表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/697

001 転身! 姫神ッ!

挿絵(By みてみん)


――異世界なんて来たくなかった。



 シオリは不安を感じ、レイは不満を抱えていた。


 おびただしい数の死骸と、瓦礫の散乱する村の真ん中で、二人は()()した。

 シオリは傷ひとつない体にさっぱりとした白いセーラー服を纏い、レイはどす黒い返り血を浴びたリクルートスーツを着たままだった。

 シオリは白く美しい剣を持つが、レイは黒く禍々(まがまが)しい剣を持っていた。

 

「レイさん、どうして……」


 シオリの問いかけに、レイは悲しい目をする。

 そして恨みがましい目でシオリを睨むと、


「あなたはいいわよ。優しいカエルさんたちに守られて」

「えっ」

「どうして私だけ?」


 絞り出すような声だった。


「ズルいよ。だからみんな、死ねばいい!」


 そう言ってレイは黒い剣を地面に突き立てた。

 そして金切り声を上げて叫ぶ。


「転身! ……姫神!」


 ゴウッ! と地面から黒い風がうなりを上げ、レイを飲み込む。

 それを見たシオリは意を決し、白い剣を突き上げ叫ぶ。


「転身! 姫神ッ!」


 天から一筋の白い光が降り注ぎ、シオリを包む。


 その光景を嬉しそうに眺める女がいる。

 長い金髪に黒いマント、全身を黒革のピッチリとしたスーツで覆った魔女だ。


「うふふふ。白姫と黒姫。全く相反する姫神同士が、こうも早くもぶつかるなんてね」


 楽しくて仕方がないという顔で、その女は二人の少女を見ている。



 光と風が止み、現れた二人は変貌していた。


 肩のみを露出した、白い光沢のあるスーツを纏ったシオリ。

 その背面には、光の羽が六枚もきらめいている。

 そして黒い霧のようなドレスを纏ったレイ。

 その頭部には、血のような真っ赤な茨の冠が収まっていた。


 二人は向かい合ったまま、それぞれが剣を構え、そして同時に相手へと向かい、駆け出した。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 柿野間アユミは壁を〈壊し〉、冷たい雪の降る空に飛び立った。

 集まった騎士たちが()をはばたかせ追撃を始める。

 中でも赤い出で立ちの騎士が苛烈な速度で猛追する。

 アユミはその姿を認めると、全身から迸る炎の熱気を暴走させ、いともたやすく追撃者たちを振り切ってしまった。




 秋枝ナナは居並ぶ重鎮たちの前で緊張を隠しきれなかったが、用意された銀色の、それは見事な全身甲冑を身にまとうと、自ずと気持ちが引き締まった。

 後方で見守ってくれているハナイ司祭の笑顔に気付く。

 あの女性(ヒト)のためならば、いかなる敵からも〈守る〉ことを誓おう。

 ナナに(かしず)く騎士団に向かい、剣を突き上げ己を鼓舞した。




 瀬々良木(せせらぎ)マユミは愛を知らない。それゆえに〈愛する〉ことに飢えていた。

 ガタゴトと揺れる電車の中で、己の孤独を嘆いていた。

 この世界では愛されない。愛するあの子を手放した、私に愛される資格はない。

 マユミは違う世界、違う生き方を渇望した。すると目の前に森が広がっていた。




 長浜サチはすでに三十人もの戦闘怪人を血祭りにあげていた。

 戦う事しか能のない、化物どもを〈束ねる〉には、痛い目に遭わすしかない。

 慈悲なんて知らない。こんな奴らがどうなろうが自分はまったく痛くもない。

 それよりもユカとメグが心配だ。私の前からあの二人を引き離すことは許さない。




 渡来(わたらい)ミナミは冒険を〈楽しんで〉いた。

 小さな会社の事務ではなく、広大な砂漠で魔物狩り。

 猫耳や狐耳や兎耳、猿人や犬人の冒険者仲間に拾われて、ワクワクする毎日を謳歌していた。

 これから緑砂の結晶狩り。どんな相手でも負ける気はしない。

 異世界での冒険だなんて、こんな楽しいイベントが自分の人生に発生するなんて。

 ああ、なんてしあわせなんだろう。

 



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 

 二つの剣がぶつかった。

 白い光と、黒い闇の波動が、辺り一面に吹き荒れる。


「さあ、ようやく始まるのよ! 姫神による生き残りを賭けた、大戦争が」


 魔女が、興奮を抑えられずに高笑いを繰り返す。

 その眼は恐ろしげな金色に輝いている。




 ――いつ、始まるかは、ようとして知れず。



 ――七人の姫神、異界よりまかり越す。



 ――その力は超常なり。



 ――されど七人、弱きものなり。



 


 そして物語が始まる…………



挿絵(By みてみん)



お読みくださりありがとうございます。

ご興味お持ちいただけたら、ブックマーク等よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いきなりのバトル。良い冒頭。
[良い点] ・情景描写が、丁寧にされていて安心できる。 [一言] 面白かったのでフォローさせてもらいました。 これからも読んでいきたいと思います。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ