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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第二章 魔都・動乱編

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124 ヒートブレス

 武器商人であるホンド・パーファ、海運業を営むゴンズイ・テーション、飲食業最大手のシーズー・ライブ、そして盗賊ギルド幹部でもあるウサンバラ・サンロ。

 四人は窓のない大会議室を飛び出し、街を一望できる最上階のテラスにいた。

 四人の見た光景は凄惨であった。

 街中が炎に包まれ、至る所で生者を襲うトカゲ族やカエル族の姿を確認する。

 元々は何某かの理由で、五商星最後の一人、ヒガ・エンジが盗賊ギルドの粛清を受けているという報告であった。

 なるほど、確かにここからでも丘の上のエンジ家の屋敷が炎に包まれているのが見て取れる。

 だがやがて、突如現れたトカゲ族とカエル族の連合による大軍団が街中にあふれ出ると、殺戮の限りを開始したという報告が入った。

 それは盗賊ギルド幹部であろうウサンバラですら、寝耳に水といったものであった。

 それで慌てて自分の目で確認しようとこのテラスに飛び出したのだが、今はさらに信じられない光景が広がっていた。


「な、なんだ、あれは……」

「ドラゴン……」

「しかし、でかすぎる。」


 彼らの見たドラゴン、赤い鱗のドラゴンは巨大であった。

 街のどの建物よりも背が高い。

 少々前かがみの姿勢であるが、大きくのたうつ太い尾が周囲の瓦礫を弾き飛ばしている。

 彼らにはこのドラゴンの正体が、一人の人間の娘であると教えられても、とても信じられまい。


 ドラゴン、すなわち巨大な姿に暴走したアユミの口から再び熱射放線(ヒートブレス)が発射される。

 一直線に放たれたブレスはアユミの足元に照射され、地面をえぐりながらものすごいスピードでスラム街を焼き尽くす。


「うおおおっ」

「な、なんという!」


 轟音と高温を成す術もなくただ見つめながら、四人は恐怖した。


「あ、あのような怪物、とても対処などできませんぞ!」

「ドラゴンだけではない! 今や街中にあふれた侵略者どもを相手に、いったい何ができようか」

「おわりだ……まさか、たった一夜にしてこの自由都市が落ちるとは……」

「とにかく、今は避難しましょう」

「う、うむ。そうだな」


 ウサンバラは他の三人の言葉を聞きながらも街の様子を高みから探り続けていた。


(確かにドラゴンは脅威です。しかし同じようにあの侵略者の群れも脅威です。長はいったい何をしているのか。ギルドは今どうなっているのか)


 ウサンバラもここにいることに今以上の情報は得られないと判断し、この商会議場を後にしようと思った時だった。

 眼下の路地を一人の大男が歩いているのに気が付いた。

 その男は上半身裸で、腰回りに獣の毛皮をはいだかのような腰布をまとっている。

 見たところ人間族の男のようだが、ぼさぼさに伸びた茶色の髪に隠れ、顔までは判別つかない。

 唯一異様な点があるとすれば、背中に背負った大きな剣であった。

 いや、おそらく剣なのであろう。

 それは何かの骨を削りだして(こしら)えたかのような、とても武骨な得物であった。

 長さはそれほどでもなかろうが、とても幅広で、剣というよりも鉈と言った方がしっくりくる。


「あの者は? まっすぐドラゴンの方向へ向かっていくようですが」


 ウサンバラのつぶやきに三人も目を凝らす。

 その男はドラゴンに向かいながらも、目の前に立ちふさがるトカゲ族の戦士を無造作に薙ぎ払っていく。

 まるで目の前に生い茂る草を刈るかのように、とても軽々しく、とても面倒くさそうに。


「あ、あれは!」


 ホンド・パーファが驚きで声を詰まらせる。


「ばかな。いや、たしかに報告はあったが……」

「パーファ殿?」


 シーズーが震えるホンドを見て困惑する。


「お、おい! ドラゴンがこちらを向いたぞ」


 ゴンズイの叫びに一同がドラゴンを注目する。

 ドラゴン、アユミは喉の奥で炎をチロつかせると、めいっぱい息を吸い込みブレスの発射体制に入った。


「ひぃ!」

「お、おわりだ」


 ゴンズイとシーズーが床に伏せる。

 アユミの口から何度目かのブレスが放射される。

 ブレスは細い熱線となり、アユミの足元の地面を照射してから顔を上げるアユミに合わせて徐々にこの商会議場に伸びてくる。

 それは一瞬の出来事のはずであったが、だがしかし熱線はいつまでたっても四人の元へは届かなかった。


 目を上げた四人は信じられない光景を目の当たりにした。


 アユミと四人をつなぐ直線上で、熱線は何かにぶち当たり防がれていた。


「お、おお!」

「いったい、なにが防いでくれている」


 ホンド・パーファは気が付いていた。

 なにが我らとドラゴンの間に立ちふさがっているのかを。


 熱線を巨大な鉈のような得物で防ぎ、敢然と仁王立ちしている者がいた。

 姿は人間のように見えるが、その体は巨大で、偉丈夫と表現するだけでも足りないと思われた。

 そしてこの世界で、そのような形容をされる人間は一人しかいない。


「ズァだ……」


 ホンドの言葉に三人が目をむく。


「三十年前の〈亜人戦争〉を、たった一人で終結させた……」

「あ、あの者が……」


 全員が熱線を防ぐ偉丈夫の姿にくぎ付けになる。


「左様。奴こそがあの、〈百獣の蛮神〉ズァだ」


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