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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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244 絶望を知るピエロの顔は?

登場人物紹介


ネズミ   ハイランド盗賊ギルド幹部。

ギワラ   ネズミの妹。女盗賊。

オーシャン ハイランド盗賊ギルドマスター。

ウサンバラ 盗賊都市マラガのギルドマスター。カメレオン族。


 暗く長い階段を降りきった先、そこが盗賊ギルドの秘密のアジトだ。


 閉め切られた石の扉を決まった拍子で叩く。

 すると中から質問を投げかけられる。

 質問とその答えはあらかじめ決まっているが、週ごとに内容は変わり、ギルドメンバー以外には当然告知もされない。


 今週の質問は「絶望を知るピエロの顔は?」、それに対し「雪の色」とネズミは答える。


(ロマンチックだとでも思ってんのかね、この質問考えた奴は)


 開いた扉をくぐりながら目的の部屋へと向かう。


(雪の色……白。……白姫、か)


 なんとはなしにそう結びつける。


 まったく持って、おかしな奴らと縁ができた。

 年甲斐もなく、これからドデカいイベントでも始まりそうだと胸が躍る。

 箱の伝説、癒しの女神、大いに結構じゃないか。


 振り返れば他人に堂々と胸を張れるような人生ではなかった。

 それでもここまで生きる術と、どうにか人を動かせる地位まで手に入れた。

 ひとつぐらい人様に胸張れる仕事をしてみるのも悪くない。


(上手く行けば人生大逆転もあり得るもんだしな。キヒヒ)


 善意半分、野心半分。

 それぐらいが丁度いい。

 人にはそれぞれ信念てものがあるもんだ。


 ネズミを呼び出した張本人、すなわちこの盗賊ギルドのギルドマスターがいる部屋へとやって来た。

 扉を開け、入ると奥の肘掛け椅子に老人がひとり腰掛けている。

 いつもの風景。

 だが部屋に入るとまず小さな違和感を覚えた。


(なんだ? 何かが変わったか)


 広々とした部屋には種々の調度品、貴金属、家具や武具が散逸していた。


(片付けられないのはいつも通りだな)


 そう見ていると先にギルドマスター、オーシャンから声をかけてきた。


「あいかわらず早かったな。来い、と伝えてから一刻程しかたってねえぞ」


 悪どい笑みを見せながら、プカァ~と葉巻をふかしている。


(それもいつものことだ)


 ネズミは違和感の正体が気になって仕様がなかった。

 それに気付いたか気付かずか、オーシャンは構わず話し出した。


「なあ、お前を拾ってどれぐらいになる?」

「……というと?」


 いよいよネズミの中で警戒信号が強く鳴り出す。

 突然の思い出話は危険の兆候だ、と。


「お前は優秀だ。今このギルドがあるのもお前の働きあってこそ。かの盗賊都市マラガのギルドとも張り合えるって程にな」

「話が見えませんが」

「ああ、つまりだな」


 パチン、と指を鳴らすと奥の扉が開き、数人の手下に押さえつけられたギワラと、そしてこの国では珍しい変色竜(カメレオン)族がひとり現れた。


「はじめまして。わたくしマラガ盗賊ギルドを仕切らせていただいております、ウサンバラと申します。あ、別に覚えていただかなくても結構ですよ」

「マラガだと!」

「そういうことだ。オレはコイツらと手を組むことにした」

「よろしくお願いいたします」

「本気ですかッ」


 ネズミは反対だった。

 コイツらは王族以上にこの世界で最も信用ならない奴らだ。


「まあそう気色張らず。どうです、手土産にお持ちしましたこの葉巻でも? 高級品ですよ」


 蓋を開け、小箱ごとネズミの前に差し出す。

 しかしとても高級そうには見えない。

 訝しリつつその葉巻の入った小箱を見ると、側面にある〈V〉の刻印が目についた。


(これは……どこかで、見た覚えがあるな。あれは葉巻だったか……)


 手に持ち、 しげしげと眺める。


「こいつは! オーシャン、こいつはヤクじゃねえかッ」

「ヴァニッシュです。今マラガを中心に出回っておりまして、愛好者も続々と増えてるんですよ」


 反吐が出る。

 麻薬はネズミが最も忌避する犯罪(シロモノ)だった。

 窃盗、恐喝、誘拐、殺人。

 悪どいことは大抵したが、ことクスリだけは拒絶してきた。

 コイツは社会的弱者、精神的弱者の多くを飲み込んでしまう。

 最初は甘く悪夢を囁き、抜け出せないほどの依存に落ちたが最後、あとは徹底的に破滅まで追い込まれる。


 金も縁者も人生までも。


 三十年かけて少しずつ取り戻してきたこの国の日常をたやすく壊しかねない。

 それはネズミの望むものとは違う。

 壊れた世界で金だけを稼いでもむなしいだろう。


「お前が拒否反応示すのは承知のうえだ。だがこいつは売れる」

「オーシャン!」

「ギルドは今以上にチカラをつける。ブロッソの現政権は時期に倒れる。しかしそのときオレは新たな王の隣に立っているって寸法よ」

「新たな王だって? チェルシー……いや、ゼイムス皇子のことか」

「ほう、やはりすでにそこまで知っていたのか」


 ゼイムス皇子はチェルシーと名乗りマラガの盗賊ギルドにいた。

 そしてふたつのギルドを仲介し、金と戦力、裏からこの国を操る術を手にしたというわけだ。


(馬鹿な。上手いことノセられたな)


 思い出した。

 〈V〉の刻印の入った小箱。

 あれは紙巻きだったが、〈メイド・イン・ヘブン〉のワシ鼻のオーナーの部屋で見かけたな。

 するとすでに奴も囲い済みか。


(気づくのが一足遅かったようだ。ノコノコと足を踏み入れちまったか。間抜けだぜ)


「なあネズミよう、賢くなれ。大人しく今まで通りギルドに尽くすんだ。主義主張なんてクソの役にも立たねえぞ」

「社会が壊れてはそれこそ旨味もない」

「オレに都合のいい、新しい社会を作るさ。そのための姫神だろうが」

「姫神が破壊をもたらす存在だと?」


 クク、とウサンバラが笑い出す。


「一時、マラガが崩壊しかけたことはご存じでしょう? 姫神は〈破壊〉と〈恐怖〉を撒き散らす存在なのです」

「ちがう! それだけじゃねえ! 姫神は癒すことも……」


 なぜか頭に「雪の色」という言葉が浮かんだ。


 反論しようとするネズミだが声は次第に小さくなっていく。


(破壊や恐怖だけじゃねえ。癒す力もある。どうしようもねえこの世界を、ただ運よく力を手にしただけの、身勝手な奴らの多いこの世界を救うこともできる力が)


 それは普通に考えて夢物語だ。

 ネズミ自身そう思ってしまう。

 せめて報告で聞いただけでなく、直接シオリに会っていれば。

 そうすれば自信をもって反論しただろうか。


「お前は盗賊の(カシラ)張るには優しすぎた。自己の正義を貫くためなら悪にも鬼にもならなきゃならねえ」

「この国が……マラガに支配されることが正義ですか」

「支配だなんてとんでもない! チェルシーは正統な王位継承者です。たまたまマラガのギルド幹部であっただけなんですよ」


 カメレオンの言葉に大きく(かぶり)を振る。

 なんと言われてもネズミの答えは変わらなかった。

 無辜(むこ)の民を巻き込むクスリは許さねえ。

 マラガにこの国でデカい顔はさせたくねえ。

 正統だろうが手段を厭わないチェルシー(クソッたれ)にこの国は渡せねえ。

 自分の信念を曲げて施しを受けるような真似はしたくねえ。


「そうか、なら仕方ねえ。それじゃもうお前ら兄妹をオレは助けてやれねえな。新王の過去を知る者は選ばねえとならねえ。そしてお前は、信用できねえ」


 オーシャンが手下どもに指示を出す。


「ううっ」

「ギワラ!」


 明らかにギワラの様子がおかしい。

 顔色は真っ白く、目は落ちくぼみ、口角から泡を吹いている。

 脱力し、生気もなく、意識も混濁しているようだ。


「まさか」

「ええ、一足先にヴァニッシュを味わってもらいました。直接注入は効きますよ」


 カラン、と足元に何本も空の注射器がばら撒かれる。


「残念だよ。お前はいままでよく働いてくれたのにな。盗賊でなく、聖者にでもなればよかったんだ」


 何人もの手下たちが刃物を持って近づいてくる。

 抵抗する術は、見つからない……。

 こうなるまで気がつけなかった自分に呆れ果てる。


(アイツらに感化されちまったか)


 そう言いつつ、脳裏に浮かんだのはあの好奇心旺盛なネコミミの顔だった。

 らしくない、と自嘲しつつも、だが最期になってふと、自身の新しい事実に気がつき、知らず口許に笑みがこぼれた。


(そうか、オレはこの国が、好きだったんだな)


 振り下ろされるいくつもの刃を受けながら、痛みを感じる暇もなく、思考は闇に覆われた。


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