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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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193 唯一のルール


 荒涼とした大地はシャマンたちに草原の国ハイランドの印象を改めさせた。

 蒼狼渓谷(ウルブスバレー)は剥き出しの赤土が多くの高低差を生む荒野であり、草木のまばらな寂しい土地であった。

 その印象を押し上げているのが無数に横たわる大きな獣の死骸だ。

 見るからに獰猛そうな青い毛並みを持つ大型の肉食獣は、どれもこれもが刃物で斬殺された形跡を残していた。


「バル・カーンつったか? すげえ数の死骸だな。この数に襲われたらひとたまりもねえだろ」

「残酷な処刑方だ。鎖に繋ぎ、獣の群れと死ぬまで戦わせるなどと」

「シャマン、ウィペット。あそこを見てみよ」


 クルペオが指し示した先に簡易的な墓標があった。

 数は五本。

 こんもりとした小山にそれぞれ槍が突き立てられている。


「ケンタウロス族です。彼らは死地に墓を立て、そこに戦士の魂を鎮めます」

「数が少なくねえか?」

「いや、ちょっと待て。ケンタウロスたちはその狼どもに殺されたという話ではなかったか?」

「そう聞いてます」


 ウィペットの問いに離れた位置にしゃがむギワラが答えた。


「じゃあ誰が墓なんてたてたんだよ」


 シャマンがウィペットとギワラに問う。


「…………つまり」

「そうですね。ケンタウロスたちは生き残った。誤報、あるいは偽の情報が我々にもたらされた」


 ギワラが回答する。


「やっぱそうか!」


 何故だかシャマンは嬉しそうに納得している。


「崖の上にウォーレンス家の紋章を携えた重装人形(アーマー・パペット)の残骸が転がっていました。処刑は上手く行かなかったようですね」


 ギワラは地面を見つめたままじっと考え込む。


「なにか気になるのか?」

「はい」


 彼女はひとつの足跡を指し示す。

 そこは最も激戦が繰り広げられた場所らしく、素人目には一つ一つの足跡なぞ区別も付かない。


「ここがどうした?」

「ケンタウロスでもバル・カーンでもない足跡がいくつかあります。おそらく四つ」

「四つ?」

「周辺を含めて四種類の足跡がありました。もちろんケンタウロスとバル・カーン、それに重装人形(アーマー・パペット)以外のです」

「何者だ?」

「特定はできませんが……ひとつだけならわかります」


 そう言ってギワラは一箇所を指し示す。


「ただひとつ、この者だけは素足のようでして、それも人間ではありません。亜人です」

「亜人? 種族は?」

「おそらく……カエル族(フロッグマン)魚人族(サハギン)。水かきのようなヒレがある足です」

「水棲種族がなんでこんな荒野にいるんだ?」

「わかるわけがない」


 クルペオの言う通りだろう。


「じゃあそいつらがどっちへ行ったかはわかるか?」

「はい。北東へ向かったようです」

「そっちには何がある?」

「ケンタウロス族が住まう、〈槍の穂先〉という名の集落です。ただ……」


 地面を見ながらギワラが考え込む。


「なんでえ?」

「はい。足跡がひとつ減ってます」

「別方向へ向かったってことか?」

「そのような形跡はありません」

「ケンタウロスの背中に乗せてもらったんじゃねえか?」

「そんなはずは……彼らは気位が高く、誰でもおいそれと背中に乗せるような真似はしません」

「だったら気に入られたんじゃねえか?」


 簡単な答えだろうとシャマンは思うのだが、この女盗賊はそういった感情論を考慮しないタイプのようだ。


「そんなものなのでしょうか」

「悩むことかよ」


 感情の方が先走るシャマンとは相性が悪そうだ。

 同じく感情的なレッキスとメインクーンではなく、理論派のウィペットとクルペオがいてくれて助かる。


「そもそもなんでケンタウロスはハイランドの王室に処刑されなくちゃならねえんだ?」

「〈テロ等準備罪〉が適用されたと聞いています」

「なんだそれ?」

「テロリスト、あるいは組織的犯罪集団が国家にとって重大な犯罪を計画、および実行のための準備を行った際に適用されます」

「む、むずかしいな……ウィペット」

「ようはケンタウロス族はハイランド王室にとって受け入れがたい何かを企んでいた」

「パンドゥラの箱じゃろうな」


 ウィペットもクルペオも理解しているようだ。


「じゃあよう、行ってみようぜ。ケンタウロスに会いによ」

「快く歓迎してくれるかのう?」

「こそこそ探るよりも正面から乗り込む方がきっと奴らも受け入れてくれるだろうぜ」


 シャマンの意見にギワラは一人首をかしげる。


「そういうものでしょうか」

「おう! オレは奴と戦ってそう感じたんだ。クルペオ、このお嬢さんにオレたちパーティーのルールを教えてやんな」


 はあ、とため息をつきながらクルペオが教えてくれる。


「リーダーであるシャマンが決めたのならそれに従う。それがこのパーティー唯一のルールじゃ」

「キキキッ! そういうこった」

「了解しました。ではご案内します」


 ルールがそうなら従うまで。

 あっさりと引き下がるギワラを見て、シャマンはやはり、こいつは苦手なタイプだと通念していた。



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