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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

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182 囮依頼終了


 ベルジャンの槍がシャマンの喉をめがけて鋭く突かれる。

 その槍を斧で弾こうとするが、予想外の力強さに思ったほど軌道がずれない。

 慌てながらも咄嗟に半身をかわせたおかげで死を免れた。

 一気にシャマンの気持ちが引き締まる。


(なんて膂力(りょりょく)だ、この馬野郎)


 思った以上の強敵に心の中で舌打ちする。

 心胆寒からしめられたシャマンは、続けざまに突き出される槍をかわしながら仲間の安否を確認する。

 全員がケンタウロスの戦士を同時に二匹ずつ相手している。

 敵の数はざっと数えて十三騎。

 こちらは五人。

 シャマンとベルジャンはタイマンなので、残った四騎が四方に広がりこちらの退路を断っている。


(クルペオの符術でサポートがいる)


 とはいえ当のクルペオも二騎を相手に余裕がない。

 本来なら符術師であるクルペオは前線に立たせてはならないのだ。


「余所見をする余裕が貴様にあるかッ」



 ザシュッ!



 周囲に気をとられ過ぎたシャマンの額が大きく裂かれる。

 顔を逸らすことで貫通は免れたが、大きく開いた額から、赤い血がどくどくと流れ落ちる。


「ぐあっ」


 額を抑えよろめくシャマン。


「〈箱〉をざわつかせる輩は見過ごせぬ。止めだッ」

「なろうッ」


 ベルジャンの殺気が込められた攻撃を、シャマンは全力を込めて斧で弾き返す。


「なにッ」


 体勢を崩すベルジャン。

 その彼の下半身、馬の後ろ足をシャマンは大きく斧で切り裂いた。


「ぬあぁッ」


 今度はベルジャンの馬身から流血が滴り落ちる。


「ハァ、ハァ、若造がァ、あまり舐めた口きいてんじゃねえぞ、この馬野郎」

「貴様ぁ」


 お互いの目に強い殺気が溢れだす。


「ウオオッ」

「ガァッ」


 必殺の一撃を繰り出そうと双方が雄叫びを上げる。


「待てーい」


 そこへ騎馬の一団が現れ、シャマンたちとケンタウロスたちとを包囲した。

 騒動を聞き付けたローズマーキーの衛兵隊であった。


「待て待て待てーい。双方そこを動くなよお」


 隊長らしい壮年の男がシャマンとベルジャンの間に割って入る。

 自然にシャマンたちとケンタウロスたちがそれぞれ一塊に合流する。


「貴様たち、何をしている。ここは天下のハイランド公国が護りし街道だぞ」

「どうやらこの先のローズマーキーからの衛兵らしいな」


 ウィペットの推察にシャマンも同意だった。


「オレたちはただの運び屋だ。ケンタウロス族(こいつら)が大切な荷物を奪おうと襲ってきやがったんだ」


 シャマンの言い分に隊長は頷くと、ベルジャンの前へと進む。


「だ、そうだが、貴様らの申し開きはあるか」

「……」

「答えないという事は認めるのだな」

「……」

「では強盗容疑で連行する。おい、手錠を持て」


 ドガアッ!


「ぐわぁっ」


 それまで黙っていたベルジャンが突然隊長を殴り飛ばした。

 隊長は左頬を殴られ馬から落下する。


「き、貴様ぁ……抵抗するか」

「宿場町駐屯の衛兵風情が! 聖賢王シュテインと我らケンタウロスの〈槍の誓い〉に泥を塗るかッ」

「ぬぬ、〈槍の誓い〉なんぞ、シュテイン王亡き今、なんの意味もなさぬ。貴様らは今や、ただ草原を這いまわる下劣な亜人部族のひとつにすぎん」


 ベルジャンのこめかみに血管が浮き出るほどの怒りが現れる。


「それが現国王ブロッソの考えなのだな」


 ベルジャンはシャマンたちに背を向けるとその場を走りだす。

 他のケンタウロスたちも追随する。

 そのうちのひとりがベルジャンに駆け寄る。


「いいのかベルジャン? 〈箱〉を奪い取らなくても」

「かまわぬ。どうせ偽物だ」

「それはそうだろうが……まあ、本物を確かめに戻ればいいわけだしな」

「口を閉ざせ、トラケナー。余計なことを言うな」

「……」


 その場を後にする彼らを衛兵たちは誰も追いかけたりはしなかった。

 ただひとり、とても耳のいい者がいた。

 去り行くケンタウロスたちに耳をそばだてていたが、やがて隊長の元へと進み出て労いの言葉をかけ始めた。


「いやいや、ご苦労様です隊長。おかげで助かりました」


 その男は七日前、最初の宿場町アルネスで、シャマンたちに運ぶべき箱を渡してくれたファントムの部下であった。


「ふん。我らが出張ればこの程度の案件、大したことではないわ。しかし忌々しい」

「奴らも隊長の堂々とした振る舞いに思わず手が出たのでしょう。それで慌てて逃げ去ったのです。所詮は小物。あえて追い払うことを選択なされたのはご賢明でした」

「お、おう。うむ、そうである」

「どうぞ、少ないですが治療費と、部下の皆様へのお振舞等にお使いください」


 男はそっと隊長の懐に銀貨の詰まった袋を差し入れる。

 隊長も何も言わずに受け入れている。


「さて、みなさん。荷物を受け取りましょうか」


 男はシャマンたちに近寄ると、依頼品の箱を受け取り中身を取り出す。

 中には小さな黒い石が入っていた。


「なんだそれは」

「〈ジオグラフィック・ポジショニング・ストーン〉という。対になっているある魔道具を通すとこの石の現在地をいつでも知ることが出来るのだ」

「それじゃあ私たちのことをずっと追跡できたってこと?」

「できた、ではなく、していたのさ。お前たちが多くの襲撃を受けていたのも知っている。よく退け続けたな。ま、仮に箱を奪われても、奪った奴を追跡もできるがな」

「なぜここへ直接やって来た? 衛兵まで動かして」

「ケンタウロスの一族が動いたという情報が入ったからだ。奴らは明らかに他の襲撃者とは違う」

「オレたちは単なる囮ではなかったのか?」


 ウィペットのその質問には答えようとはせず、男はカバンから銀貨の詰まった袋を取り出す。


「報酬です。これにて依頼は終了です」


 メインクーンが男から受け取った袋の中身を確認する。


「約束通りあるよ、シャマン」

「おい、この依頼、一体どんな意味があったんだ。オレたちに何をさせていたんだ」


 去りかけていた男が立ち止まり、首だけを振り向かせる。


「依頼は終わりました。これ以上はあなた方には関係ありません。余計な詮索は、しないことです」


 それだけ言うと男は衛兵たちと共に去って行ってしまった。

 行先はローズマーキーの街だろう。


「なんかよくわからないんよ」


 レッキスが顔いっぱいに不満を募らせている。

 その気持ちは全員一緒であった。


「どうするのシャマン? 私たちもローズマーキーへ行くの」

「……いや……カレドニアへ戻る。あのファントムって野郎、役人すら動かせるほどの力を持っているらしい。どんな奴か調べておいた方がいいだろう」


 面倒なことに巻き込まれたという自覚がシャマンの中に渦巻いていた。



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