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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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254 私の女


「そこまでにしたら? 銀姫」


 凄惨な光景が残る戦場に、妖しく静かな声が届く。

 殺戮を繰り広げるナナを見下ろす形で、空から桃姫マユミが降り立った。


「貴様はッ」

「久しぶりね」


 一瞬にして瞳に憎悪の炎を燃やすナナと、イタズラをした娘を見るような困った顔のマユミ。

 先に話しかけたのはマユミの方からだった。


「そんなに、テカテカとしてピッチリとした全身スーツ姿、恥ずかしくないのかしら? 大勢見てるわよ」

「なっ、き、貴様こそ、破廉恥な格好ではないか! 言われたくない!」


 姫神・淫魔艶女ナイトメア・サキュバスに転身したマユミの姿は、狂気なまでに派手なピンク色の髪に露出の多い黒のレザースタイル。

 怪しい雰囲気と蠱惑的な空気を醸し出し、妖艶な魅惑を放っている。


「あらゆるモノを虜にする。それが私に与えられた力ですもの。あの女もそう」

「あの女?」

「檻の中で、気持ち良さそうに泣いていた女」

「ッ!」


 美味しかったご馳走の味を思い出すかのように蕩けた表情で語るマユミを見て、ナナの顔にこれ以上ない怒りが灯った。


「それはハナイ様のことかッ」

「そう」

「あのヒトを、侮辱することは許さないッッッ」

「いいのよ。私の女なんだから」

「ハナイ様は貴様のお、女ではない!」


 ナナの声がヒステリックに裏返る。


「私のモノよ」

「まだ言うッ」

「だってあなた、あの女が今どこにいるか、知らないじゃない」

「…………えっ」


 意味の分からない台詞にナナは呆けて、全ての戦闘形態を解除してしまう。


「どういうこと……」

「知らないわ。さあ、戦いましょうか」

「待って」


 ナナの困惑など無視したマユミの意思に反応して、空から大量のコウモリ型パペットが襲いかかる。

 だがコウモリはナナではなく、背後に続くエスメラルダ軍に向かって攻撃を始める。


「なっ」

「その鏡のような美しい流体金属と、私の無限のパペット軍団。さあ勝負よ」

「待ってってば」


 戸惑うナナに目もくれず、マユミのパペットはエスメラルダの兵ばかりを攻撃し続ける。


「くっ」

「ナ、ナナ様!」


 突然空から襲い掛かる無限のコウモリ人形に兵たちが混乱をきたす。

 当然ただのコウモリと戦闘力は比較にならない。


「ほらほらいいの? みんな私が殺しちゃうわよ。あなたがさっきやったみたいにさ」

「ッ!」


 その一言で動揺しつつも、ナナは再び戦闘形態を取るとコウモリ人形を撃ち落としにかかった。


百首暴風竜(ヘカトンタイフーン)


 数万の騎士達が恐れおののいた無数の鋼鉄竜を再び繰り出す。


「ふぅん。ほんとに生きてるみたいに動かすのね。前はただ武器を出すばかりだったけど。あなたもレベルアップしてるのね」

「なんだと!」

「いいわ、合格よ」


 マユミが直接ナナに向かい動き出す。

 猛烈な速度で接近すると不意を突かれたナナは対応できずマユミに組み付かれてしまう。

 そのままマユミはナナに絡みつくと空高く上昇する。


「は、放せ! 触るな! 抱きつくな」


 ジタバタともがくナナに長い尻尾をぐるぐると絡ませ、その上から両腕できつく抱きしめる。


「聞いて」


 さらに上空へと舞い上がりながらナナの耳元で囁きかける。


「あの女は生きてる」

「ッ!」


 今度こそ間違いなく聞き取ったナナはようやくもがくのを止める。

 すでに地上からは二人の姿は小さな点にしか見えず、声が聞こえることもない。


「生きてる……ハナイ様が……」

「そう。でも無事ではない」

「なっ」


 ナナの脳裏に最後に見たハナイの光景がよみがえる。

 バッサリと切り裂かれ、水晶に閉じ込められていくハナイ。


「そう。あのヒトは今もクリスタルの中で生きている。()()()()の状態で生きているの」

「そんな……」

「あのヒトを助けたいでしょ?」


 当然だ。


「そうよね」


 あまりの衝撃に声も出ないナナであったが、目が雄弁に語っていた。


「あのヒトを、治せる者がいる。そう言ったらあなたはどうする?」

「治せる?」


 桃姫の抱きしめる力がより一層強くなる。

 もはや銀姫は抵抗せず、受け入れている。


「白姫のことは知ってる?」


 小さくかぶりを振る。

 知らないことを申し訳ないとまで思ってしまう。


「白姫はね、天使なの」

「天使」

「どんな傷みも治してしまう、癒しの力を持つ天使」

「癒し」

「あの娘なら絶対に治せる」

「治せる」


 そこで耳元から顔を離すと、マユミはナナの顔を正面から見つめる。


「けどね、白姫は強い。私ひとりじゃ太刀打ちできないぐらいに」

「強い?」

「そう。あなたでも無理。だけど、私とあなたなら」

「あなたと私なら」


 ゆっくりと身体を放す。


「銀姫。一緒に白姫をさらいに行ってくれるでしょう」


 ナナの瞳は雄弁と答えを語っていた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ナナ様だッ」

「ナナ様よ」

「桃姫と落ちてくる」


 地上で奮戦を続けていたエスメラルダの兵たちが歓声を上げる。

 上空高く舞い上がったナナと桃姫が地上に戻ってきたのだ。

 二人はもつれあいながら落下してくる。


「ナナ様危ない!」


 地上近くでマユミは背中の羽根を大きく羽ばたかせた。

 ナナはスーツを一瞬で大きな風船のように膨らませ激突の衝撃を吸収した。

 地上の銀姫と空中の桃姫が、はじまりの時と同じようにまたにらみ合う。


「やるわね銀姫。今日のところは見逃してあげる」

「貴様こそだ桃姫。次はこうはいかぬぞ」


 フッ、と一瞬ほほ笑むと、桃姫マユミはたくさんのパペットを従えて帰還する。

 それを見届けるとナナも転身を解き元の姿へと戻る。


「ハイランド軍はすでに壊滅状態だ。我等も一時撤退するぞ」

「よろしいのですか? このまま聖都カレドニアまで攻め入ることも……」

「必要ない」


 ナナは翡翠の星騎士団を再編成すると、一旦占拠したローズマーキーの街へ戻ると宣言した。


「ナナ様、報告であります」


 撤退の途上で入った伝令である。


「城塞都市である堅牢なネアンの街ですが、先ほどランダメリア教団の獣使い(ビーストマスター)どもによって陥落したと」

「……そうか」


 報告を聞いた騎士団の面々が苦い顔をする。

 ランダメリア教団。

 エスメラルダ辺境でくすぶる名もなき小さな神を信奉する者たちだと聞かされている。

 今回の遠征にあたって大司教ライシカより騎士団と彼ら獣使い(ビーストマスター)の共同戦線が命令された。

 しかし相容れない組織と断じたナナが、共同戦線とは名ばかりの別行動をとることになったのだ。

 当然騎士団は彼らを快く思っておらず、それはナナも同様であった。

 だがしかし。


「ナナ様?」


 報告を聞いたナナはそれ以上何も言わず、心ここにあらずといった具合であり、みな首を傾げるのであった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 同様の報告は敗残兵と化したブロッソ王の元へも届いていた。


「ネアンの街までがバル・カーンの群れに落とされたと」

「代理は?」

「オロシ伯爵のひとり娘ミゾレ・カナン嬢ですが、行方が分からず生死不明とのことです」

「伯爵も戦死では、ネアンの再興は骨が折れそうだな」


 他人事のようなブロッソにそばに控えた大将軍ジョン・タルボットは苦虫を噛み潰した。

 オロシ伯爵はチェルシーを真の王として担ぎ上げるため、協力を約束してくれた最有力貴族であった。


「すべてが、ふりだしに戻ってしまった」

「ん? 何か言ったか、大将軍」

「い、いえ。なんでもございませぬ」


 力なく歩く大将軍は、今日の敗北はあの亜人戦争以来であり、そして亜人戦争以上の敗北感だと打ちひしがれずにいられなかった。



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