表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第四章 聖女・救国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

173/722

173 光を仰ぐベルジャン

挿絵(By みてみん)


 羽根飾りのついた槍の穂先が巨大な狼の喉を突き破る。

 力を込めて槍を引き抜くと、狼は赤い鮮血をまき散らしながら地に倒れた。


「はぁ、はぁ、これで何匹目だ……」


 ケンタウロス族の若きリーダーであるベルジャンは、槍に付いた返り血を振り払いながら周囲を見渡した。

 自身の周りには数えきれないほどの蒼い狼、バル・カーンの死体が重なる。

 だがそれ以上の数の群れが、今なお続々とこの谷に集結してくる。

 すでに何人か、仲間のケンタウロスは動かぬ死体となっている。


「くそっ! この鎖さえ外せれば……」


 彼の四本ある脚のうち、後ろ脚の二本には枷が嵌められ、繋がった短めの太い鎖が固い岩に打ち込まれている。

 他の善戦しているケンタウロス族も皆同様である。

 自由に走り回ることのできない彼らに獣は次々と襲い掛かってくる。


「ぐぎゃァッ」


 また一人戦士が倒れた。

 疲労と、終わりの見えない絶望から、一瞬の虚を突かれ、獰猛なバル・カーンに喉笛を引き千切られてしまったのだ。


「トラケナー! うぉぉおおぉぉ」


 仲間を死に追いやった獣を刺し貫こうと、ベルジャンが槍を構え駆けだそうとする。


 ギンッ!


 だが頑丈な鎖はその移動を許さず、ベルジャンの槍は標的には届かなかった。

 代わりに別のバル・カーンがベルジャンに体当たりをぶちかましてくる。


「がっ」


 その衝撃に体ごと岩盤に叩きつけられ一瞬息が詰まる。

 目を開いたとき、眼前に食い殺そうと迫りくる獣の開いた大きな顎があった。


「しまっ……」



 ドズッッン!



 死を覚悟したベルジャンの目の前で、獣が脳天を串刺しにされ倒れ伏した。


「危なかったな」


 獣の頭部を串刺した刀を引き抜きながら、小さな体の剣士が声をかけてきた。


「お、お前は……」

「クラン・ウェル。カザロ村のカエル族(フロッグマン)だ」

「クラン……まさか」


 間一髪、ベルジャンを助けたウシツノは、ひらりと彼の横に降り立った。


「ハクニーなら無事だ。オレたちが助けた」

「ハクニー! 本当か」

「ああ! 話はあとだ! まずはこいつらを蹴散らすぞ」


 新たな獲物と見たバル・カーンが飛び掛かるも、ウシツノがその獣を豪快に叩っ斬る。


「くっ、助太刀、感謝するが、バル・カーンは次々と集まってきているんだ」

「大丈夫だ。じきに途切れる」

「なに?」


 ウシツノが指し示す崖の上をベルジャンは見上げた。

 赤い鳥の姿をした騎士が、憎き重装人形(アーマーパペット)三体を切り裂き、奴らから奪った犬笛を握り潰していた。


「これでもう増援は来ない」

「そのようだ。だが」


 襲い来るバル・カーンを必死に斬り払うも、彼の目には次々と傷つき、倒れていく瀕死の仲間たちが映し出される。

 もはや彼らを救う手立てがない事に、ベルジャンは絶望の淵に立たされていた。


「このままでは、オレひとり、生き恥を晒すことに……」

「そんなことはないさ! な、シオリ殿」

「なんとッ!」


 ベルジャンは驚愕した。

 このような死地に、何とも不釣り合いな少女がいた。

 自身の体より長大な、白く美しい剣を携えて、人間の少女がひとり、恐怖にすくむこともなく近寄ってくるではないか。

 彼の目には、か細く見えるこの少女がその剣を操れるほどの戦士にはまるで見えなかった。

 そんなベルジャンの動揺を見て、ウシツノはこの戦士が優しい心を持つ、信頼のおける者だと思えた。


「大丈夫だ。うちのお姫さまは最強だからな」

「あの少女がか?」

「シオリ殿、傷ついた戦士たちに光を! 折れかけた戦意に祝福を」

「アイサー」


 ウシツノに軽く頷いて見せるとシオリは持っていた白い剣を天に掲げた。

 そのシオリに数匹のバル・カーンが飛びつこうとする。


「危ないッ」

「転身! 姫神! 〈純白聖女(ブラン・ラ・ピュセル)〉」




 光臨(カッッッ)




 まばゆい光に覆われたシオリに獣たちはたちまち弾きかえされる。


「うおぉぉお!」


 その光にベルジャンも、生き残っている他のケンタウロスも、そして谷底へと向かっていたハクニーまでも目を見張る。


光よ(リュミエール)


 光の向こうからシオリの声がした。

 するとケンタウロスたちの体も光に包まれる。


「こ、これは……なんと! 傷が」


 体中に負っていたいくつもの傷がみるみるふさがっていく。


祝福を(ベネディクション)


 またしてもシオリの声がする。

 すると今度はみるみると力がみなぎってくるのを感じた。


「な、なんだ? この溢れ出るような力の高揚感は……これは……」

「どうだ? もう負ける気もしないだろう?」


 刀を担いだウシツノの言に、ベルジャンは強く同意した。

 そして改めてシオリの姿を確かめようとする。


「ッ!」


 ベルジャンは思わず息を飲んだ。

 先程垣間見た、あのか細い少女はどこへやら。

 そこに立っていたのは光り輝く六翼の翼を持つ、白い乙女であった。

 血生臭いこの戦地にあって、光をまとい静かにたたずむ、そのあまりに美しい姿に完全に見惚れてしまっていた。


「女神……」


 密かに、彼は心の内で、この少女を崇拝していることを自覚していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ