211 完封勝ち
「すごい数の鎧人形が向かってくる」
「見たところ、一千騎はくだらないでしょうな」
集落の入り口付近にこんもりとした丘がある。
高さは十メートル。
丘の頂上は丸太で組んだ防壁と鐘楼が備えられている。
半馬のために梯子を使用できないケンタウロスは、見張り台を人工の小高い丘に造ることで補っていた。
そこでハクニーとリピッツァはハイランド軍の先陣を確認したところであった。
すでにタイランは集落を出て、あろうことか敵の本陣へと向かっている。
赤い鳥からは敵の先陣を集落に近づけないように指示されていた。
「では、行ってまいります」
リピッツァが丘を降りると二十九人のケンタウロス戦士とひとりの人間の少女が待ち構えていた。
シオリである。
リピッツァと目を合わせると、彼女は一同から少し離れた位置で剣を天に掲げた。
〈輝く理力〉、それが彼女、姫神白姫に与えられた神器である。
「転身! 姫神! 純白聖女ッ」
白い光に包まれたシオリの姿が変貌する。
「おおっ」
光り輝く六枚の羽根に肩だけを露出した白いコスチューム。
緑色に流れる長い髪にスラッと伸びた長い脚。
小振りだが、弾力に飛んだ胸と尻もピチッとしたスーツに包まれている。
少しうるんだ瞳と熱を帯びたように紅潮した頬が、わずかに少女の面影を残す。
そして弓のような形状に変化した白く美しく長い剣。
この場にいる大半の戦士が耳にしていたとはいえ、自身の目で初めて確かめたシオリの眩しい姿に見惚れていた。
ベルジャンと共に蒼狼渓谷でその姿を目撃していたリピッツァと、そしてハクニーさえもがその神々しさに目を離せずにいた。
「あの……リピッツァさん?」
「……ハッ」
シオリに促され、ようやく我に返ると槍を掲げ戦士たちを鼓舞する。
「これより討って出る! 敵の先鋒は一千! だが恐れることはない。我らは勇猛なる騎馬戦士である。奴らにこそ、恐怖を与えてやろうではないか」
「おおッ!」
「そして戦士たちよ! 戦で果てるが本望であろう! だが今はその時ではない! 今日、死ぬことは禁じる! 全員生きて戻れ! これは命令だ」
リピッツァの号令を聞き届けると、シオリが腕を振りながら術技を唱える。
「戦士たちに勇気を……祝福」
シオリの口から紡がれた呪文が届くや、戦士たちの心の奥底から勇気、闘志といった感情があふれ出す。
「うおおっ」
「これは!」
「力がみなぎってくる」
気迫にあふれた戦士たちを確認すると、シオリは背中の羽根をはばたかせる。
「先制攻撃、シオリ行きます!」
上空へ舞い上がると向かってくる重装人形の一団へ一直線に飛んでいった。
「我らの戦女神! シオリ様に続けッ」
「ウオオッ」
残るハクニーの見守る中、三十騎の騎馬戦士も戦場へと繰り出した。
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進軍する一千騎の鎧人形を上空真上から見下ろしたシオリは、すぐさま攻撃モーションに入った。
見たところパペット以外に人間の姿も見えない。
警告は無駄であろうし、なにより平原を駆ける味方の戦士たちの機動力を考えれば、すぐにもここへ駆けつけることだろう。
乱戦になる前に一発ぶちかましておこうと考えた。
六枚の羽根がバリバリッと激しく発光する。
「ん~~~~ッ」
より一層大きく羽根が広がる。
「……必殺ッ! 稲妻光線ッ」
胸前で十字に組んだ両腕から強烈な雷撃が照射される。
ズガガガガガガガガッ
「弾けろッ」
鎧人形の中心地に発射されていた雷撃が、突如、轟音とともに大爆発を起こした。
「な、なんじゃあッ」
「雷です! 雷が落ちた!」
「わかるわッ! そうでなくてなんで雷が落ちるんじゃ」
距離の離れた敵の本陣で、動揺するエッセルをケイマンが一喝していた。
もちろんそんな様をシオリは知らない。
もうもうと吹き上がる土煙の中で大勢の鎧人形が爆散していた。
たった一発で三分の一は処分したようだ。
残った鎧人形たちの動きが緩慢になる。
そこへリピッツァ率いる騎馬戦士が到着した。
彼らは鎧人形たちの右側面より、大きく迂回して接近してきた。
「奴らの動きが止まっているッ! 全員突撃」
三十の騎馬戦士は三列の長い陣形を組むと、鎧人形たちのど真ん中へと突っ込んだ。
「切り結ぶ必要はない! とにかく駆け抜けろ! 敵の陣形を崩すのだ」
強靭な肉体と疾風の如き機動力で敵陣を真っ二つに割いていく。
度重なる不意打ちに、意思を持たない木偶人形の群れは、臨機応変な対処ができずに右往左往するばかり。
「いかに戦闘力が高く、扱いやすかろうが所詮は人形だなッ」
リピッツァが吐き捨てるように気を吐く。
ひとりの脱落者もなく騎馬戦士たちは敵陣を抜けきった。
その様子を見たシオリの容赦ない二撃目が撃ち込まれる。
「稲妻光線ッ」
分断された鎧人形の一方が雷撃で粉砕される。
残った鎧人形も大部分が破損を免れず、明らかに動きが鈍っている。
「掃討しろッ」
取って返した騎馬戦士たちが今度は攻撃を加え次々と粉砕していく。
地に降りたシオリも剣を振るい戦列に加わる。
彼女が戦場に降り立ったことで戦士たちの戦意も上がった。
誰もが獅子奮迅の活躍をし、誰もがシオリの戦うその姿に身と心を引き寄せられた。
ドン、ドン、ドン
ハイランド軍の本陣から退却を意味する陣太鼓の合図が響く。
わずかに残った鎧人形たちが背を向け一斉に撤退する。
「やったか」
ケンタウロス側に負傷者はあれど死者はゼロであった。
「光よ」
そこへシオリの術技で光に包まれた戦士たちの傷が回復していく。
「みなさんの傷は私が癒します。私がいる限り、敵が何人いようとも、戦力に差はありません」
「おお」
「痛みが……」
「すごい」
「これなら何人分もの働きができるな」
「死を賭した戦闘も厭わず行える。それも何度も」
負傷離脱を考えなくてもよい。
その考えがますます戦士たちの戦意を向上させた。
このシオリのセリフは実はタイランの策のひとつであった。
あらかじめ戦闘後に発言するよう言われていたのである。
「あ、タイランさん」
そこへ上空から赤い鳥タイランが舞い降りた。
「無事か、シオリ」
「はい」
タイランは手に持っていた首をリピッツァたちの足元に放る。
さりげなく自身の背中でシオリの視界を遮りながら。
「これは」
「敵の副官クラスの首だ。おそらくこれでパペットを含めた命令系統に支障をきたすことになるだろう」
「なんとッ」
「では」
ニヤリとするタイランが一同を労う。
「ああ。初戦はオレたちの、完封勝ちだ」




