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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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185 尾行


 込み入ったスラム街をシャマンとメインクーンは並んで歩く。

 街の中心地からは最も離れた外壁により近づいていく。

 でこぼことした石垣に沿うように、あばら家がいくつも立ち並ぶエリアがある。

 そのうちの一軒がシャマンたちが潜む臨時の隠れ家であった。

 そこへ至る裏道まで、もう数十歩というあたりでメインクーンの鼻がひくつきだす。


「どうした」

「つけられてるにゃ」


 あまりに自然に、街の喧騒に溶け込んでいたせいで、さしものメインクーンもここまで気付けずにいた。


「どいつだ?」

「後ろを歩いてる二人組……ずっとついてきてる。振り向かないでよ、シャマン」

「ああ……」


 歩調は変えず、二人は入る予定だった裏道を見向きもせず素通りする。

 その裏道の手前に座り込む人影があった。

 ボロボロの外套をかぶってはいるが、頭に兎の耳を生やした女であった。

 仲間のレッキスである。

 シャマンとメインクーンが戻るまで、用心してこの位置で見張りをしていたのだ。


「どれ、もうしばらく夕方の散歩を続けるとするか。()()()()()か?」

()()()()()よ」

「……」


 目を合わすこともなく通り過ぎるシャマンとメインクーン。

 そのまま通りを行きすぎ角を左に曲がる。

 そして道端に座り込んだままじっとしているレッキスのそばを、後を追うように奇妙な二人組が通り過ぎて行った。

 一人はくすんだ色の着流しを着たトカゲ族の老人。酔っているのかかなりの千鳥足だ。

 もう一人は人間の小男。対照的にこざっぱりとした、わりと身なりのいい服装をしている。小役人といった感がある。

 どうやら小男が老人に酒を注意している会話が聞こえてくる。

 二人組はそのままシャマンたちと同じ方向に角を曲がっていってしまった。


「あれかな。どうする……」


 二人の会話からつけられていることがわかる。

 レッキスの見立てでは尾行者と思しき二人組に脅威は感じなかった。

 あくまで斥候か。あるいは情報屋か。

 直近の脅威とは感じられない。

 シャマンたちなら上手く撒けるだろう。


「下手に動かない方がいいんよ」


 立ち上がりかけたレッキスだが、静かにまた、その場に腰を落ち着けた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「気付かれてるなあ」

「はい?」


 ケイマンの囁きにエッセルが反応する。


「あのネコマタの嬢ちゃん、わしらに気付いとる。わずかに歩速が上がっとるよ」

「え、そうなんですか? どうして気付かれたんでしょう」

「わしはともかくエッセル君は素人じゃから」

「え、えー! 僕のせいですか」


 かなり前を行くシャマンとメインクーンが再び角を左に曲がる。


「左に曲がって、また左。確定よな」

「そうなんですか」

「古典的なやり方だがな。撒くというより突き止めるやり方だな」

「むむむ」

「それなりに腕に覚えがあるのか、なんなら正面からやってやってもいいが」


 顎に手を当てしばし考える。


「どうせなら五人いっぺんに終わらせたかったんだがなあ」

「ばれちゃったからにはもう、他の三人とは合流しないでしょうね」

「エッセル君」

「はい」

「五人の中にたしか兎耳族(バニー)の女もいるんだったね」

「はい」


 突然ケイマンは(きびす)を返すと、もと来た道を戻り始めた。


「ちょちょちょ、どこ行くんですかケイマン様」

「さっきいたなあ。まずはあっちから行ってみよか」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「あれ」


 ピタ、っとメインクーンの足が止まる。


「どうした」

「ついてこない」

「撒いたのか」


 後ろを振り向いたメインクーンだが、遥か路地の先まで誰の姿も見えなかった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ひたひたと近づいてくる者に気付き、レッキスはそっと顔を上げた。

 頭まで被った外套のフード越しにそいつの足が見える。

 草鞋を履いたトカゲ族の足だ。

 ハイランドは人間の治める人間の国だが、レッキスのような亜人種族も大勢いる。

 それでも今この時、近づいてきたのがトカゲ族であったならば、それは先の尾行者であると一瞬で紐づけされて然りだろう。


(まさか、シャマンの仲間だとバレていた?)


 その可能性を考慮しなかった自分の浅はかさを呪いながらも、レッキスはもうしばらく素知らぬフリを決め込むことにした。


「なあお嬢さん。バニーのお嬢さん」


 心中で舌打ちする。

 周囲に兎耳族(バニー)は自分しかいない。


「すまんが、酒を持っていないかね? 切らしてしまってな」

「ないんよ」


 できるだけ素っ気なく、とっとと去ってもらえるように答える。


「そうか。なら仕方ない。エッセル君」


 見上げると離れた位置にもう一人の小男がいた。


「酒を一瓶買ってきてくれんか」

「まだ飲むんですかぁ」

「ッカカカ。こんな旨そうなのがあるんだ。そりゃあ飲みたくなるだろう。なあお嬢さん」


 ケイマンがレッキスに、さらに一歩近づく。


「女の血と胆汁をな、酒で割って飲むのがわしは大好きなんじゃよ」

「……ッ!」


 ギラッ! と白刃が光った。


 神速の抜刀でケイマンの刀が(はし)る。


 ハラリ、と切り裂かれた外套が舞い落ちる。


 数歩後ろにレッキスが立っていた。

 額に冷や汗が浮いている。


「よう避けた。いや、よう避けた」


 ケイマンの顔には残忍な笑みが浮く。


「まずはお前さんからいただくとしよう。血と胆汁をな」


 レッキスは両手にはめた鉤爪(バグナウ)を確認しながら脳裏で次の行動を選択していた。


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