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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第三章 異界・探究編

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136 選ばれし者


 妖精女王ティターニアと名乗る貴婦人と同じ輿に乗せてもらい、サチ、ユカ、メグミの三人は異形の者共の本拠地である〈支配の宮殿(ヴァルテン・パラスト)〉へとやってきた。


「うわぁ! すっごい! 断崖に大きな宮殿が建ってるよ」

「あれ、崖を削って造ったのかしら? それとも窪みに石材を持ってきて組んだのかしら」


 メグミの感嘆とユカの分析を聞きながら女王は優しく微笑んだ。


「さあさあ、疲れたであろう? まずは湯浴みなどしてくつろぐといい。着替えに食事の用意もいたそう」

「わぁ!」

「ありがとうございます」


 メグミが喜びユカがお礼を述べる。

 だがサチだけは先程からおとなしいままだった。


「サチさん、でしたかしら。どうかなさいまして?」

「あ、いや……」


 口ごもるサチにティターニアは優しく諭す。


「ここがそなたたちの世界ではないと知り、不安なのでしょう。何か気になることがあるのならば、遠慮せず申しておくれ」


 サチは困ったような顔をしていた。

 確かに不安はぬぐえないままだ。

 しかしだからと言って今何を質問すればいいのか、頭は全然働いてくれない。


「え、と……女王様は、その、日本語がお上手ですね。どこで覚えたのですか」


 もっと率直に聞きたいことがあったはず。

 なぜ自分たちがこの世界にいるのか、とか。

 日本にはどうやって帰れるのか、とか。


 だがそういった確信めいたものを聞くのはまだ怖かった。

 そこでつい会話の妙について聞いてしまった。

 日本語が話せるのはこの女王ティターニア以外にいないのだ。


「ほほ。学んだのじゃ。この本での」


 そう言って女王は一冊の教科書を取り出した。


「あ、それって、あたしの。世界史の教科書」

「この本を見て文字と文章の配列を解析したのじゃ」

「?」

「さらにそなたたちは気づかなかったようじゃが、昨晩からそなたたちを監視していたものがおってな」


 そう言うと女王の指先に一匹のトンボが舞い降りた。


「このトンボを通じてそなたたちの会話を聞き取り、発音も学んだというわけじゃ」


 そんなことが可能なのか?

 サチたちには信じられなかったが、ただ一点、気になったのは、


「えー! じゃあ昨日の私たちの入浴シーン、ばっちり見られちゃったってことですか?」


 メグミが顔を真っ赤にして驚く。


「済まぬ。が、この小さなトンボの複眼によるものじゃ。そう鮮明に見えたわけではないので許してたもれ」

「……は、はい」


 気恥ずかしくはあったが、これ以上騒ぐのも居心地を悪くするだけだと思い三人はそれ以上は言わないでおいた。



 宮殿に入城した後、三人は思いっきりくつろぐことができた。

 最初に案内された大浴場は壮麗で、宮殿内の他と同様青い大理石でできている。

 広い浴槽に張られた温めのお湯につかっているととても気持ちがよかった。

 ただひとつ三人を困惑させたのが、入浴の世話係として一人につき二人ものメイドが付き添ったことである。

 当然断ろうと思ったのだが、残念なことに女王以外に日本語が通じる相手がおらず、結局されるがまま入浴、その後は用意されたドレスを着せてもらい、女王が待つ食卓に案内された。

 広めの部屋にテーブルが用意され、その上に豪華な食事やフルーツの山が盛られていた。

 上座に座っていた女王が三人の姿を認めると席を立ち迎えてくれる。


「これはこれは、三人とも見目麗しいのう」


 三人が着せられた色とりどりのドレスはどれも絢爛で美しかった。

 三人とも背中や胸元が大胆に露出しており、歩くたびにスカートの裾は蝶々のように翻る。

 青いドレスのサチは気恥ずかしさから胸元を両手で多い、黄色いドレスをまとったメグミは歩くたびに踵の高いヒールで足をぐねらせている。

 緑色のドレスをまとったユカは、必要以上に見られまいとそそくさと席に着いてしまった。


「ふふ。恥じ入ることはない。皆とても綺麗じゃ。堂々としておくれ」


 三人とも顔を赤らめながらも着席すると食事をしながらの事情説明が始まった。


「ここはそなたたちのいた世界とは違う世界じゃ。日本という国もない」


 なんとなく覚悟はしていたが、はっきりとそう明言されると気持ちが沈む。


「別次元、並行世界、はたまた遠い銀河の果て? それは誰にもわからぬが、この世界(ここ)は〈亜人世界(ここ)〉であり、日本(そちら)ではない」

「銀河……宇宙に関する知識もお持ちなのですか」

「ふふ、そなたたちの言う教科書とやらに書いてあったぞ」

「ああ……」


 ユカはバカな質問をしたと自分を恥じた。


「まあ、ここがそなたたちからして〈異世界〉であるという事は確かなのじゃ。では何故そなたたちが〈亜人世界(ここ)〉に呼び寄せられたのか」


 三人の視線が女王に集まる。


「それは、そなたたちのうち一人が、この世界の救世主たる選ばれし〈姫神〉であるからに他ならない」

「救世主!」

「選ばれし、ひめがみ?」

「私たちのうち、一人……」


 三者三様の反応ではあるが、異世界を受け入れる以上、救世主や選ばれし者と謳われる程度は想像できなくもない。

 多少怖い思いもしたが、事情が分かってくると俄然今の状況に興味が湧いてくる。


「その、姫神というのはなんですか」

「数百年に一度、この世界に顕現する乙女のことじゃ。決まって異世界より現れ、この世界をより良い世界へと造り替えてくださる」

「すごーい。おとぎ話みたい」

「そういう事例が過去に記録されているのですか」


 女王はこくりと頷く。


「一般には知られることはないが、ある者が創世の頃より記録し続けているという」

「ある者?」

「〈偉大なる年代史家エンメ〉というそうじゃ。おそらく今も〈姫神〉に関する事象を書き連ねていることだろう」

「今も……」

「ほんとにファンタジーな世界なんだね~」


 ユカの思案とは別にメグミは無邪気に聞き入っている。


「だが、そう楽しい話ばかりではないのじゃ」


 女王ティターニアは声を少し低めて言う。


「わらわが守るこの〈アーカム〉の地は不毛な荒野でのう。民は貧しい暮らしを余儀なくされておる」


 その女王のセリフを聞くなり壁際に控えたメイド連中がすすり泣きを始める。

 三人はびっくりして周囲を見回すが、女王もさめざめと声を絞り出し窮状を訴え始めた。


「作物や交易といったものがまるでない、生きていくだけで過酷な地域なのじゃ。それだけではない。北方のエスメラルダ、西方の盗賊都市、そして東方の獣人族。我らは常に生存権を脅かされておるのじゃ」


 突然の訴えに三人は固まってしまった。

 この世界のことはまだよくわからないが、どうやらそう平和な世界ではないらしい。

 そこに救世主として自分たちが(つか)わされた。


「要するに、助けがいるという事ですか。私たちのうち、一人がその」

「姫神じゃ。姫神は新世界への道標。きっと我らを救いたもう」


 三人とも現代日本人としての教育を受けている。

 そしてどうしようもなく利己的な人間などでなく、人並みに慈善の精神を持ち合わせている。だが、


「私たちにできることがあるのなら、お助けしたいと思います。だけど」

「うん。姫神って言われても、あたしたちにその自覚もないし、正直、人まちがいじゃないかと」


 ユカとサチが申し訳なさげにつぶやく。


「いえ、そなたたちのうち一人は間違いなく姫神。まだ覚醒していないだけのことです。しばらくこの宮殿にご滞在なさって。その自覚が芽生えるのを、我らはゆっくりと待たせていただきます」

「で、でも」

「そしてその間に元の世界、日本に帰る儀式を整えます。準備に時間がいるのです」

「え?」

「ほんとですか!」


 三人の顔に期待がこもる。

 こうして三人はこの宮殿、〈支配の宮殿(ヴァルテン・パラスト)〉に滞在することとなった。


 日本に帰れる。


 とはいえ女王の言う通り、自分たちのうち一人が姫神だったとしたら、その者はこの世界に取り残されることになるのではないか。

 得も言われぬ不安を抱えたまま、ユカは密かに心に決心を固めていた。


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