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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第三章 異界・探究編

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143 砂海の狩り


 激しい砂嵐の中で激突を繰り返すいくつもの影。

 浮遊石を含んだいくつもの巨大な岩がぶつかり合う。

 嵐の内部は巨大な影に覆われ暗闇の世界だ。

 その嵐の外周部分を飛翔するたくさんの生物〈ジンユイ〉の姿も、今やミナミにも視認できるほどの距離にまで近づいていた。


「いっぱい飛んでるね。こんなにいっぱいいるの、私初めて見るよ」


 口をあんぐりと開けて、ミナミは感想を漏らす。

 〈ジンユイ〉とはこの緑砂の砂漠を飛び回る飛翔魚である。

 このわずかばかりの緑の砂粒を含んだ砂漠に生息する生物で、見た目は魚に近い。

 だが全身は骨のような甲殻に覆われ、背びれも鱗も固いセラミックに近い。

 彼らはこの砂海に潜み、緑砂をついばむ。

 普通の砂だけを排泄し、体内に蓄えた緑砂をエネルギー源にするのである。


 仕組みについての詳細はわかっていない。

 緑砂についてはまだ解明されていない部分が多いためだ。

 だが〈ジンユイ〉の体内ではその緑砂が凝結し、宝石のような輝きを放つ石になる。

 それは工芸品や装飾品の材料として高く売れる。

 それを採取するのがミナミたちの目的であった。


「あれだけの数を採れば半年は狩りに出なくても済むな」


 隣で〈猿人族(ショウジョウ)〉の戦士シャマンが舌なめずりする。

 今や砂嵐と〈ジンユイ〉の群れは目の前に迫っていた。


「よし! 始めるぞ、クルペオ」


 シャマンの合図で〈狐狗(キツネ)族〉の女性符呪師クルペオが幾枚もの護符を取り出した。


「〈一の裏護符・防風臨〉」


 クルペオが宙に舞わせた護符がヒラヒラと舞う。

 護符は全員の背後に等しく四枚ずつ並んで浮いている。


「我ら〈狐狗(キツネ)族〉の符呪は、九つの系統にそれぞれ表と裏の技がある。これは風の裏系統、四枚の符で身の回りに風の防護幕を張る」

「これなら私たちも風に吹き飛ばされないで済むのね」

「それだけではない。この符はもともと飛び道具から身を守るための〈術技(マギ)〉なのだ」

投射防御ミサイル・プロテクションだな」

「てことは飛んでくる砂粒や小石程度は防いでくれるのか」


 シャマンとウィペットが理解を示し、ミナミはなるほどとうなずく。


「ただし護符は無防備。破られたりすれば効力を失うし、一枚につき十分程度、四枚なので四十分程度の持続時間と思うように」

「十分だ」


 シャマンが皆を振り返る。


「ではいつものように。クルペオは後方で支援、ウィペットはそのクルペオをガード。メインクーンの弓とオレの鎖鎌で落とす。レッキスは落ちたやつにトドメだ」


 全員がうなずく。


「あの、私は?」


 おずおずとミナミが手を上げる。


「あん? お前はあれだ。自由行動。邪魔だけはするなよ」

「ひどぉい」

「キキキ。まあ危ないことはすんなってことだ。身を守ることを第一に考えてろ」


 そう言ってシャマンと〈猫耳族(ネコマタ)〉のメインクーンは武器を手に最前線に立つ。


「ミナミは〈浮遊石の嵐(ガム・デ・ガレ)〉で戦うのは初めてなんだから、今日はじっくり観戦してればいいんよ」


 〈兎耳族(バニー)〉のレッキスが長めの棍を肩に担ぎながら、ミナミの頭をよしよしと撫でる。


「むぅ」


 ミナミのふくれっ面に吹き出したレッキスだったが、早速一匹のジンユイが頭上を通過し気を引き締めた。


「メインクーン!」

「はいにゃ!」


 シャマンの号令でメインクーンが矢をつがえ、飛翔するジンユイに向けて放った。

 素早い連続動作で三本の矢を放ち、うち二本が命中する。


「当たった!」

「よくやった! だが次は全弾当てろ」

「言うのは簡単!」


 実際砂嵐の影響で矢はまっすぐ飛ばない。

 ジンユイの飛行速度と角度、風の計算をしながらの速射で二本命中は上出来だろう。

 しかも放たれた矢には極細の糸が巻かれている。

 一本で一〇〇キロの重量にも耐えられる鋼糸で、その先は硬い岩盤が剥き出しの地面に打ち付けられた鉄柱に繋がっている。


 ジンユイが糸の長さ目いっぱいの距離でその鉄柱を中心に旋回し始める。


「あ~なるほど。だからここで張ってたんだ」

「網場は何か所かあるんよ。今回はここが一番適した場所なんよ」


 ミナミにレッキスが答える。


「どっせい!」


 鎖鎌を振り回していたシャマンが高く跳び上がりながら鎌を投げつける。


「わぁ、すごいジャンプ力!」

「猿だしね」

「砂漠に猿って違和感」

「そう?」


 ミナミとレッキスの会話の隙に、シャマンは鎌をジンユイの口に引っ掛け、着地したあと力いっぱい引きずりおろす。

 海中の魚を釣り上げるのとは逆に、空中を回遊する魚を釣り降ろす。


「キィエエエエー」


 シャマンの雄叫びが響き渡るなか、ついにジンユイが墜落してきた。


「レェッキス!」

「わかってんよ!」


 棍を振りかぶりながら突進したレッキスは会心の一撃をジンユイに叩きこむ。

 ぐったりとして動かなくなったジンユイの腹を手甲(バグナウ)についたカギ爪で掻っ捌く。


「おお!」


 腹に手を入れ引きずり出したのはまさしく、結晶化された手のひら大の緑砂であった。


「きれい」

「どう、ミナミ? これを北の〈ドワーフ族〉に売ると、あいつら見事な細工物に作り替えてくれるんよ」

「へぇ~」

「それが世界中に売られるんだ。西の盗賊都市ではそれで財を築いた大商人がいるって話だ」

「その原石を採取するのが私たちの仕事ってわけね」

「その通り!」


 続けて飛来したジンユイにメインクーンの放った矢が突き刺さる。


「シャマン! おしゃべりしてないで仕事」

「キキキ! 怒られちまったい」


 シャマンが再び鎖鎌を持って跳び上がる。


「さあ、この調子なら今日は十二匹越えの新記録、狙えるんよ」


 新たに墜落してきたジンユイを屠りながらレッキスが嬉しそうに叫ぶ。

 その様子にミナミも興奮してきた。

 だんだんと近づいてくる砂嵐に合わせて、一行のそばに飛来するジンユイの数も増えてくる。

 今度は三匹も一斉に上空すれすれをかすめていった。


「ニャッ!」


 メインクーンがつがえた矢を連続三本斉射する。

 三本とも同じ一匹に集中して突き刺さる。

 そいつ目掛けて跳び上がりたいシャマンだが、周りを回遊する二匹に空中で襲われるのは分が悪く、機を窺う時間が流れる。


「〈四の表護符・対空戦者〉」


 その時、後方からクルペオの声が響く。

 クルペオの取り出した二枚の護符がみるみるうちに白い鳥の姿に変わり飛び立つ。

 その二羽の鳥は回遊するジンユイの周りを飛び、かく乱する。


「ナイスクルペオ」


 その隙にシャマンは跳び上がり次の獲物を引きずりおろした。

 だが二羽の鳥の方はジンユイに引き裂かれ姿を消す。

 そしてその二匹のジンユイは後方のクルペオに向かいまっすぐ突っ込んできた。


「クルペオ!」

「ぬぅん!」


 ガッコォン!


 ミナミの悲鳴にだがクルペオの前に立ちふさがった〈犬狼族(ウルフマン)〉のウィペットが、重たい盾でジンユイの突撃を阻止していた。

 一匹はすぐさま空中に飛び立ったが、もう一匹はウィペットのメイスが脳天を叩き潰し仕留めた。


 そうして、そのような攻防が何度か繰り返された

 時間にして三十分、仕留めたジンユイが十匹を数えたころだった。


「ちょっと、シャマン……」


 メインクーンがわずかに疲労をたたえた声でささやく。


「どうした?」

「ちょっと、やばいかもよ」

「なに?」

「数が……」


 そこまで言った時だった。

 目の前に迫っていた砂嵐から突如数えきれないほどのジンユイが飛び出してきたのだ。


 十や二十ではない。

 見上げる空が真っ黒に見えるほどの、おびただしい数のジンユイが飛翔している。


「ぶわっ! なんじゃぁこの数は!?」

「異常発生だよ! こんな数、見たことない」


 ジンユイ狩りは一匹ずつ丁寧に狩っていくのが基本だ。

 今日は調子がよく、三十分足らずで十匹も狩ることができた。

 そのような計算で成り立つものが空を埋め尽くすほどの大群に手を出せるはずがない。


「中止だ! 撤退するぞ!」


 シャマンの号令に皆がうなずく。


 だがこのジンユイの群れは凶暴さを隠そうともしなかった。

 一行の姿を見つけるや、なんと列をなして襲い掛かってきたのだ。


「伏せろ!」


 頭上ギリギリをジンユイの群れが飛び去って行く。


「どういうこと? ジンユイの方から積極的に襲い掛かってくるなんて」

「わからん」


 見ると上空で旋回した列の先頭が再びこちらに向かい急降下してくるところだった。


「やばいぞこれは!」


 慌てて岩場の影を目指して走り出す一行のしんがりで、ミナミは立ち止まり仁王立ちした。


「おい!」

「ミナミ!」

「こっち来るんよ!」


 迫りくるジンユイにだがミナミは臆していなかった。


「大丈夫。みんなのことは私が守ってあげる」


 背中に背負った大剣を引き抜き構える。


「さあいくよ、〈土飢王貴(ライドウ)〉」


 構えたミナミの神器が呼応するように振動する。

 ミナミの足元の砂が舞いだす。

 一息吸ったミナミが声高に叫ぶ。


「転身! 姫神! 〈金色弓尾(ヤシャ・ノウェム)


 ミナミの姿と大剣の形が変貌した。


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