001 転身! 姫神ッ!
――異世界なんて来たくなかった。
シオリは怯えていた。
レイは、憎んでいた。
おびただしい数の死骸と、瓦礫の散乱する村の真ん中で、二人は再会した。
シオリは傷ひとつない身体に、白いセーラー服を纏っていた。
一方、レイはどす黒い返り血を浴びたリクルートスーツを着たままだった。
シオリの手には白く美しい剣。
対するレイが握るのは、黒く禍々しい剣だった。
「レイさん、どうして……」
シオリの問いかけに、レイは悲しい目をした。
だが、次の瞬間、その目に恨みの色が浮かぶ。
「あなたはいいわよ。優しいカエルさんたちに守られて」
「えっ」
「どうして私だけ?」
絞り出すような声だった。
「ズルいよ。だからみんな、死ねばいい!」
そう言ってレイは黒い剣を地面に突き立てた。
金切り声を上げて叫ぶ。
「転身! ……姫神!」
ゴウッ! と地面から黒い風がうなりを上げ、レイを飲み込む。
それを見て、シオリも白い剣を突き上げた。
「転身! 姫神ッ!」
天から一筋の白い光が降り注ぎ、シオリを包む。
その光景を嬉しそうに眺める女がいる。
長い金髪に黒いマント、全身を黒革のピッチリとしたスーツで覆った魔女だ。
「うふふふ。白姫と黒姫。全く相反する姫神同士が、こうも早くもぶつかるなんてね」
楽しくて仕方がないという顔で、その女は二人の少女を見ている。
光と風が止み、現れた二人は変貌していた。
肩のみを露出した、白い光沢のあるスーツを纏ったシオリ。
その背面には、光る羽がきらめいている。
そして黒い霧のようなドレスを纏ったレイ。
その頭部には、血のような真っ赤な茨の冠が収まっていた。
二人は向かい合ったまま、それぞれが剣を構え、そして同時に相手へと向かい、駆け出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして彼女たちは、それぞれの異世界で生きていた。
柿野間アユミは壁を〈壊し〉、冷たい雪の降る空に飛び立った。
集まった騎士たちが羽をはばたかせ、追撃を始める。
中でも赤い出で立ちの騎士が苛烈な速度で猛追する。
アユミは追手の姿を認めると、全身から炎を迸らせた。
その熱気は瞬く間に暴走し、追撃者たちをいともたやすく振り切ってしまった。
秋枝ナナは居並ぶ重鎮たちの前で緊張を隠しきれなかった。
だが、用意された銀色の見事な全身甲冑を身にまとうと、自ずと気持ちが引き締まった。
後方から見守るハナイ司祭の笑顔に気付いた。
あの女性のためならば、いかなる敵からも〈守る〉ことを誓おう。
ナナの前に傅く騎士団に向かい、剣を突き上げた。
瀬々良木マユミは愛を知らない。それゆえに〈愛する〉ことに飢えていた。
ガタゴトと揺れる電車の中で、自分の孤独を嘆いていた。
この世界では愛されない。愛するあの子を手放した、私に愛される資格はない。
マユミは違う世界、違う生き方を渇望した。すると目の前に森が広がっていた。
長浜サチはすでに三十人もの戦闘怪人を血祭りにあげていた。
戦う事しか能のない化物どもを〈束ねる〉には、痛い目に遭わすしかない。
慈悲なんて知らない。こんな奴らがどうなろうが自分はまったく痛くもない。
それよりもユカとメグが心配だ。私の前からあの二人を引き離すことは許さない。
渡来ミナミは冒険を〈楽しんで〉いた。
小さな会社の事務ではなく、広大な砂漠で魔物狩り。
猫耳や狐耳や兎耳、猿人や犬人の冒険者仲間に拾われて、ワクワクする毎日を謳歌していた。
これから緑砂の結晶狩り。どんな相手でも負ける気はしない。
異世界での冒険だなんて、こんな楽しいイベントが自分の人生に発生するなんて。
ああ、なんてしあわせなんだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
二つの剣がぶつかった。
白い光と、黒い闇の波動が、辺り一面に吹き荒れる。
「さあ、ようやく始まるのよ! 姫神による生き残りを賭けた、大戦争が」
魔女が、興奮を抑えられずに高笑いを繰り返す。
その目は恐ろしげな金色に輝いている。
――いつ、始まるかは、ようとして知れず。
――七人の姫神、異界よりまかり越す。
――その力は超常なり。
――されど七人、弱きものなり。
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2025年9月23日 挿絵を変更しました
2025年9月27日 挿絵を変更しました
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2026年2月15日 挿絵を変更しました




