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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
断章III

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163/722

163 王の月一日〈藍姫〉サチ 午後

登場人物紹介


ナキ     クァックジャード騎士団の騎士。白鳥の槍使い。

コクマル   クァックジャード騎士団の騎士。小兵の二刀使い。


 ガガガッと重い石を引きずる音を立てながら、〈支配の宮殿(ヴァルテン・パラスト)〉の門扉が拓く。

 侵入者を防ぐため、この宮殿の門扉は撥ね上げ式ではなく、巨大な石の扉を押し開くようになっている。

 そのためだけに配置された改造人間が門番の役目も兼ね備えている。


「でけえ門番まで配置して、強固な守りを見せつけてるようだが、オレから言わせりゃビビりすぎだろってな」

「口を慎めコクマル。場合によってはここは敵地となるのだぞ」


 宮殿内に足を入れた二人組、一人は白一色の旅装束、もう一人は小柄で黒一色の旅装束。

 共に色違いとは言えおそろいの旅人帽(トラベラーズハット)を目深にかぶった〈鳥人族(バードマン)〉。

 白い槍使いナキと黒い二刀使いコクマルである。


「へっ、ナキ。お前もビビってんじゃねえのか?」

「……そうかもしれない」


 予想外に反論してこないナキにコクマルは押し黙る。


「平時であれば我らクァックジャードに弓引く者はそういないだろう。だが今は違う。ここには姫神がいる」

「藍姫、か」

「我らが直接見た姫神はみな、まだ理性があった。暴走した紅姫も、失意に沈んだ銀姫も、覚醒間もなかったあの白姫もな。だが藍姫はわからぬ」

「現れたのは確かだが、沈黙したきりだからな。この地はよ」

「それゆえ我らが呼ばれたのだがな」


 通された謁見の間の玉座に、その少女が座っていた。

 改造人間の多いこのアーカム大魔境において、人間の姿そのままを保っているだけで違和感を感じさせる。


(おそらく、この少女が藍姫)


 ナキもコクマルも玉座に膝をつくことはしない。

 クァックジャードはどの権力に対しても屈しない。

 故に中立なのである。

 そんな並び立つ二人に直接話しかけたのは藍姫ではなく、煌びやかなドレスをまとい優雅に立つ、妖精女王ティターニアであった。


「クァックジャードの騎士よ。遠路はるばるようこそおいで下さいました。旅はいかようでございましたか」


 口調はおしとやかだが、探りを入れるかのような鋭い眼光は隠せていない。


「通り一遍の挨拶は結構。我々は歓迎されないことに慣れておりますゆえ」

「ヒュウッ」


 お前こそ口の利き方に気をつけろ、と言わんばかりのコクマルの視線をナキは無視した。


「これは失礼。では早速、ご用件を伺いたいのだけれど」


 あからさまにティターニアの口調が冷たくなる。


「単刀直入に、国境不可侵の締結を望む国がおります」

「どこです」

「エスメラルダ」


(やはりか……)


 ティターニアにとって、最もシンプルに考え付く相手国がエスメラルダだ。

 この大陸の中心地にあり、南をアーカム、西をエルフ、北を大国ハイランドに接し、東は小国が軒を並べる(せわ)しない地域だ。

 ハイランドとは確か友好的であったと思うが、それも三十年前に聖賢王シュテインが討たれて以降、彼の国は後継争いで国が乱れ、没落の一途を辿っている。

 そして西のエルフとはずいぶん前から生存権を賭けて小競り合いを繰り返していたはず。

 このうえ我らアーカムにまで牙をむかれてはたまらぬと言ったところか。


「見返りはあるのか?」

「相互不可侵、では不服でしょうか」

「ハッ!」


 ティターニアが一笑に付す。


「我らアーカムは何者も恐れない。どうせならこの場でエスメラルダに宣戦布告をしてやってもよいのだぞ」

「藍姫を使うおつもりか」


 ナキの視線が玉座に座るサチに向く。

 サチは無表情に微動だにしない。


「エスメラルダにもおるのであろう? 銀姫であったか」


 コクマルが肩をすくめてみせる。

 逆にナキは表情を崩し、口調を改める。


「向こう一年の不可侵をお約束いただければ、エスメラルダは相応の用意があるとのこと」

「ほう。それは?」

「金貨三万枚(一枚十万円相当)、それと上質な絹織物に貴重な香辛料、ラクダを五百頭」

「ほう。なかなかではあるな」


 アーカムは魔境と言われるほどに不毛な地であった。

 エスメラルダのような富を築くことも難しい。

 この申し出はそう悪くもない。何もせねば頂けるのである。


「だがさらに一つ、付けてもらいたいものがあるのだがな」

「てめえ調子に……」


 無礼を働きかけたコクマルの足を踏み、黙らせると、ナキはティターニアに続きを促す。


「我が国も労働力不足でのう。奴隷を数百人欲しいのじゃ」

「エスメラルダの国教は〈慈愛の女神サキュラ〉です。万民は平等に愛を享受されるべき、と教えられている通り、あの国に奴隷は存在しません」

「ならばこさえればよいでしょう」

「は?」

「エルフと小競り合いを続けておるようだが、エスメラルダの騎士団が総力を挙げれば鎮圧は容易かろう。捕らえたエルフはどうする? 全員処刑か? 慈愛の女神が?」

「おそらくエスメラルダの監視下に置かれ、属国として吸収される、といったあたりでしょうか」

「そう容易く行くと? 反抗する者も後を絶たぬやもしれぬ。それを排除するとなれば、相当な数だろうな。間引きは、需要と供給じゃ」

「裏取引に応じろ、と?」


 初めてナキの声がかすれた。

 捕虜を奴隷として裏から流せというのか。

 もし、この魔境にエルフが根付き、その神秘の力までをも手にしたならば。

 〈アーカム大魔境〉は更なる脅威となるやもしれぬ。


「そこまでの権限を得ておるか? 交渉は長引きそうだ。今日は挨拶程度という事にしておこうか」


 ナキとコクマルの背後で扉が開く。

 謁見は終わりを告げたようだ。


「長旅で疲れておろう。しばらくこの宮殿でゆるりとしていくがよい」


 ナキは広間を出る際、もう一度振り返り玉座の少女を見直してみた。

 最初に見た時と寸分違わず、藍姫はピクリとも動かなかった。




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