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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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205/722

205 揺れる思い


「凍てつくがいい! 〈六の表護符・月下氷陣〉」


 二枚の符を鎧人形に向かい放るクルペオ。

 すると鎧人形の左右に舞う二枚の符と符の間の空間に突如、すさまじい氷雪が吹き荒れだす。

 その氷雪にさらされた鎧人形がみるみるうちに霜に覆われていく。

 そのままあっという間に凍りついてしまった鎧人形は、亀裂音を発しながら崩れ去ってしまう。

 そのクルペオに別の鎧人形が攻撃を仕掛けるが、当然の如く方形盾(ヒーターシールド)を構えたウィペットがガードする。

 その攻撃を弾かれた鎧人形の首筋に、すかさずギワラが短刀を差し込むと先程と同様、黒い霧を噴出しながら断末魔の悲鳴を残し鎧はガラガラと崩れ去ってしまった。


「いいぞギワラ! オレたちと息を合わせられるじゃねえか」


 他の鎧人形を相手にしながらもシャマンはやはり仲間の動向を逐一見守っている。

 ベルジャンは洞窟の入り口に陣取り、共に連れてきた二人のケンタウロスの戦士と連携をとりつつ戦っている。

 その洞窟の入り口に唯一戦えないアカメがいた。

 彼だけは突出した戦闘能力を持たないため、ジッと後方で堪えている。


 パペットの総数がどれほどいるのか、いまだにその全容は計り知れずにいたが、戦いの趨勢はどうやらウシツノたちに分がありそうであった。


「くそっ! こいつら、なかなかやりますね……」


 男の顔に少なからず焦りの色が見え始める。


「どこまでも虚仮にしてくれた報いだぜ。所詮お前じゃオレ達の相手に不足だったってことを思い知らせてやるッ」


 目の前に立ちはだかったシャマンの言葉にだが男は嘲笑を返す。


「くくっ……馬鹿め。局所的に勝利しただけでいい気になるとは」

「なにぃ?」

「探し求めた〈パンドゥラの箱〉を、我々がこれっぽっちの軍勢で奪いに来るとでも思ってたか」

「……なに言ってやがる」

「くひひ、今頃我々の本隊がケンタウロス族の集落に着いている頃でしょうかね」

「なんだと!」


 ベルジャンやウシツノに緊張が走る。


「ハクニー!」

「シオリ殿ッ」

「これはまずいかもしれません。一刻も早く戻るべきかと」


 アカメの指摘に誰もが同じ意見だが、しかし一行はここに来るまで三日の道程を費やしてきている。


「くっ」

「くははは! わりましたか間抜けども。お前らは我等に箱の場所を教え、そして愚かにも守るべき集落を手薄にしたのだ」


 大笑いする男に歯噛みするベルジャン。だが、


「行けよッ! カエルとケンタウロス!」

「ッ!」

「お前……」


 うなだれかけた顔を上げて、ベルジャンが吼えるシャマンの方を向く。


「間に合わねえと決まったわけじゃねえ! ここの残りはオレたちだけで十分だ。お前たちは先に集落へ行けッ」

「シャマン!」

「おうっ!」


 ウィペットの注意に応じたシャマンが近寄っていた鎧人形を新たに一体屠る。


「こんな鎧人形ども、あと何体いたって物の数じゃねえぜッ」

「く、くははは……」

「なにが可笑しい」


 突然笑い出した男に向かってシャマンたちが身構える。


「くくく、何度言わせるのです? 我々の軍勢をこれで全てだと思わないでください!」


 バキッバキッ!


 いくつもの大木が薙ぎ倒される。


 ウォォォオオオオォォオオォ


 バンッバンッバンッ


 木々の奥から獣の咆哮と、分厚い金属の板をぶっ叩くような音がこだまする。

 そこへ地響きを立てつつ現れたのは、巨大な鋼鉄の鎧に身を包んだゴリラ型の人形(パペット)だった。


「な、なんだこいつッ」

「でかい! 鎧人形の倍以上のでかさだ」

重装人形(アーマーパペット)の数倍の力を持つパペット! 鋼鉄大猩々(アイアン・コング)だッ」


 ヴォォォオオォォォォォオォッォォォオォ


 ゴリラ型のパペットから恐ろしい咆哮が迸る。

 分厚い腕を振り上げると超加重の一撃が振り下ろされる。

 一斉に皆が避けるとその一撃は地面に半ばまで埋まった大岩を粉々に粉砕して見せた。

 あまり余ってその衝撃が地面に巨大な大穴を穿ってしまう。

 攻撃を避けられたことが気に食わないらしく、今度は両腕を振り回しながら闇雲に辺りを暴走し始めた。


「ぐあっ、無茶苦茶だ!」

「厄介だぞ! シンプルに巨体と怪力で暴れまわる、しかも生命を持たないただの人形だ!」

「こんなもの、どうやって倒せばいいッ」


 そばに生える大木を鷲掴みにすると、猛烈な怪力で幹をへし折り、あろうことかその大木をシャマンやウィペット達に向かいぶん投げた。


 ドッゴォ!


 洞窟の入り口がある岸壁に勢いよく衝突した大木により、辺りにもうもうと粉塵が立ち込める。


「くそっ」


 それを見てウシツノが自来也を構え、鋼鉄大猩々(アイアン・コング)に向かい走り出そうとする。


「待てッ、ウシツノッ!」


 粉塵が薄まり、岸壁前にのさばった大木を乗り越えるように、シャマンが、そしてウィペット、クルペオ、ギワラが立ち上がる。


「お前らは集落へ行けと言っただろッ! このデカブツはオレたちに任せりゃいいんだ」

「しかし、その傷で」


 やはり今の攻撃で無傷で済むはずがなかった。

 シャマンたちは土埃にまみれながら体中にダメージを負っているのが見て取れる。

 流血はもちろんのこと、隠しているようだがもしかしたら骨折の一つ二つしていたとしてもおかしくはない。


「傷も何もない。鋼鉄大猩々(アイアン・コング)に太刀打ちできる者などいやしません! おとなしく箱を渡しなさい」

「さっさと行けッ! 優先順位を見誤るなッ」


 アカメがウシツノの肩に手を触れる。

 刀を鞘に納めながらウシツノは踵を返すと走り出す。


「ベルジャンッ」


 呼びかけにコクンと頷いたベルジャンは二人のケンタウロスの戦士に合図する。

 すると彼らはそれぞれウシツノとアカメの体を持ち上げ自身の背中に乗せて走り出す。


「ケンタウロスの脚力をもってすればずっと素早く戻ることができるッ」

「行かせるなッ」


 慌てた男の命令に一体の鎧人形がアカメを乗せたケンタウロスに武器を振りかざす。


「おっとぉ」


 だがその武器にシャマンの放った鎖鎌が絡みつき攻撃を阻止する。

 最速で遠ざかりながら、心配気にこちらを振り返るアカメとウシツノにシャマンは余裕の笑みを見せながら手を振った。


「さて、本当に我等だけでこのデカブツと残りの鎧人形を始末できると?」


 ウィペットの問いにシャマンが苦笑いをしてみせる。


「わるいな、ギワラ。オレたちについてきたばっかりによ」

「気にしてません。むしろあなたの無謀とも取れるこの判断にどんな結末が待っているのか楽しみです」

「キキッ! お前も変わってるな」

「ギワラよ」


 同じようにほくそ笑みながらクルペオがギワラに忠告する。 


「ひとつ教えておこう。何が正解かわからぬ時はリーダーであるシャマンの判断に従う。それがこのパーティー唯一絶対のルールなのじゃ」

「ま、そういうことだ」


 ニヤリとしながらウィペットもメイスと盾を構える。


「貴様ら、そろいもそろって愚かな奴らだ。逃げた奴らも無駄なこと。全員この山が墓場になる……」

「よう! オレ等も早く終わらせて集落へ行きてえんだ!」

「左様。無駄話はこれまでじゃ」

「すべて破壊する。正義と鉄槌神ムーダンに誓って」

「ぐぬぬぬ、減らず口を……鋼鉄大猩々(アイアン・コング)よ! ギタギタにぶちのめしてやれ」


 腹の底から響き渡る咆哮を上げながら、巨大なゴリラ型のパペットが突進してきた。

 どうみても勝機は見えない。

 ギワラは先程の大木による一撃以降、左肩に鈍痛を感じていた。

 今は戦闘による興奮状態で痛みをそこまで感じずにいられるが、おそらく骨に異常があるだろう。

 シャマンもウィペットもクルペオも、多分似たり寄ったりといったところだと思う。

 だがしかし、ギワラは不思議と恐怖を感じていなかった。

 むしろ楽しんでいたのだ。


「フフ、わるくない」


 誰にも聞こえないほどの囁きだった。

 感情を殺し、理屈と現実だけを直視して生きてきた彼女にとって、シャマンたちの行動すべてが新鮮だったのだ。


 彼らがどこまで行くのかを、ずっとずっと見ていたい。

 いつしかそう思うようになっていた。


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