episode6 「屋敷と拳銃の有用性について」
豪華とは言いがたいがかなりの大きさをもつ屋敷.
その前でイストとカナタはきょとんとしている。
「ここか」
「想像以上だね」
「ああ」
王城で聖女か謝礼として何がいいかと問われた。二人の回答は
住める場所がほしい、できれば早く、というのがカナタの答え。
安定した仕事につけるようにしてほしいとはイストの答え。
その両方とも了承されてしまい、さらには「それだけでいいのか」と質問された。聖女の権力は恐ろしいものである。
そして無料でもらった家、いや屋敷がこれというわけだ。
「やっと落ち着けるな、イスト」
「でもまだ決まってないのもあるんじゃない」
「それは追々でいいんじゃないか」
「そうだね」
安定した仕事はまた後日知らせるので明日王城の前に来ていてほしいとのことだ。
屋敷といっても内装を見てみない限りには何とも言えない。
恐る恐る扉を開ける。そこには――――
「普通だぁぁあああよっしゃあああ!!」
ガッツポーズをとるカナタ。この普通とは屋敷のようすから想像した内装であるが。
手入れも行き届いているようだが自分たちで掃除していくのは骨が折れそうだ。メイドさんとかいたらいいのにと思ったり思わなかったり。
「こ、これが普通なの?かなりすごいと思うんだけど」
ちゃんとした常識をもっているイストのほうは夢のようなことだと感動している。感動八割驚愕二割だ。
「よし、今日からここが俺の家だ」
「……私達の…ね」
ここでカナタはよく考えた。
――――あれ? 美人さんと一つ屋根の下って…………。いや、同棲なんかじゃない。ないはずだ。冷静になれこれは成行きで仕方なくだろう。COOLになるんだ俺。
「カナタ」
「な、にゃにかな、イスト君」
舌を盛大に噛むがイストのスルースキルの方が勝っていた。
「私買出しに行ってくるからあとはよろしく頼んだよ」
生活感があるイストは素早くこの破格の状況に適応しもう先のことまで考えていた。
台風の後にように屋敷内が静かになる。一応生活の基盤となるものがすべてそろっているかどうかカナタは調べることにした。
「台所ォ!あった!」
「寝床ォ!一部屋に一つ!」
「リビング!多分これがそう!」
「ベランダぁ!うおすげぇ景色いい!」
「テレb…この世界にはないんだった……」
「トイレぇ!よかった水洗!」
「机&椅子!あるけど多いッ!」
「書斎ぃ!無いッ!本が読みたかった!…」
「噴水!適当に思いついて言ったみたけどホントにあった!」
「庭!雑草抜くの大変そうだなぁ!」
「玄関!もちろっ…て、アレ?」
玄関に誰か立っている。なんか怪しげなフード付きの黒色マントを被っていらっしゃるようだ。体格から多分男かな、と推測する。
「え~~と……どなたですか」
その男は答えない。ただ数秒をこちらを見つめた。
「やはりそうか……お前が…………」
ぽろぽろといきなり涙を流し始めた。よく見るとかなりの美丈夫だ。男なのが惜しいくらいに。
―――――――――なんで人の顔見て感涙してんだよ……コワいのですが。
「あの~~、聞こえてますか?~~~」
「これ…はすまんな………歳取ると…涙もろくなってしまってな」
その見た目で何を言っているんだろうか。
「すまない、友達から紹介されてきたのだがおぬしがカナタとかいうものか。我はエルフ族のベロネというものだ。何という幸運だろうかまさか本人に会えるとは」
ベロネはフードを取った。長い耳があるのがわかる。確かにゲームなどでよく見るエルフだろう。
「えっと、すいません何の用で」
「いやはや偶々近くに通りかかったのでな見物に来たというだけだ。ああそうだ、コレ」
空間の入り口のような魔法陣のような何かを出現させる。そしてそこに手を突っ込むと何かを取り出す。
「はいこれ」
「これは…」
映画とかで何度も見たことがある。拳銃だ。
「ある人から渡しておいてくれと言われていてな。それはリボルバー式で魔力を込めることで弾丸の形に圧縮した空気を放つという代物だ。くれぐれも大事にしておいたほうがいいぞ。高価そうだからな」
黒塗りの回転式拳銃。試しに魔力を込めてみると、ガチャン、という音とともにシリンダーが回転する。
「ありがとうございます。これ誰からの?」
「まぁそれはいつか分かるさ、じゃあ我はもう帰らねばならないので、まrたな」
もう仕事は終わったといわんばかりに颯爽と立ち去った。
「これは思いもよらぬ儲けものをしたな」
試し打ちでもするか、とどこか安定した場所を探す。
丁度庭の端のほうに人から見えづらい裏庭にでる道があるのを見つけたので裏庭で試すとしよう。
まずそこらにあった地面へと弾丸を向ける。
「確か空気を圧縮してるんだよな」
引き金に手を当てるとシリンダーの筋が紫色に輝く。
―――――――かっこいい。
柄になくそう思ってしまった。
そして引き金を引く。ダブルアクションによって発砲する。
シュピン
針を高速で飛ばしたのと似た発砲音がした。
地面を見てみると幅三センチほどの穴が開いていた。
暗闇でも見通せるこの目で見ても限りないほど深くまで弾丸が飛ばされているようだ。
――――まじか……
暗闇を見通す目でも見えないということはその弾丸が肉眼では見えないくらい離れた場所にあるということだ。
拳銃を見てみると筋が一本、先ほど撃った弾丸の部分のみ消えている。空になったぶんだけ筋が消えるのであと何発残っているのかというのも分かりやすい。
魔力を抜くようにすると弾倉がすべて空になった。
このカッコよさは自分の心の奥底にある中二心が暴れだしそうだ。
銃はロマン、異論は認める。