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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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184 剣聖


 シャマンにぶつかられ、メインクーンに可愛く謝られたトカゲ族のその酔客は、店を出ていく二人の後ろ姿を穏やかに見送った。

 その姿が見えなくなるのと同時に、女給が新たな酒の入ったカップを持ってやってきた。


「はあぁ、来た来た。いただきます」


 新たな酒に口をつける。

 だいぶ酒杯を重ねているようで、顔は赤く目元も定まっていない。

 カップを持つ手元もプルプルと震えている。

 その様は周りから見ると滑稽で、なんとも弱々しく映る。

 大柄で乱暴者の多いトカゲ族が多い中、この酔客は小柄で、歳もかなり重ねているようだ。

 着ている衣服もくすんだ色の着流しひとつ。

 このような無法地帯にあって、のほほんとしていられる身分には見えない。


 案の定、ひとりのごろつきがニヤニヤと嫌な笑いを顔面に張り付けながら近寄ると、


 バシャッ!


「あおっ! テメー何しやがるッ」


 わざとらしく体を当てて、酔客の手にあった酒をひっかぶる演技をして見せた。

 だが小柄なトカゲの酔客は、ごろつきの思惑とは違う反応をして見せた。


「あぁ、もったいない」


 ごろつきなんぞを気にすることもなく、カップに残ったわずかばかりの酒を傾けて飲み干そうとする。


「テメーふざけてんのか、コラァ」


 ドガシャッ!


 テーブルをひっくり返し威嚇するごろつき。

 襟首をつかんで無理やり立ち上がらせる。

 人間のなかでも特に大柄な体格で、自身より小さなトカゲ族のこの酔客に、怒気を含ませた強面(こわもて)で凄んで見せる。


「オレは今日イライラしてんだ。大人しく有り金置いて……」


 ドスッ……


「ん?」

「キャアアー」


 女給が悲鳴を上げている。

 ごろつきは唐突に腹部から来た違和感に顔をしかめた。

 急に力が入らなくなり、掴んでいたトカゲの襟首から握力が消える。

 ごろつきの横腹に刀が突き刺されていた。

 格好のカモだと侮っていた憐れなトカゲに刺されていた。

 いつの間に抜いたのか、いやいつの間に刀を手にしていたのか。


「て、てめぇ……」

「おっとと」


 ふらふらと倒れるごろつきから素早く刀を引き抜くと、伝い溢れ出てくる血を酒杯に注ぐ。


「血を混ぜると酒はなお旨いんだ」


 グイッと煽る。


「ガハッ、ぺっぺっ」


 が、やおら飲んだ酒を吐き出してしまう。


「うげぇ、胃液と胆汁まで混ざっちまった。男のはくせえんだ胆汁は。飲むなら女のに限る」


 残った酒を倒れているごろつきにぶっかける。


「少々飲みすぎたかな、手元が狂っちまったようだ」


 そう言いながら刀の血を振り払い鞘に納める。


「あ、あー、ケイマン様! なかなか出てこないと思ったらやっぱりこんなことに。あーあー、もうまた酔っぱらって」


 店内に入ってきた人間の小男が状況を見て頭を抱える。


「何してるんですか、奴らを見失っちゃいますよ! さあ早く行きましょう」

「おーおーそうだな。ちょいと酔いを覚まさねえとな」


 倒れたごろつきなど気にすることもなく、出ていこうとするこの二人組を誰も止めることはできなかった。

 下手に声をかけてごろつきと同じ目に遭うのは嫌だったからだ。

 それだけ道理の通じない相手だと店内の誰もが理解していた。


「で、エッセル君。そいつらはどっちへ行ったんだ」

「あっちです」


 エッセルと呼ばれた小男が指差す方へ歩きだす。

 スラム街をさらに奥へと入っていくことになる。


「あのネコマタのお嬢ちゃんは可愛かったな。あの娘の血や胆汁で割った酒はさぞかし旨かろうよ」

「はいはい、そうですね」

「獲物は何人だったか」

「五人ですよ。亜人ばかりの五人組です」

「女は他にもいるのか」

「いますよ。他に兎耳族(バニー)がひとりと狐狗族(キツネ)がひとり」

「カカカ。今夜は旨い酒が飲めそうだな」

「まだ飲む気ですか……」


 エッセルはこのトカゲ、ケイマンの残忍性よりも、酒癖の悪さに呆れていた。


「世界最強の剣聖グランド・ケイマンがこんな酔っ払いだなんて、まったくもう」

「カカカカ。誰よりも剣が巧いだけだ。そこに性格なんてものは関係あるまいよ」

「<剣聖>の称号は、ハイランド王家によってただ一人に与えられる世界的な栄誉なのですよ」

「のたまうのう。いかにも、格式にこだわるハイランドの人間らしい。わしなんぞにくれてやるもんだから、ブロッソの人気がなくなるんだよ」

「先の亜人戦争で生まれた人間と亜人の隔たりを減らすため、新たな<剣聖>にケイマン様をお選びいただいたのですよ」

「完璧に人選ミスだったのぉ」

「ご自分でおっしゃらないでください」

「カカカカ」


 このような会話を誰はばかることなく交わしながら、二人はシャマンとメインクーンの行った道を堂々と歩いていく。


「とはいえ亜人(わし)亜人ども(そいつら)を暗殺させようっちゅうんだから、ブロッソにそんな殊勝な心掛けなぞあるものかよ」

「はいはい。国王様の悪口はもうその辺にしといてください」

「ッカカカ! 愉快愉快」


 ただ散歩を楽しんでいる。

 そのような笑顔のまま、二人は通りを歩き去っていった。



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