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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第三章 異界・探究編

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147 冒険者へ


「け、結晶が買い取れないって、ど、どういう事なんよ」


 わなわなと震える手でレッキスがシャマンに(すが)りつく。


「そのまんまだ。ドワーフの奴ら、しばらく前から開店休業状態なんだとよ」


 レッキスの手を振りほどき、シャマンは早くも三杯目をオーダーしている。

 その隣でメインクーンは皿いっぱいの揚げじゃがを頬張っている。

 この猫娘が揚げじゃがを選ぶ時、それは決まってやけ食いを決心した時であることをみなが知っていた。


「話が見えんぞ。もう少し詳しく話せないのか?」


 シャマンの正面に座るウィペットが問いただす。

 届けられたジョッキに口をつけ、一口だけ啜る。

 三杯目にしてようやく一気飲みを止めたシャマンは、ジョッキの中で泡立つエールを眺めながらどう説明するかを脳内で整理していた。

 しばしの時が立ち、ようやく考えがまとまり口を開きかけたシャマンを遮るように、揚げじゃがを頬張りながらメインクーンが先に口を開いた。


「マラガが壊滅したから宝石や細工物がもう売れないんだってさ」

「壊滅!?」

「マラガ? あの盗賊都市がか?」

「どういうことじゃ?」


 レッキスもクルペオもウィペットも驚いている。

 ミナミだけはこの世界についていまだ疎く、その衝撃の内容にピンと来ていなかったが、見れば周りのハンターたちも同じ話題をしていたのだろう。あちらこちらで騒然とした空気が漂い始めている。


「てめぇメインクーン。せっかくオレが順序だてて丁寧に説明しようと思ったのによ」

「シャマンの話はいつも回りくどいニャン。まずは結果を最初にドカンと伝える。理由はそのあとでいいニャン」


 シャマンとメインクーンがにらみ合うのを誰も止めようとはせず、各々考えに耽る。


「マラガか。あそこは世界の中心ともいえる商業都市だ。そこが壊滅したとなれば世界中の商取引が停滞するぞ」

「ドワーフたちは買い取った結晶を細工して商人に売る。その中でも最大の取引相手が確か……」

「ああ、マラガの大商人、ヒガ・エンジだ」

「そのエンジ商会のうら若き当主も行方不明だそうだ」


 ウィペットとクルペオの会話にシャマンが割って入る。


「それはいつの話だ?」

「〈(くう)の月(九月頃)〉から〈(じゅう)の月(十月頃)〉に替わるころらしい」

「ほぼ二か月前か」

「〈東の緑砂大陸(グリーンランド)〉の東端と西端だからな。情報が届くのにはそれぐらいかかるのも止む無しか」


 情報伝達、この辺の感覚は現代人のミナミには理解しがたい。

 だが今は黙ってみんなの話に耳を傾けることにした。


「その、壊滅した原因ってなんなの?」

「ああ、それな……」


 レッキスの問いにシャマンは押し黙ってしまった。


「なんなのじゃ?」

「いや、まあ、にわかには信じがたいんだがな……」

「もうじれったいなシャマンは! メインクーン」


 焦れてレッキスがシャマンからメインクーンに目線を移す。


「でっかい火竜(レッドドラゴン)と、いっぱいの死人(ゾンビー)に一夜で滅ぼされたんだって」

「はあ?」

「マジで?」


 シャマンもメインクーンもうんうんと頷く。


「いや、そんなの……どっちかだけでも相当レアなイベントやんか? そりゃ滅ぶね」

「しかしなんだってそんな事になったんだ」

「それがな……」


 シャマンは突然ミナミを見つめる。


「な、なに? シャマン」

「その火竜の正体は〈紅姫〉といい、ゾンビーを操っていたのは〈黒姫〉というらしいんだ」

「それって……」


 今度は全員がミナミの顔を見つめる。


「な、なに? みんな」

「それってミナミと同じ〈姫神〉の仕業ってこと?」

「であればミナミにも同程度のすごい力が備わってるということじゃな?」

「たしかに、にわかには信じがたい」


 全員がミナミをじろじろと観察する。


「あ、あははは」


 乾いた笑いでしか対応できないミナミであった。


「結局、その姫神ってなんなんよ?」

「さあな。わかるのはすごい力を持った異邦人であり、どうやらミナミ以外にも何人かいるってことぐらいだな」

「う~ん」

「ミナミ自身もわかってないのか?」


 クルペオに問われたがこの問い自体初めての問いではない。


「いつも言ってることだけど、自分が姫神ということ自体、よく意味が分かんない、です」


 それはミナミの正直な意見であった。


「わからんことは調べるしかない。そこで、だ。これからどうする?」


 シャマンが一同を見渡す。


「どうするって?」

「このままハンター稼業を続けても、来月には元通り〈緑砂の結晶〉が売れるとは限らんぞ」

「結晶狩り止めるってこと?」

「となるとこの街に留まる理由もなくなるな」

「ハンターから冒険者に鞍替えか?」

「それって安定した収入からほど遠いよね」

「それは今も大差なかろう」

「リーダーであるシャマンはどう思ってんのさ」

「オレか?」


 もう一度、シャマンは一同を見渡した。


「今のオレ達には金がない。が、縁がある」


 そういってミナミの背中をばん、と叩く。


「イッた!」

「こいつの秘密も知りてえし、せっかくだから街を出てみようじゃねえか」

「どこへ向かうの?」

「姫神を知ってそうな場所ったらどこだ?」

「シャマンがそこまで考えてるわけないんよ」

「歴史のある国だな。〈エスメラルダ〉か〈ハイランド〉」

「どっちもニンゲンの国だなぁ」


 ウィペットの回答にシャマンが顔をしかめる。


「けどミナミはニンゲンなんだし、理にかなってるとも思うんよ」

「私はマラガに行ってみたいニャン」


 今までおとなしかったメインクーンが口を開いた。


「マラガに?」

「あそこは有名な〈盗賊ギルド〉がある街ニャン。興味はあったニャン」

「でも壊滅したんでしょ?」

「この目で確かめないと何とも言えんニャン。それに冒険者稼業を営むなら……」

「危険な場所ほどおいしい仕事にありつけるな」


 シャマンがニヤリとほくそ笑む。


「反対意見、もしくは対案はあるか?」


 最後にシャマンは一同の顔を一人ずつゆっくりと見渡した。

 誰からも異存はなかった。


「よし、決まりだ。明朝この街を出る。まずは〈エスメラルダ〉を目指すぞ」





 シャマンたちが今後の方針を決定する様を、じっと観察していた者がいた。

 みすぼらしいローブをまとい、顔をフードで隠しているが、どうやら〈犬狼族(ウルフマン)〉の男らしい。

 しばらくシャマンたちの様子を伺い続けてから後、席を立つと、静かに酒場を出て行った。



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