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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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192 嬢王


 これから暫くの間、メインクーンが厄介になる店の名は<メイド・イン・ヘヴン>。

 オーナーは痩せ型で頬がこけたワシ鼻が特徴の中年男性で、身なりはいいがあまり上品な印象はない、有り体に言えば下衆が服を着たような男だった。

 そんなオーナーだが、ネズミが部屋に入ると満面の愛想笑いで歓待した。


「そのお嬢さんをうちで預かればよろしいのですね」

「ああ。無理言って済まねえが」

「とんでもない! 確かにうちに亜人はいやせんが、ネズミさんのご紹介ですからね。大事にさせていただきますよ」


 オーナーはネズミの手を握り、メインクーンにはウィンクして見せる。

 正直二度と見たくないウィンクだとメインクーンは思った。


「よろしくな」と言葉を残し、ネズミは帰っていった。


 オーナーはゆっくりと自分の席へ戻り、大きく息をつきながら椅子に深々と腰掛ける。


「ふう。……で?」


 それまでの愛想笑いからオーナーの態度があからさまに変わる。

 机の上にある小箱から紙タバコを取り出すと口に咥え火をつける。

 箱には<V>とだけ小さく刻印がされているが、メインクーンには銘柄までの知識はなかった。


「一応過去に少しだけ、ほんの少しだけだ、ネズミ()には世話になった手前、渋々預かってやるんだが、お前なにができるんだ?」

「何って?」

「うちはキャスト……女のことだが、キャストが隣に座り客に気持ちよくなっていただく店だ。そういうテクを心得てるかって聞いてんだ」


 前回は奥の個室へまっすぐ通されたため、この店がどういう店かまで気に止めてなかった。

 単なる酒場と思っていたが、だいぶいかがわしい店だったようだ。


「なになにい? 新人?」


 そこへメインクーンと同じ、派手なメイド服を着た女が数人入室してきた。

 そろいもそろって美しくいかがわしい。

 一気に室内に化粧の匂いが充満する。

 鼻のきくメインクーンはわずかに顔をしかめる。


「あらあら、また結構なチンチクリンが入ったのね」

「どうせすぐに辞めちゃうんじゃない?」

「そうねぇ、色気も感じないしぃ、客もとれそうにないわねぇ」

「だいたい亜人じゃん。需要あるの?」

「それ以前にそもそもこの娘、どこにもおっぱいないじゃなぁい! 無理っしょ」

「ほんとだ! アハハハ」


 ムカッ!


 最後の一言にはさすがにムカっ腹がたった。

 確かにレッキスやクルペオ程にたわわではないが、ミナミとはいい勝負をしている。

 けっして平均より劣るというわけではない。と思っている。

 そんなメインクーンの怒りも知らず、室内はオーナーと詰めかけた女たちによる馬鹿笑いでやかましい。


「そういうわけだ。どこで拾われたメスネコかは知らねえが、不味い飯でも食いたきゃ精一杯オレらのために働きやが……」


 偉そうにふんぞり返っていたオーナーが突然口を閉ざす。

 訝しんだ女たちがオーナーを見るとプルプルと震えながら微動だにしない。

 それだけでなく、どこか苦しいのだろうか。頬を一筋の汗が流れ落ちる。


「ど、どうしたのさオーナ……ッ」


 異変は女たちにも訪れた。

 なぜオーナーが震えているのか理解した。

 動けないのだ。

 指一本、口を開くこともできない。

 女たちは訳がわからずパニックを起こしそうになる。


 ス、と静かにメインクーンがオーナーの背後に立つ。

 彼にはメインクーンの表情が見えないが、女たちには見える。

 その顔に一切の憐憫の情が見えない。

 逆らえば躊躇なく……


 メインクーンだけは動けるということは、この怪異を生み出した張本人が彼女なのであろう。

 鋭い爪をオーナーの喉に当て、静かに囁く。


「あのさ、ひとつ言っておくけど。私この店に居つくつもりはないし、こんなちんけな場所でお山の大将気取るつもりもさらさらないの」


 オーナーが口に咥えたタバコの灰が長くなる。


理由(ワケ)あって暫くここに出入りするけどさ、それをあんたらに教えてやるつもりはないし、邪魔をされるつもりもないの」


 ついに灰がオーナーの太腿に落ちる。

 熱さに呻くが声も出ない。


「理解した? したなら首を縦に振りな。動くでしょ」


 こくんこくんと首を振る。

 それで満足したのかメインクーンが腕を振ると全員自由な体を取り戻した。

 彼女の操る不可視の糸は、複数の人間を拘束することもできる。

 いや、できるようになったのだ。

 先日のグランド・ケイマンとの戦いが彼女のレベルアップに繋がった。


 留飲を下げて満足気に部屋を出ていこうとするメインクーンだが、ふと何かを思い付き振りかえる。


「そうだオーナー」


 先程までより声が明るくなっているのだが誰もそれに気付けない。


「ま、まだなにかあんのかよ……ですか?」

「私の給料だけどね、ここに居る誰よりもたっくさん頂戴よね」


 そう言ってにゃあにゃあと笑いながら部屋を出ていった。

 すでに誰も咎める勇気などなく、これ以降メインクーンは嬢王と呼ばれ、この店のトップに君臨するのであった。



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