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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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256 ガーゴイル談義


 深い縦穴を降りきると、そこは自然石をくり抜いた広い空間だった。

 灯りを持つギワラが周囲をかざす。

 すぐに人が二人並んで歩けるほどの横穴が見つかった。

 緩やかな風はそちらから吹いてくる。


「王家が抜け道として使っていた地下道を塞ぐ形で、アダイ公爵の屋敷は建てられたようです」

「元々は王を護衛する近衛隊の身分だったそうですよ。何代も前のご先祖が王の覚えよく、そこで爵位を賜ったそうです」


 ギワラの地理とアカメの歴史講釈を聞き流しながら、ウシツノを先頭に暗い道を歩き出す。


「通路は決して迷路ではありません。ですが罠がないとも限りません。無闇に触らないように」


 興味本意で壁際の彫刻に手を伸ばしていたウシツノをギワラがたしなめる。

 やがて通路は石畳の人工的なものに変わり、所々に番兵のように石像が設置されていた。

 小さめの悪魔を模したデザインが目立つ。


「こういうの見るとさ、突然動き出すんじゃないかって思っちゃうんよ」


 レッキスの何気ないつぶやきにクルペオが思い出したかのように、


「そういえば昔、遺跡の調査でシャマンめ、念のためだと片っ端から彫像を破壊してスイフト爺に怒られておったな」

「懐かしい話だ。思えばあの頃からシャマンはこのての雰囲気が苦手だったのかもしれんな」


 ウィペットが同調した。


「お前らオレの黒歴史を発掘してんじゃねえよ」


 最後尾を歩くシャマンが不平を漏らす。


「彫像が動くなんて事があるのか?」


 ガーゴイルという像だと教えてもらったウシツノが興味本位にアカメに尋ねる。


「大昔の遺跡ではよく見られたそうです。流行ってたのでしょうね」


 遺跡のトラップにも流行り廃りがあるのだろうか。


「あります。技術や知識の進歩は無視できませんから」


 バカな問いにもギワラは真面目に即答してくれる。


「ですがだからといってシャマンさんのように事前に壊すのは得策ではありません。それを見越して内部にガスや爆薬などのトラップが仕込まれていることもままあります」

「はあ~、よく考えられてるんだな」


 関心するウシツノ。


「元来ガーゴイルというものは魔除け的な意味で設置された石像に過ぎません。トラップに使うべきものではないので、恐れるのはお門違いなんですよ」


 アカメの講釈にシャマンが顔をしかめる。


「けどよぉ……石像が動き出すって話を聞いたらよ、なんだか怨霊じみてて気味悪いだろ」

「石像が動き出すならそれはもう怨霊でも呪いでもなく、むしろゴーレムに近い。人形ですよ」

「そういえば桃姫のパペットも術技(マギ)だよな、あれ。じゃあガーゴイルも?」

術技(マギ)です」


 ウシツノの結論にギワラが渋い顔をする。


「ですから私はガーゴイルトラップは嫌いです」


 どんなに手先が器用だろうと魔法の類じゃ解除できない、とブツブツ付け足す。


「あ、待ってください。ここです」


 ガーゴイル談義が一段落した頃、ギワラが通路の一点を指し示す。


「そこの二体のガーゴイル像が向かい合っている壁が本道へ続く隠し扉です」


 たしかに今まで並んでいた像とこの二体だけが向きが違う。

 壁を調べると小さな窪みがあった。

 ギワラが素早く調査する。

 窪みの奥に腕一本入る大きさの穴がある。


「この穴の奥にスイッチがあるようです。レッキスさん」

「ん? 私?」


 ギワラに促されたレッキスが恐る恐る右手を突っ込む。


「奥にボタンがあるんよ。押していい?」

「どうぞ」


 ガコッ、と少し重たげな音がした。


「うひゃあぁっ」


 突然慌てたレッキスが手を引っ込める。

 すると一緒に窪みから気味悪い大きめの蜘蛛が飛び出してきた。


「ゾワッとしたぁッ! 手に落ちてきたぁ」

「やはり。罠はないとわかりましたが、なにか潜んでいるかもという私の勘は当たっていました」

「それで私にやらせたんかぃッ」

「私に何かあってはこの先の探索に支障を来すと判断しましたので」

「先に言って……今度から」


 ウシツノがポツリと、


「棒でも使って押せばいいじゃないか」

「あっ」

「ッ!」


 ギワラとレッキスがそろってハッとした顔をする。


「クールなギワラが戻ったようじゃな」

「あ、ああ。頼もしいかぎりだな」


 そう漏らすクルペオとウィペットの眼前に、隠し扉は開いていた。

 朽ちかけた石の階段と、何年も使われていない松明の残りかすが立てかけられた通路が現れていた。


「お~し、行くぞ。この階段を上ったらその先は別行動だ。腹くくれよ」


 気味悪い地下道が終わるとシャマンにいつもの調子が戻ってきた。


「地下道が終わった途端、元気になったんよ」

「うるせい! 行くぞ」


 ぞろぞろと階段を上り始める。

 それまで先頭を歩いていたウシツノはアカメと共に最後尾にまわる。


「なんにも出なかったな、アカメよ」

「何を期待していたのですかウシツノ殿」

「番兵や魔獣の一匹二匹いるかと思ったんだが」

「ここは王族が危急の際に使用する脱出路でしょうからね。自ら危険を配置したりしないでしょう」

「そっか」

「むしろ危険はここからですよ。私たちは二人だけで桃姫の寝所へ忍び込むのですからね」

「ときどき思うがアカメよ」

「はい?」

「お前結構向こう見ずの無鉄砲な一面があるよな」

「失礼な。ちゃんと計算していますよ。必要な時に必要なことは躊躇しない。最悪を回避するための最善です」


 正直ウシツノにはよくわからなかった。


「オレは学がないからな。これからも考えるのはお前に任せるよ」

「…………私は、私のできることをするだけです」


 今のシオリは神器を持たない。

 それは完全なる姫神の力を行使できないという事。

 なによりシオリの神器を取り戻すことが優先で、そのための犠牲は最小限が望ましい。


(私たちが失敗してもタイランさんがいます。最悪クァックジャード騎士団に保護してもらう選択肢が残ります)


 己の安全を考えれば確かに無鉄砲だろう。

 しかし各地の姫神の動向を見る限り、シオリ以外に覇権を握らせるのはよろしくない。

 それが現時点でのアカメの考えであった。


 階段を上り切った先でギワラが作業していた。

 振り向きひとつ頷いて見せる。

 壁が開き、王城の内部へと踏み込んだ。


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