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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
断章Ⅱ

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129/722

129 シオリ、その奇跡を振るうために

登場人物紹介


ウシツノ   カエル族長老の息子。本名は小クラン。

アカメ    カエル族一の博識。

タイラン   クァックジャード騎士団の騎士。赤い鳥。

新沼シオリ  姫神・白姫。セラフィムを宿す〈純白聖女(ブラン・ラ・ピュセル)

 深い緑の森の中。

 同じ色の体をした一匹のカエルが、分厚い刃を持つ刀を担ぎながら大きく跳躍した。


「ガマ流刀殺法! 質実剛剣(しつじつごうけん)ッ!」


 自分の身長の優に五倍の高さまで跳び上がり、その高さから力強く刀を振り下ろしてくる。


「きゃあああああッ」


 シオリは長く美しい白の剣、〈輝く理力シャイニング・フォース〉でその一撃を防御する。



 ガッキィィン!



「きゃッ」


 何とか刀を弾くことはできた。だが衝撃でシオリは大きく吹き飛ばされてしまった。

 〈白姫〉専用の神器である、〈輝く理力シャイニング・フォース〉でなかったらひとたまりもなかった。


「いったぁい」


 膝を擦りむいたシオリがべそをかく。


「泣かないでくれ。シオリ殿が強くなりたいと言うから、こうして修行に付き合ってるんじゃないか」

「だからって必殺技まで使わなくてもいいと思う」


 ガマ流刀殺法とはカエル族の長老、大クランの編み出した剣術の系統である。

 主にカエル族の一番の特徴である跳躍力を駆使した技が多い。

 シオリはふて腐りながら右手を擦りむいた膝小僧に押し当てる。


「〈癒しを(ヒール)〉」


 シオリの右手がほのかに輝き、擦りむいた膝がきれいに癒されていく。

 光が消えると同時に、傷跡も痛みもあっさりと消えてしまった。


「シオリさん、いつの間にやら姫神に転身しないでも癒しの術技(マギ)が使えるようになったのですね」


 アカメが感心したように声をかける。

 その後ろには赤い鳥、タイランの姿もある。


「はい。簡単な癒しなら今のままでもできます。いちいちあの姿にならなくても」

「姫神として成長しているということなんですかねえ?」

「それは……わかんないです」

「しかし、剣の腕だけはそうそう上がるものでもないようだがな」


 ウシツノが肩に刀を担ぎながら嘆息する。


「今日の稽古はこれぐらいにしよう。シオリ殿にケガを負わせないよう、相手するのも大変だしな」

「むっ! ウシツノさん、手を抜いてたんですか」

「違うさ。手加減してたんだ」

「同じです! もう一回、今度は手加減抜きで相手してください」

「おいおい……本気か」


 ウシツノは助けてくれとアカメとタイランに目をやるが、二人とも目線をそらす。

 この数カ月共にしてわかったことだが、シオリは案外融通の利かないところがある。

 もっとも、唯々諾々と流されてきた最初のころと違い、この世界での生活にも慣れてきたという事かもしれない。


「わかったわかった。じゃああと一回だけだぞ」


 そういって愛刀〈自来也〉をウシツノは構えた。


「よぉし! じゃあ本気で相手してくださいね。私も本気出しますから」

「わかったわかった」


 シオリも白の剣、〈輝く理力シャイニング・フォース〉を高く掲げる。


「ん?」

「行きます! 転身! 姫神ッ!」

「なっ! ちょっと待て……」


 シオリの体がまばゆい光に包まれる。

 一瞬の閃光。

 するとそこには姫神〈純白聖女(ブラン・ラ・ピュセル)〉へと転身したシオリが薄ら笑いを浮かべながら立っていた。


「にひひ。ではシオリ、参ります!」

「バ、バカ! ずるいぞ」


 一足で間合いに飛び込んできたシオリに剣を弾かれながら、ウシツノは本気モードに心のスイッチを切り替えようと必死になった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ごめんなさい」

「……む、むう……」


 ウシツノの体中にできた擦り傷、切り傷を癒しながら、シオリは調子に乗りすぎたと謝罪していた。


「姫神になった途端、こんなにも強くなってしまうなんて……これでは普段の稽古など必要ないんじゃ」


 アカメの意見にウシツノはうなだれる。


「強さとはいったい何なのだろうか」

「強さとは〈心〉だ」


 それまで黙っていたタイランが口を開いた。


「こころ?」

「どんなに強くなろうが、世の中にはもっと強いものがいくらでもいる。剣の達人が、体の弱い賢者に負ける事だっていくらでもある。結局のところ、強さとは己の心でしか測れぬものなのだ」

「でも、オレはせめて剣だけは誰にも負けたくない」

「誰にだって弱点はあると思うぞ。姫神にだってな」

「そ、そうなのか?」


 ウシツノがシオリに尋ねる。


「え? や、ん~、そう言われても私にもちょっと……」

「姫神の弱点ですか。なるほど」


 アカメが腕を組んで考えに耽る。


「シオリさん、元の姿に戻ったばかりですが、またすぐに転身できますか?」

「え! それはちょっと……あれ結構疲れるんだよ」

「なるほど。考えてみれば当然ですよね。大きな力を振るう以上、それなりの消耗はやむを得ない。で、ある以上、転身はなるべく奥の手にしまっておいた方がいいでしょう」

「そう、かな、やっぱり」

「ええ。シオリさんは転身しなくても術技(マギ)が使えるよう、そっち方面の修業をした方が今はいいと思いますよ」

「それってどうやればいいの?」

「…………さあ?」


 アカメとシオリが苦笑いを浮かべていると遠くから一行を呼ぶ声が聞こえてきた。


「みなさぁん、お食事の用意ができましたよぉ」


 少し間延びした女声だ。


「ふむ。行くとしようか。今夜も海藻サラダの盛り合わせが待っているぞ」

「ふぅ、贅沢は言えんが、〈水精(ウンディーネ)〉たちとはあまり食習慣が合わないのがな」

「私、ハンバーガー食べたいな」


 タイランとウシツノ、シオリは少々げんなりした顔つきで歩き出した。




 〈水仙郷〉へ滞在して、かれこれひと月がたとうとしていた。

 そろそろ東の大陸へ、海を渡る算段を整えようとしていたのだが。


 その晩、予期せぬ脅威がこの地に訪れることとなる。


 食べ飽きた海藻サラダをつつく四人には、それはいまだ想像できないことなのであった。



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