158 最初の落伍者
手も足も出なかった。
変身したズアに対し、まともな攻撃を当てることすらできなかった。
頭は混乱し、体は鈍り、痛みすらもどこか他人事だった。
気づいたら姫神の変身は解け、ミナミは地に伏していた。
どこまでも続く細やかな砂だけが視界に広がる。
いや、そこに獰猛で凶悪な太い足が見える。
辛うじて見上げると、獅子と山羊、そしてドラゴン、計三つの顔、六つの目が自分を冷たく見下ろしていた。
中心にある獅子の顔がしゃべる。
その声には落胆の色がにじみ出ていた。
「この程度とはな。貴様には、姫神としての覚悟がなさすぎた」
覚悟――?
「〈心〉め……つまらぬ娘を選んだものだ」
こころ――? それって確か……
「あ、あなたは、いったい……」
ミナミの口からズアに対して弱々しい声が届く。
「言ったであろう。我はお前たち姫神の敵対者。まさか何の妨害もなく好き勝手にこの世界を蹂躙できるとでも思っていたのか」
世界を蹂躙――? そんなつもりあるわけ……
「ふん!」
ズアの姿が人間である元の偉丈夫に戻る。
すでに戦いは決着している。ミナミにはもう抗う力は残されていなかった。
ズアは身を屈めると倒れているミナミの体を肩へと担ぎ上げた。
何の抵抗もできない。
「やっ――! やめて……」
体をこわばらせ、身をすくめる。
すでに姫神であることも、冒険者であることも忘れはて、自分がただの無力な娘でしかないことに畏怖していた。
「なにする、の……」
あらゆる恐怖体験がミナミの脳裏をよぎり、そして心がそれに耐えられず、ついにミナミは意識を失ってしまった。
それを確認したズアは歩き出す。
足元に、気を失い倒れているシャマンたち五人の姿があった。
それらを一顧だにせず、ズアは暗闇に向けて歩を進める。
「雑魚に用はない。捨てておけよ、ヴァルフィッシュ」
どこへともなく命令を発する。次いで、
「ゴルゴダへ飛べ」
その言葉を最後に、ミナミを担いだズアの姿は闇へと消えた。
そして砂が流れ出す。
それは流砂となって倒れたシャマンたちを押し流す。
気を失っている一行は流れに逆らうこともせず、次々と砂に飲み込まれていく。
シャマンが、ウィペットが、クルペオが、メインクーンが、その姿を没していく。
そして最後にレッキスが流される。
その進路上に剣があった。
金姫ミナミの神器〈土飢王貴〉。
その剣がレッキスの懐に流れ込む。
剣とレッキスは共に砂の中に没していった。




