。だがあそこは父が大事な客人だと言い、おいそれと出向くことを禁止しておられるのだ」

「大事な客人? 桃姫の事か」

「彼女だけではない。一緒にくっついておったあの魔道商人もだ。まったく、父上のお考えはよくわからぬ」

「魔道商人って、たしかチェルシーって奴の事だよな?」

「そうです」


 ウシツノとアカメのひそひそ話に眉をピクつかせながら、


「どうした? 行きたくないのか? 案内してやる故、この縄を解くがいい」

「けど」

「どのみちたどり着くまでに何人もの警備の者を超えねばならぬのだぞ。だが吾輩がいればフリーパスだ」


 なんとまあ胸を張って言い切る。


「いいでしょう。ただし妙な真似をしたらウシツノ殿が一瞬であなたを斬り捨てますよ」

「せんわ。吾輩にとっても興味深いと言ったろう」


 予想外の展開から予想以上の展開へと移りつつあるが、アカメはレーム皇子の意見に乗ることにした。


「それでは案内していただきましょう。ウシツノ殿、私は考えることが多いので、あなたは決して油断しないでくださいね」

「あ、ああ。わかった」


 一体どちらのペースなのか。

 トイレを出た三人は意気揚々と第三の塔の上層階へと向かい歩きだした。

 城内ではよほど変わり者と評判なのだろう。

 二匹のカエルを引き連れて歩いているように見えるレーム皇子の姿に、行き交う城内の者たちは誰ひとり不審に思うことはなく、レーム皇子も不審な動きを一切見せることはなかった。

 そうして三人はスイスイと目的地へ向かい歩き続けるのであった。



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