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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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197 からっぽの酒

登場人物紹介


シャマン    猿人族(ショウジョウ)の軽戦士。鎖鎌と二本の手斧を操る。一行(パーティ)のリーダー。

ウィペット   〈正義の鉄槌神ムーダン〉の神官戦士。犬狼族(ウルフマン)

クルペオ    狐狗族(キツネ)の符術師。酒豪。

ギワラ     ネズミの妹である女盗賊。兄に似ず美人だが無表情。


 集落の入り口に四人の来訪者が座り込んでいた。

 猿人族(ショウジョウ)のシャマン、犬狼族(ウルフマン)ウィペット、狗狐(キツネ)族クルペオ、そして人間の女盗賊ギワラ。

 その四人を囲むように屈強なケンタウロス族の戦士が七人、武器を構え油断なく監視を続けている。


「なあ、武器を下ろしてくれねえか。オレたちは争いに来たわけじゃねえんだ」


 軽く両手を上げたまま、シャマンが周囲の戦士をほだそうとする。


「お前たちのリーダーと話がしたい。オレたちはもう友達なんだぜ」

「誰が友達だと?」


 そこへベルジャンがやってきた。

 ハクニーとシオリ、ウシツノ、アカメ、タイランも同行している。


「おう、大将! やっと会えたな」


 ニカっと笑いながらシャマンは自らの額を指し示す。

 そこには横一文字に裂かれた傷跡が残っていた。


「お前さんに裂かれた額の傷だ。ようやく塞がったんだぜ。お前はどうだ? オレが傷つけた後ろ足……」


 シャマンがベルジャンの後ろ足を覗き込む。


「おや」


 だがそこに彼の言うような傷跡はなかった。


「傷はすでにない。全て癒された」


 チラリとベルジャンがシオリを見る。

 その視線の意味には気づけないシャマンたちだったが、後方に控えるそのシオリ一行には興味を抱いた。


「ははっ。ギワラ、お前の言った通りだな。カエル族だ」


 コクン、と頷くギワラだったが、カエル族は一匹だと思っていた為、いささか不服そうである。


「まさかカエル族(フロッグマン)が靴を履いているとは考えが及びませんでした」


 アカメの足元を見て若干悔しそうな表情をしている。

 相変わらず革靴を履くアカメは今後も変わることがないだろう。


「何をしに来た?」


 ベルジャンの詰問にシャマンが向き合う。


「誤解を解きてえ」

「我らのか?」

「この国の全部だ」


 忌々しそうにシャマンが吐き捨てる。


「オレたちは利用されただけだ。〈箱〉が何かなんて知らねえし、誰とも敵対するつもりもねえ。それなのに王家から殺し屋まで来やがったッ」

「……」

「だがな、たとえ王家だろうが黙って首を差し出すほど、オレたちはデキちゃいねえ」

「……」

「そこでな、奴らに仕返しをしてやりてえと思ってるんだ」

「我らケンタウロス族とハイランドには〈槍の誓い〉という盟約があるのを知らぬか」

「知らねえ。そうか……盟約、ねえ……」


 シャマンがギワラを振り返り、そしてベルジャンにまた向き合う。


「お前らもハイランドによって処刑されたって聞いてるけどなぁ」

「…………」


 一瞬、ベルジャンの鼻息が荒くなる。


「オレたち仲良くなれねえか?」


 まっすぐ睨みつけてくるベルジャンに対し、シャマンはそれ以上は口をつぐみ反応を待った。

 値踏みするような目線をまっすぐ受け止める。

 それは結構な長い沈黙であった。


「…………」

「……」


 一族の命と誇りを預かる者の定めだろう。

 ベルジャンの長い沈黙は、多くの葛藤をその場にいる者たちに知らしめる。

 さすがに耐えきれなくなったシャマンは、腰にぶら下げていた酒壺の栓を抜きあおる。

 だがとうに酒は空っぽで、一滴もシャマンの口に零れてくることはなかった。

 その様がベルジャンの止まった時を動かす。


「どうした? 緊張しすぎてここへ来るまでに飲み干してしまったのか」


 ベルジャンは先の戦いでシャマンをそれなりに評価していた。

 彼は自分と同様、まず仲間のことを第一に考えるタイプに思えたからだ。

 仲間を気遣いながら戦う故に、額に傷をつけることもできた。

 それらが思い過ごしかと疑った。


(貴様は酒におぼれる程度なのか)


 そうではなかった。


「いや、なに……オレはまだ飲んじゃいねえんだがな……」


 何故だか照れ臭そうに鼻の頭を掻きながら答える。


「墓が五つもあったからよ……最後に一杯ぐらいやりてえんじゃねかとな、ちと足りなかったな」


 カッっとベルジャンの目が見開く。

 蒼狼渓谷(ウルブスバレー)に倒れたケンタウロス族の墓がまさしく五つ。


「入るがいい。酒を振舞ってやろう」


 ベルジャンが集落の中へと取って返すと、戦士たちも来訪者に向けていた武器を下ろした。

 シャマンが仲間を振り返りニカっと満面の笑みをこぼす。


「信じられません。よく打ち解けられたものです」


 ギワラは表情を変えずにつぶやく。


「まあなんというか、相手の懐に飛び込むのが意外とうまいんじゃよ。うちのリーダーはの」


 クルペオの言葉にウィペットも頷いている。


「そういうものなのですか。では今後はそれも計算に入れて行動するようにしましょう」


 あくまでクールなギワラの発言にウィペットとクルペオは顔を見合わせる。

 この娘もなかなかに理解しがたい性格に思えたのだった。



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