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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第二章 魔都・動乱編

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109 根回し

 自由都市マラガを取り仕切る五人の大商人、通称〈五商星〉の紅一点、ヒガ・エンジの屋敷が燃えていた。

 強風逆巻く闇夜の中で、街の高台の一角に炎の山が出現していた。

 それは街のどこからでも望むことができ、誰しもが火元に見当をつけることができた。


「たすけてぇ!」


 屋敷の中は悲鳴と怒号が入り混じり、ドタドタと走る足音や、剣の響き合う音がこだましている。

 屋敷の使用人たちが我先にと外へ飛び出し、逃げ道を探す。

 周囲を囲む石壁を上り隣家へと落ち延びようとする者もいる。


 だがしかし、その使用人が壁の向こう側へ逃げ込もうとした時だった。

 突然その壁の向こう側から長い棒で叩き落とされ、あえなく元の庭先に落下する。


「いてぇっ! な、なんだよ」


 その者だけではない。

 他の使用人たちも同じように壁を乗り越えようとするのだが、皆向こう側から叩き落されてしまう。


「そんな! 隣の奴ら、オレたちを見殺しにするってのか」


 真偽を問いただす暇など、彼らにはなかった。

 すぐに追ってきたオークたちに見つかり、彼らは瞬く間に八つ裂きにされてしまった。

 一人残らず斬り刻まれ、絶望に満ちた断末魔の悲鳴が響く。


 隣の壁越しに佇む者たちが思わず耳をふさぐ。

 逃げ惑う者たちを迎えてやるでなく、棒で叩き落とした者たちである。

 それは隣家の者たちであった。

 彼らとてこの上流街に居を構える大商人である。

 しかし盗賊ギルドに目をつけられて無事で済むはずがない。

 ご丁寧に盗賊ギルド(かれら)は先刻、わざわざ脅しにやってきたのだ。

 手助けをすることはできない。


「すまない、ヒガ殿」


 彼は一刻も早くこの殺戮が終わるのを願ってやまなかった。



 同じことはこの一角だけではなかった。

 ヒガ・エンジの屋敷と隣接する者たちはみな一様に静観を決め込んでいる。

 助けを求めてくる者たちがいても無視するか、前出のように追い返すばかりである。

 そのたびに荒れ狂うオークどもの餌食となる使用人たち。


 その屍の数々にアユミは胸を痛めていた。

 屋敷の入り口に差し掛かる場所で、倒れたメイドに手斧を振りおろしているオークがいる。

 麻薬(バニッシュ)を打たれ、正気でないオークは興奮状態で何度も何度も振り下ろしている。

 メイドはとうに絶命している。

 その体を細切れにしようと、幾度も幾度も斧の刃を食い込ませようとしている。


「やめろぉ!」


 アユミの掌に炎の球が出現する。


爆裂(ボムッ)


 炎はオークを直撃し、その場で爆発する。

 上半身は吹っ飛ばされ、下半身だけとなったオークがその場に崩れる。

 奥の廊下や左右の扉から狂乱したオークが現れる。

 アユミを見て哀れな供物がまだいたのか、という具合に。

 だが供物となったのはオークどもであった。


爆裂(ボムッ)! 爆裂(ボムッ)! 爆裂(ボムッ)!」


 アユミは両手に連続して炎の球体を出すと周囲に群がるオークに投げつける。

 現れたオークはそれで一匹残らず駆逐されていく。


「はあ、はあ」


 アユミはメイドの死体を見て悲しんだ。

 この屋敷に滞在してしばらくたつが、このメイドとは何度となく言葉を交わしていた。

 とても素朴で引っ込み思案なタイプだったが、真面目で優しく、よく異世界人であるアユミを気遣ってくれていた。

 実は屋敷の庭師に惚れていると、真っ赤になりながら彼のことを話す彼女はとても輝いて見えた。


 その庭師の死体を、アユミは先ほど見かけたばかりであった。


「まだ無事な人はいないの?」


 周囲を確認し、アユミは奥の廊下へ向かう。

 その先はアユミとアマンが助けた、エスメラルダからさらわれてきた娘たちのいる部屋がある。


 屋敷の中はだいぶ火の手が回っていた。

 オークどもが火をつけて回っている。

 煙を吸い込まないように走りながら、目指す部屋が見えてきた。


 ドガァッ!


 その部屋から一体のオークが吹っ飛ばされてきた。


「なにやってんのよ! そんな老いぼれにいつまでも手こずるんじゃないよ!」


 部屋の中から女の金切り声が聞こえた。


「あれは、ネダの声だ」


 アユミが部屋に飛び込むと状況がすぐに理解できた。



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