171 人形
ケンタウロスの少女に目を奪われていたウシツノに、背後から迫った重いハンマーが振り下ろされる。
「おっと!」
ギィッッン!
だがウシツノは慌てることなくそのハンマーを刀で弾きかえした。
逆によろける全身甲冑の鎧騎士に向かいウシツノの追撃が炸裂する。
「でやッ!」
ガギッィィン!
鎧騎士の右鎖骨に振り下ろされた自来也の、その強烈な一撃に騎士は大地に膝を着いた。
とはいえ硬い装甲に切り捨てるまではいかない。
ウシツノは舌打ちした。
「なんとも硬いな。自来也が刃こぼれしてしまう」
そのウシツノに別の鎧騎士が襲いかかった。
またしても静かに振り下ろされる槌鉾をかわしながらウシツノが叫ぶ。
「お前たち、何の目的でこの女を狙う?」
「……」
しかしそれに答えることはなく、騎士は黙ってメイスを振り続けるのみだ。
「ちっ! 答えないどころか声すら出さないぞ」
「なんとも不気味な連中ですね」
「おいアカメ、どうする? 無傷で追い払うのは無理だぞ。硬すぎるッ」
「わ、私も……」
神器を掲げ変身しようとしたシオリの手をタイランが止めた。
「転身はするな。まだ情勢が未知だ。正体を知られるには早すぎる」
「でも!」
「大丈夫だ。今のウシツノならあの程度の敵にやられはせんよ」
見ると確かにウシツノには余裕が感じられた。
ひょいひょいと鎧騎士の攻撃をかわし続けながらアカメと言い争っている。
「殺すつもりにならんと終わらんぞアカメ」
「ですが相手はハイランド王室付きの騎士ですよ! ここでケンカを売ってしまってはあとあと面倒なことに……」
「もう遅いと思うがな」
「タイランさん、何を面白そうに」
どこか愉快そうにニヤつくタイランにアカメが顔をしかめる。
「いやなに、ウシツノの奴、強くなったと思ってな。実際あの鎧騎士ども、かなりの強敵だぞ」
「わかってます。動きに息遣いすら感じません。まるで生命ある者とは思えませんよ!」
ほう、とタイランは内心アカメの観察力に感心した。
「やつらは、パペットです」
そのとき倒れていたケンタウロスの少女が口を開いた。
弱々しいながらも自力で立ち上がり戦況を見つめている。
「パペット?」
「そうです。あれはただ動く甲冑でしかない。木偶人形なんです。命ある者ではない」
「試してみるか」
そう言うや腰からレイピアを抜き放ち、神速で控えていた鎧騎士の首、鎧と鎧の隙間に細剣を突き刺した。
「ギャァァァァ」
初めて発した鎧騎士の声は断末魔の叫びだった。
しかしそれは人の声というよりは、怨嗟を滲ませた怨霊の雄叫びといった具合に不気味なものであった。
かすかに霧のようなものが飛散した気がする。
それと同時にその鎧騎士は動かなくなり、次の瞬間バラバラに甲冑だけが地面に散乱してしまった。
鎧の中には何もなく、単にがらんどうの空っぽだった。
「本当だ。中身がない……」
「生きる鎧ですか……ハイランドの王室がなぜこのような禍々しきものを」
呆然とするシオリとアカメを尻目に、むしろウシツノは力がみなぎりだした。
「これは反撃してもよいという事だな! いいよな、アカメ?」
「そ、そうですね。今は降りかかる火の粉を払うよりありません」
「自ら火中に飛び込んだともいえるがな」
「タイランさん!」
アカメの抗議の視線を笑ってかわすタイランだが、彼にこれ以上剣を振る出番は回ってこなかった。
「ガマ流刀殺法! 質実剛剣ッ」
カエル族の跳躍力を利用した、空中から脳天への重い一撃が鎧騎士を真っ二つに破断する。
着地と同時に斬りかかってきた別の鎧騎士だが、唸りを上げて迫る武器が起こす微風を感じ取ったウシツノは、その攻撃を転がりながらかわすと地面すれすれ、そいつの足首を刀の払いで粉砕した。
くずおれる騎士の冑に刀を突き刺し止めを刺す。
残りの二体は同時に襲い掛かってきた。
二つのウォーハンマーがそろって振り下ろされる。
ジャンプしてかわすとウシツノは片方の鎧騎士の顔を蹴り、その反動でもう片方の懐に入り込む。
自来也が鎧騎士の胴体を貫通した。
不気味な咆哮を上げて動かなくなった鎧がバラバラに散乱する。
顔を蹴られた最後の鎧騎士が背後からウシツノに迫った。
「ガマ流刀殺法! 疾風刃雷!」
刀を横薙ぎに、回転しながら背後の鎧騎士を切り裂いた。
斬撃は止まることなく四回転して相手の鎧を四つに輪切りにしてしまった。
最後の鎧騎士が倒れたことで戦闘は終結した。
「すごい……重装人形を鎧ごと切り裂くなんて……」
助けたケンタウロス族の少女が驚愕の眼差しでウシツノを見つめていた。
「ど、どうという事はないさ。心を持たぬ輩などな」
照れ隠しに刃こぼれをチェックする振りで顔を隠しウシツノはそう答えた。
アカメがそんなウシツノをからかいつつ半人半馬の少女に歩み寄る。
「さて、助けたからというわけではありませんが、事情を説明していただけますか」
「あなたたちは」
「旅の者です。まあ、いささか奇妙な面子と思われるかもしれませんが」
それは確かにと少女も思った。
この大陸では珍しいカエル族が二人に鳥人族バードマンの騎士、そしてもうひとりはニンゲンの少女。
「なぜ追われていたのですか? 人形だったとはいえ、あれは紛れもなくハイランド王室、ウォーレンス家の紋章でした」
「た、助けてください! 兄がッ」
少女がそばにいたシオリに縋りつく。
「お兄さん?」
「兄たちが私だけでも逃がそうとして……まだ戦っているはずなんです!」
「どこで」
少女は立ち上がると自分が逃げてきた方向を示した。
「蒼狼渓谷です! 早く行かないと、兄が、兄たちが、喰い殺されてしまう!」
2026年1月10日 挿絵をカラー化しました。




