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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
断章III

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165/722

165 王の月八日〈謁見の間〉


 ――聖刻歴一万九〇二二年王の月(一月)八日。


 特に身体を拘束されることもなく、エルフの女王ト=モと紅姫アユミは〈支配の宮殿(ヴァルテン・パラスト)〉の謁見の間まで連れてこられた。

 〈アーカム大魔境〉は改造人間と呼ばれる魔物たちの住む地域。

 この地を統治する妖精女王ティターニアの居城がまさしくこの〈支配の宮殿(ヴァルテン・パラスト)〉である。


 そして今、二人の目の前にはアユミと同じ姫神、〈藍姫〉サチがいる。


 二人の姿を認めると、玉座の前に立つティターニアが口を開いた。


「これはこれはエルフの女王、そして紅姫。ようこそおいでくださいました。旅はいかほどや」

「見え透いた芝居はよい。用件だけ申せ」

「チッ」


 つい先日も、クァックジャードの騎士二人に同じような返礼を受けたことをティターニアは思い出し、舌打ちした。


「では、エルフの女王よ。この地に参った理由をお聞かせ願おうかしら」

「この地に用はない。通り抜けるだけじゃ」

「それを信じろと?」

「そうじゃ」

「ふうむ」


 暫時、ティターニアが押し黙る。

 顎に手を当て、小首を傾げ、いささか芝居がかった考えを巡らす素振りを見せながら、その視線はアユミの上で止まる。


「エルフの女王よ。そなたの旅の供は姫神〈紅姫〉ではありませんか」

「そうじゃ」

「であれば、姫神を連れ歩く者を無条件で開放する。そんな無能が一国を統治できると思われますか」

「いいや。無知は無恥。為政者にはあってはならぬことじゃ」

「フフ、理解いただき感謝しますわ」

「……要求はなんじゃ」

「通行税をいただこうかしら」

「通行税? いくらじゃ」

「金貨を六万枚(六十億円相当)


 それは先日エスメラルダが交渉に用意した額の倍に当たる。


「払わせる気のない額じゃな」


 エルフの言にティターニアがほくそ笑む。


「なにが本音じゃ」

「さすがはエルフの女王。話が早くて助かりますわ」

「……」

「紅姫ですわ」


「!」


 自分に話の矛が振られ、アユミの胸がざわつく。


「紅姫を差し出せ、と? 無理な相談じゃとわかるであろう」

「そうではありませんよエルフの女王よ」


 ティターニアのアユミを見る顔に凶暴さが滲み出す。


「紅姫の命を、置いて行っていただきましょうか」

「ッ!」

「はっきりと言いおる」


 息を飲むアユミと目を細めるト=モ。


「簡単に手を出させるとでも思うか?」

「姫神同士、相争わねば決着はいつまでも尽きませんよ。エルフの女王よ、そなたも〈世界の創造〉にひと役絡みたいのであろう」

「……まだ〈その時〉には至っておらぬ」

「ですが、我らが藍姫サチ様はすでにその気でございますわ」



 ドンッ!



 それまで玉座に座っていたサチは、自らの神器〈星の海(スター・オーシャン)〉の柄頭を床に突き立ち上がる。


「よくわかんない話はもういい! 私はあんた達の好きにはさせない。ティターニア、〈決闘の間〉へ移るよ!」


 激昂しているサチの命令で、ト=モとアユミの周囲に〈戦闘怪人(ケンプファー)〉共が近寄ってくる。


「どうやら決闘とやらを避けられぬようじゃぞ、アユミや」

「そんな……あの人だって同じ日本から来たはずなのに」

「アユミのおった国のモラルがどのようなものかは知れぬが、藍姫はすでにこの世界に馴染んでいるのやもしれぬな」

「……」


 ト=モは隣に不安げに立つアユミの髪を優しく撫でながら囁く。


「案ずるなアユミ。そなたは紅姫ぞ。そなたとて時機に()()()()()

「ッ!」


 サッと数歩後ずさり、アユミはト=モから離れる。

 アユミの脳裏にあの夜、襲い掛かってきた黒姫の形相がよみがえる。

 そして正面に立つト=モの顔と重なるように、アユミがこの地に降り立った場所、〈クァックジャード騎士団領〉評議会の面々が透けて見えた。



 トン!



 アユミは戦闘怪人に背中を小突かれて我に返った。


「もたもたするな。とっとと歩け」

「……」


 仕方なく、アユミはト=モと連れ立って、周囲を囲われながらサチの待つ〈決闘の間〉へと足を踏み入れてしまった。


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