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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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242 ファントムの正体


「王位……継承者?」

「ファントムの野郎がか?」

「そう言ってたにゃ」

「んなわけね~だろう」

「どうしてにゃ?」

「どうしてってよお……ハイランドにはもういるだろ? なんつったか」


 シャマンがいつの間にかメインクーンの隣に座っているネズミを見る。


「三皇子か。いや、先日末弟がお生まれになったそうだ。男子直系は四人になるな」

「何人だっていい。ファントムは()()な、って言ったんだな?」


 コクコクとメインクーンが頷いて見せる。


「ギワラが言っていたが、ファントムと王宮に出入りしている魔道商人の風体は一致するそうじゃねえか」

「らしいな」

「てことはだ、旅の魔道商人がこの国の王子様だった、てのか?」

「そういうことになるな」

「んなことあるかよ?」

「否定する材料もない。そもそも王宮に招き入れたのも大将軍の口添えあってのことだ」

「その大将軍様もここに来てたにゃ」


 ファントムと同伴して訪れた、マスクのいかついオッサン。


「ファントムの正体は誰なのじゃ? 心当たりはもうついておるのだろう?」


 クルペオの問いにネズミが頷く。


「年齢的に考えて、現国王ブロッソの兄、レンベルグの子、ゼイムス皇子だと思われるな」


 三十一年前の亜人戦争において、戦死した聖賢王シュテインの長男レンベルグは智勇に優れ、国内の立て直しもそう悲観するモノではないと思われていた。

 だがほどなくしてレンベルグは謎の死を遂げる。

 病死とされたが暗殺説がささやかれ、それを印象付けるかのようにレンベルグの子ではなく、弟のブロッソが玉座に着いた。

 レンベルグの子ゼイムスは幼くして放逐され、以後行方知れずのまま今日に至る。


「そのガキがファントム?」

「まさしく、幽霊(ファントム)のような存在じゃのう」


 シャマンとクルペオにネズミは答える。


「大将軍ジョン・タルボットは王家への忠誠心が愚直なまでに高い事で有名だ。そこへ正統の血筋を謳う者が現れれば、ない話ではないな」

「もうひとりのネアンの領主は?」

「オロシ・ネアン・カナン伯爵。ブロッソ王に批判的な人物の急先鋒だな。他にも結構批判的な貴族はいたが大方粛清されてしまった。彼を取り込もうとするのは戦略的に十分ある話だ」

「戦略?」

「決まってるだろう? ゼイムス皇子が王位を取り戻そうとするための戦略だよ」


 ふと、考え込んでいたクルペオが顔を上げる。


「もしや、パンドゥラの箱とやらを欲しがったのも?」


 パチン、と指を鳴らすネズミ。


「そうだな。箱の救世主伝説を利用しようとしたに違いない」

「オレたちゃこの国の王位継承問題に巻き込まれてたのかよ!」

「すげー話だな。キヒヒ」


 可笑しそうに笑うネズミにふくれっ面のシャマンたち。

 ウシツノはそれを眺めながら少々呆れていた。


「まったく……今にもエスメラルダとの戦端が開かれるというときに、困った国だな、ハイランドという所は」


 何気ない一言であったが、ネズミはその言葉にハッとした。


「いやまて。随分タイミングよく戦争が始まるもんだ。たしかにそうだ」

「どうしたよ? オメ―まさかこの戦争まで王位継承問題に関係してるって言う気か?」


 シャマンの呆れた口調にネズミは真剣な眼差しで応える。


「そうさ。国王の支持率は低い。そこへ箱を手に戦争を片付ける手腕を見せつければ、レンベルグの遺児は一気に救世主として支持を得られる」

「そんなにうまくいくん?」


 空になったコップを口に咥えながらレッキスが問う。


「ゼイムスがエスメラルダと共謀しているとしたら? この戦争自体が奴の演出したものだとしたら……」


 まさか……。

 全員がそこまでは行き過ぎだという顔をする。


 そこへ中年を過ぎた男が近づいてきた。

 痩せ型でワシ鼻が印象的な男。


「メインクーン。ご指名だ。奥の部屋へ行ってくれ」

「オーナー。私今忙しいにゃん」

「行ってくれんと困る。相手はこの国の第三皇子だ」

「またあいつッ」


 メインクーンが嫌そうな顔をする。

 とはいえ相手が相手である。無視することはできない。


「人気者はつらいんよ」


 レッキスのからかいに憤慨しつつ、心底嫌そうに嬢王は店の奥へと姿を消した。


「第三皇子?」

「クネート殿下だ。女遊びに興じる三皇子の中でも一番のクズさ」

「それとネズミさん」


 オーナーがネズミにも盗賊ギルドから呼び出しがかかっていることを伝える。


「そうか、わかった。じゃあオレは先に行く。話の続きは今夜にでもな」


 そう言い残してネズミも足音を殺しながら店を出て行ってしまった。


「ところで皆さん」


 まだ残っていたオーナーがシャマンたち四人にも声をかける。


「実は先程あなた方を探しておられるという衛兵の一団が店を訪れまして」

「なんだって?」

「心当たりがおありですか?」


 さっきした街門前の立ち回りの件かもしれない。


「皆さんは嬢王のお知り合いですからね。適当にあしらっておきましたが、店の正面から出ていくのはまずいかもしれません」

「裏口はあるかい?」

「ええ。ですが裏路地はひどく入り組んでおります。迷子にならぬよう、どうかお気を付けを」

「すまねえ。恩に着る」


 そう聞いては長居は無用。

 四人はそそくさと裏口から店を出ていくことにした。


 その姿を見届けてから、オーナーは別の席に座る男のそばへと向かう。


「ご苦労様です。この国が新しい朝を迎えたとき、あなたとこの店の繁栄を約束しましょう」


 男はそれだけ言うと、テーブルに金貨を一枚置いて立ち去った。

 ワシ鼻のオーナーは苦虫を噛み潰したような顔で、その金貨を手に取ると握りしめ、そしてそっと懐にしまった。



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