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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第三章 異界・探究編

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155 異世界転〈生〉


「残念ですが、あなたは死にました」


 目を覚ましたミナミの耳に、上記の言葉が真っ先に飛び込んできた。

 それが自分に向けられた言葉であり、それが自分の現状を指した言葉であることに、当初は気づかぬままであった。


「おお、ミナミよ。死んでしまうとは情けない」


 無反応のミナミを自覚させようというのか、声は明確にミナミを名指ししてきた。


「ここ、どこ?」


 ミナミは周囲を確認する。

 何もない空間。

 見渡す果ては暗闇で、右も左も、前も後ろも暗闇が広がる。

 上を見ても同じ闇だ。

 違うのは足元だけ。

 黄色いレンガが敷き詰められている。

 下を見たことで、自分が今、何も身に着けていないことに気が付いた。

 慌てて両腕で胸を隠し、その場にしゃがみこんでしまう。


「な、なんで裸!?」

「そなたにもう一度、チャンスを与えよう」


 どこからか声が響く。

 声はとても低く、男声のようだが周囲に声の主は見当たらない。


「あの、ここどこですかぁ?」


 監視カメラか何かで自分を見ているのだろうか。

 ミナミは何も見えない暗闇に向かって質問を投げかける。


「とはいえ、そなたは予定外の死を迎えてしまった。よって、代わりの命を授けることにしましょう」


 ミナミの質問には一切答えてくれないようだ。

 ミナミの中で不安が募る。

 すると遠くの方に二つの光点が灯った。

 金色に輝くその二つの光点は、最初ゆらゆらと漂い、しばらくするとまっすぐミナミへと向かい飛んできた。

 ぐんぐんと加速して近づいて来る。

 そして暗闇の中、目も開けていられないほどの(まばゆ)さに、胸ではなく顔を覆い隠してしまう。


「うわぁっ」


 思わず叫んでしまった。

 

「……」


 とくになにもない。


「今よりそなたは〈金姫〉である」


 また声だけが聞こえてくる。


「よいですか。本来、姫神一人につき、宿る〈(ふる)き者〉は一体のみ。しかしそなたは死というハンデを抱えてしまった。よって二体の力を宿すことを許しましょう」


 何を言っているのか、ミナミには何一つ理解できなかった。


「その力を使い、世界を創造なさい」

「え?」

「方法は問いません。思うがままになさい」

「あの……」

「ただし、同じ条件を持つ姫神は、そなただけではありません」

「ひめがみ?」


 やや沈黙があり、


「ですが、例外として二つの力を宿したそなたは、だいぶ有利になったと言えるでしょう」


 声はやや嘆息交じりに聞こえた。


「では、お行きなさい。そなたの思う、善き世界を創造するために」


 ミナミの脳が理解に追いつくよりも前に、辺りは暗転し、そして景色が一変する。

 見渡す限りの青い空、太陽の光、感じる風、遠くの山、そして眼下に広がる緑の海は森。

 そして見た。

 ミナミは自分が空に空いた穴から落ちたのだ。

 空に一点の穴があり、その縁に人が一人立っていた。

 真っ白く輝くドレスをまとい、憂いを秘める目をした美しい女性。


「待って! あなたは誰なの! 私は……」


 しかし瞬く間に穴は遠ざかり、そしてミナミの意識も薄れていった。

 落下するミナミを包み込むように、眼下の森が受け止める。

 ミナミの姿は見えなくなった。


 穴の縁に立つ女がそっと囁く。


「わたしは誰……わたしは〈心〉……わたしは常に助ける者」


 その声は先程までミナミが耳にしていた低い男声のようである。


「けれど、それを知る必要はない。どうせそなたも……すぐに忘れる」


 空に空いた穴が閉じた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ゆっくりと目蓋を開いたミナミは、まだ微睡(まどろ)みながらも今しがた見ていた〈夢〉を思い出そうとしていた。


「ゆめ……だったのかな。〈心〉……」


 だんだんと意識がはっきりしてくる。

 ぼやける視界の中で、同じように倒れている仲間の姿が見えてくる。


「レッキス?」


 ハッとして、目を覚ましたミナミは跳び起き周囲を確認した。

 そこは広く暗い空間だった。

 周囲は闇に覆われているが、足元には金色の砂が敷き詰められている。

 時折遠くで天井? から大量の砂が滝のように流れ落ちてくるのが見える。

 とても静かな空間で、さらさらと流れる砂粒の音しか聞こえてこない。


 すぐそばに自分がぶん投げた大木が転がっているのを発見した。

 そしてその周りに倒れ伏す仲間たち。


「よかった。みんないる」


 憲兵たちの包囲網から脱出するために、〈浮遊石嵐(ガム・デ・ガレ)〉に向かい仲間ごと大木をぶん投げた。

 そのまま嵐のヘリを飛び抜けていこうとした。

 作戦は成功しそうだった。

 だが、突如現れた巨大な霊獣ヴァルフィッシュに、一行は大木ごと飲み込まれてしまったのだ。


 ミナミは体に異常がないことを確認する。

 意識を失っていたためか、姫神の変身は解けていたが、神器〈土飢王貴(ライドウ)〉はちゃんと手に握られていた。


(ここはどこだろうか?)


 あれこれ考える前にまずは仲間を助け起こすことにした。


 サク、サク……


 そのとき、どこからか砂を踏む音が聞こえてきて、ミナミは咄嗟に周囲を警戒した。


「よもや、ここで会えるとは思わなかったぞ」


 ミナミの視界に、近づいてくる偉丈夫の姿が現れた。

 その男は上半身裸で、腰回りに獣の毛皮をはいだかのような腰布をまとっている。

 見たところ、この世界で言う人間族(ヒューマン)の男のようだ。

 そいつはぼさぼさに伸びた茶色い髪の影で、らんらんと輝く目をしていた。

 ミナミはそいつを恐ろしいと感じた。

 その恐ろしさを裏付けるかのように、背中に異様に大きな剣を背負っている。

 それは何かの骨を削りだして(こしら)えたかのような、とても武骨な得物であった。

 長さはそれほどでもなかろうが、とても幅広で、剣というよりも鉈と言った方がしっくりくる。


「だ、だれですか」


 自然に汗が頬を伝う。

 ミナミは緊張で声をかすらせながらも剣を相手に向けて構える。


(どうか敵でありませんように)


 ミナミの願いむなしく、そいつは自らをこう名乗った。


「オレはズァ。〈力のズァ〉。お前たち姫神に、常に敵対するものだ」



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