表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

199/722

199 過去夢


 寝台の上でシオリはうなされていた。

 とても過ごしやすい季節が近づいているというのに、全身に汗をかき、くるまったシーツがへばりつく。

 体を左右に動かしながら、顔は苦悶の表情を浮かべている。


 シオリは悪夢にうなされていたのだ。


 どことも知れぬ場所に立っていた。

 誰とも知れぬ者たちに囲まれていた。

 見たこともない衣服に身を包んでいた。

 初めて触る物体を持っていた。


 見上げると、空はどんよりと曇り、世界は灰色に染まっていた。

 寒いと思った。

 当然だ。

 雨が降っている。


 黒い、真っ黒い水の雨だった。


 身にまとった白い衣装が黒くなる。

 周りでバタバタと人が倒れていく。

 皆苦しそうに、助けを求めるように、自分に手を伸ばしながら倒れていく。


 黒い雨。


 災いを降らす原因は何なのか。

 シオリにはわからなかったが、シオリの体はわかっていた。

 そこで気付く。

 これはシオリ自身ではない。

 これは誰かの記憶なのだ。

 自分の体だと思っていた肉体から切り離される。

 精神だけとなったシオリは、黒く染まった白い衣装の少女と対面する。


「あなたは誰?」


 少女が語りかけてきた。


(私はシオリ)


 声は届かなかった。


「私はヒカリ。白姫ヒカリ。どうか安心して。テオ族の巫女として、この国、ハイランドは私が救って見せます」


(白姫! それじゃあ、これは過去の?)


 ヒカリと名乗った少女が手に持った箱を天に掲げる。

 まばゆい光があふれ出した。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 目覚めたとき、すでに朝を迎えていた。

 シオリはあまりよく眠れなかったと思いつつ身を起こす。

 なにか、夢を見ていた。

 見知らぬ少女と黒い雨、そして箱からあふれ出す光。


「なんだったんだろう」

「おはよーシオリ! お薬の時間だよ」


 そこへ毎朝の習慣と化したハクニーによるお薬の時間がやって来た。


「ハクニー。おはよう」

「およ、今日は早起きだね。ならとっととお薬注入して、兄さまたちをお見送りしよう」

「ベルジャンさん、どこか出かけるの?」

「兄さまだけじゃないよ。ウシツノとアカメ、それに昨日来た冒険者たちも一緒だよ」

「どこへ行くの?」


 すっとハクニーが村の背後を指さす。と言ってもここは天幕の中で窓すらもないのだが。


「ペニヴァシュ山」

「なにしに?」

「パンドゥラの箱の封印を解きにだよ」


 ベルジャンは決断した。

 一族が長年護ってきた遺物、パンドゥラの箱を今こそ持ち出し、この地に安寧を取り戻すのだと。


「え、じゃあ私も……」

「シオリは駄目。まだ体調が万全じゃないからね。ハクニーとお留守番だよ」

「そんな」

「さ、とっととお薬お薬。四つん這いになって」

「そんなぁ」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ではタイランさん、留守の間、シオリ殿の事よろしくお願いします」

「ああ、ウシツノとアカメも気を付けてな」


 ベルジャンと二人のケンタウロス族、シャマン一行、そしてウシツノとアカメ。

 総勢九名で集落の裏にそびえるペニヴァシュ山へ向かうことになった。

 目的は封印された〈パンドゥラの箱〉を持ち帰ることである。


「十日ほどで戻れる予定ですので」

「ああ」


 そして九名が旅立っていくのをタイランは見送った。

 同じように見送りに来ていたケンタウロス族たちもそれぞれの持ち場へと散開する。

 その中には一族の長であるベルジャンの父親の姿もあった。

 かなりの老齢で、すでに戦闘行動はとれない。

 いまだ集落の決定権を有してはいるが、実質若きベルジャンの決断には逆らえない立場となっている。

 決して不仲というわけではないが、今回の箱の件については族長として思うところもあるようだった。

 そして遅れて集落の入り口にシオリとハクニーが姿を現した。


「遅かったなシオリ。ウシツノとアカメはもう行ってしまったぞ」

「そんなぁ」


 朝から落胆しっぱなしである。


「急に出発するなんて聞いてなかったですよ」

「昨夜決まったのだ。我々からすれば急なことではあるが、ここの人たちからすれば長き年月の果てがやって来たという事だ」


 一瞬シオリの脳裏に昨夜の夢が思い出される。


「私も行きたかったな」

「今は休養をとることに専念しておけ」


 まだ朝は冷えると言われ、シオリは渋々天幕へと戻っていった。


 その様子を遠い空の上から眺める物体があることに、さすがのタイランも気付けずにいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ