episode4 「勇者について」
主人公の過去の話がありますが多分かなり胸糞だと思うのでそういうのが嫌いな人は飛ばしてください。それ読むと高確率で主人公が嫌いになる。
――――――頭が痛い。
怪物化から戻ったと思えば今度はとてつもない頭痛が襲ってきた。
同時に、怪物化するときに自身を蝕むなにかも感知することができた。微量だが丁度精神と言うかそんなものの片隅にそれがあるのがわかる。
それを中心まで引っ張り出すとまるで内部から改変されているかのような感触を覚える、人間から違うなにかへと変化、いや進化しているかのような。
バキッ
馬車の一部を壊してしまった。
軽く力を入れただけなのにこれだ。もしや自分は本格的に化物とかしてきているのだろうか。普通の状態でこれならば、今怪物化したらどれほどの化物になるのか。
悪寒が背中を駆け巡る。
かぶりをふってその考えを消した。もう帝国についているのだ。それについては今後時間があるときに考えよう。
「ここが帝国か………」
大勢の人間で賑わっていた。王国とやらは言ったことがないのでわからないがそこもこんな風にがやがやとしているのか。
東京もすごいが、ここも負けてないな、としみじみと思う。
町ゆく人は皆どこか楽しそうだ、日本の首都もこんなふうならばどれだけよくなることか。
聖女と騎士の後を追っていくとどうやら王城であろう城の門の前に来ていた。
「これは、どうぞお通りください」
関所にいた門番と同じようにこの門番も二人の顔を見ると一気に気を引き締め対応した。もしかすればこの二人はどちらもかなり位の高い人物なのかもしれないとカナタは自分の考えを改めた。
【】【】【】【】【】【】【】
帝国ガルガ王城の一室、様々な装飾の為された部屋にて、二人の人物が談笑している。
「なるほどそんなことがねぇ……フェル。その人、興味深いよねー」
すべてを見通したかのように飄々とした様子で語る。その対面にいるのはフェウルサス。帝国にカナタ達を連れて帰ってきた後、こうして友と寛いでいた。
「怪物に酷似した力、か。確かにその特徴は一致しているけれどこの目で確かめないことにはどうともいえないかなあー」
「そうか、まだ若造だ。けれど――――――」
「けれど?」
「伸びしろはあるだろう。あれだけの勇気があるのならば。」
「勇気は結果によって無謀にもなるけどねー」
あの青年は何かを探しているようだった。それが何なのかはわからないが。
「僕にとってはさー、体内のできれば心臓部分。そこに魔石があるだろうからそれが確認できればいいんだよねー」
「怪物には、魔石が存在しているのか」
「うん。あれは実態を持っているようで持っていないんだ。魔力で形を成していると、いわばー、迷宮魔物と同じようなモノなんだよねー、だから完全に死ねば空気中の魔力と融合して霧散するんじゃないかなー」
机に置かれた紅茶には二人とも全く手をつけていない。
「だがあの小僧はとてつもない回復…いや、再生能力を持っていたぞ」
「空気中の魔素を使って肉体を生成してるんだねー、人間よりも使い勝手のいい構造しているよー、そのコ」
それも知っているというふうに虚空を嬉しそうに眺め答える。
「メルもやはり興味があるんだな、その小僧に」
「あったりめぇじゃーん。僕は仮にでも宮廷魔術師だよー、面白そうなことは大好物なんだ」
「そうか、なら俺も小僧に相応しい処遇を決めるとしよう」
「もう決めてるくせにー。」
「まぁな」
宮廷魔術師メルント。帝国の宮廷魔術師の中でも第五席。宮廷魔術師幹部は十二人おり、順位がある。宮廷魔術師第五席とは実力主義のこの帝国で五番目に強力な魔術師ということだ。
だがこのメルントの本領はそこではない。
帝国でも随一の分析力、頭がいいというよりは分析力に長けていると言ったほうがいいだろう。確かに切れ者でもあるのだが。
怪物の歴史は短い、三百年ほどのことだ、歴史の目で見れば短いほうだろう、なにせ千年の間、龍に支配され続けたような歴史もあるのだから。
だが、怪物にはその前兆が存在したとも言われている。
怪物を殺すには浄化の魔法、それも膨大な力が埋め込まれた魔術で撃退する、または浄化の術式が埋め込まれた神秘の結晶である聖剣を使うか。
四百年前、聖剣を携えた次代勇者と魔王により怪物は討伐された、あれでも怪物はもとは勇者だったのだ、それが何の因果か化物となり果て聖剣の権利まで失ってしまった。
それ何よりも禍々しく忌々しいのは消滅する寸前にかけた呪いだ。
そのせいで勇者は本来の力をともいえる魔力の三分の一しか使えなくなった。
「そうか、もうすぐ勇者召喚の儀式が行われるんだったなー」
フェウルサスが退室し、部屋で一人呟く。
今度はどのような勇者が召喚されるのだろうか。どんな人間が召喚されようともうまく使い潰さなければなるまい。
「勇者ねぇー。胃世界から送られてくるのだからまともな奴なんだろうけど」
勇者ごとによって能力は多少変わっているのだ。
三代目勇者シン・トキタケは光を主とした聖属性魔法が得意だった。
四代目勇者ラーヴァナ、これこそ後に怪物となり果てた勇者。身体強化魔法が得意であった。ラーヴァナとは偽名であり本名ではない。
五代目勇者マサル・オオミコト、この人が怪物を討伐した勇者。四代目勇者ラーヴァナと同時に召喚されている。古代の魔王の持っていた力を扱えた。
六代目勇者ミノル・サトウ。争いの起こらない世界にせんと奮闘した人物。強奪と呼ばれる力を持っていた。ニホンと呼ばれる元の国へと帰還したといわれている。
その勇者はすべて16から19歳の年齢で王国にて召喚された。
全員強かった。なんと自分の能力をすべて数値化できる「すてーたす」と、「れべる」という段階をもって進化できる能力、それをを全員が持っていた。この二つはどのようなものなのか日々科学者たちが研究しているか結果はあまり芳しくないようだ。
このような人外ぞろいの勇者なので今期の勇者はどのような能力をもっているのかを考えると一刻も早くこの目でみたいという衝動がうまれるがまだその時ではない、と自重する。
メルントはちょっと頭はアレなのだ、御花畑というか、脳内ハッピーセットというか。
おつむはきちんとしてるのだが。馬鹿と天才は紙一重というものなのだろう。そして自分がそれを自覚しているという点もある。
「いやぁー、おもしろそうなモノ盛りだくさんじゃないかー。怪物に魔王に勇者か……それに龍も………」
メルントが何を企んでいるのかはほかの宮廷魔術師もわかっていない。ただ傍観し楽しんでいるだけなのかもしれないし裏で工作でもしているのかもしれない。
「狂いピエロ」の二つ名で呼ばれているこの男は何を目指しているのだろうか。
「王国も頑張ってほしいなー、さもないと龍族に殺されちゃうぞー。」
意味があるのかないのかわからない言葉を言い残し、メルントはドアを開けどこかへ行ってしまった
【】【】【】【回想 of カナタ】【】【】【】
日本にいたの時の話をしよう。カナタが屑だったときの話だ。
カナタ。このころはまだ酒井奏多だ。
部活には通っていない。以前サッカーをやっていたこともあったがもう諦めた。
ほかにも様々な分野に手を出した。
マジック。卓球。野球。国語。数学。心理学。農業。小説執筆。料理。話術など、様々なことにチャレンジしては挫折する毎日だったといえよう。
どんな事をしても上には上がいて、一位になんかなれやしない。
大した努力もせずにそう毒づくことしかできない、そんなカナタはクラスメイトから嫌われていた。
「努力もしてないやつが悔しがるんじゃねぇよ」
「見ててキモいよオマエ」
「俺に関わらないでくれないかな」
「この自己中が」
「・・・・・・屑が」
「人に気持ちくらい考えろよ」
「酒井ってうるさいよな」
「また嘘ついたでしょ」
「兄は優秀なのにな」
「人をイラつかせる天才」
「毎回しゃしゃりでんじゃねぇよ」
「もっとマシな笑い方をしてくれ」
「兄弟なのに似てねぇ」
すべて因果応報、自業自得でカナタに責任があったことだったのだがこの時は自分は正しいと本気で思っていた。
諦める天才だった奏多には友達なんかできるわけがない。
諦めた末に倍率のそこまで高くない高校にはいることとなり、そこでも底辺の存在となった。
容姿も頑張れば多少マシだったのだろうがそんなことに気を使うことのないカナタは見た目でも嫌われてりうことがあった。
リーダシップなど言語道断、それなのに大人じみた言葉で人をイラつかせる。そうすればその底辺の容姿も意味をまして相手の怒りをストレスを倍増させるものとなる。
勉強も真剣に取り組もうとしない。
中学でもそうだった。
カナタはこのときテニス部に入部していたがいろいろと理由をつけては休んでいた。
勉強も中の中。だけれど二年生である自分一人で一年生数人をまとめあげようとしている部長がいた。
二年生だったカナタは当然副部長だったのだが休むことをくり返していたせいで部活に来ても一年生から邪険に扱われた。
「まじっっっでさぁ!一年生腐ってるよねぇえ!」
そんな愚痴を聞かされた部長は腹立たしくなりつつも堪えた。
「お前が先輩らしくしないからだろ」
「まぁそれも一理あるよ、でもさぁぁぁあれはないよぉ。一年生って今の三年生と同じだよ」
「そんなにグチグチいうなら面と向かって注意しろよ。」
そんな部長の一縷の願いを込めた言葉も一蹴する。
「へぇぇ、よくお前がそんなこといえるよねぇぇええ!」
「自分のイラつきを人に向けんなよ」
この時カナタはこの部長を完全に見下していた、自分よりも底辺の存在だと思っていた。
運動でも勉強でも努力というもので差をつけられているのにそんなことを考えていたのだ。
自分は弁が立つ。それにおいては他の追随を許さない。つかえるボキャブラリも多い。精神力も人より高い。
バカだった。いや、愚かといったほうがいい。弱音一つ吐かず虚勢を張り続け、なりたくもない部長にさせられそれでも先輩の皮をかぶり。先輩として部長としてここまで腐った一年生を引っ張ってきた部長よりも自分は精神力が高いと思っていたのだ。
その自信はゲームをしているときにうける罵詈雑言を我慢しているからという身勝手な考えによるものだった。
自分だけが世界で一番不幸と思っているかのように死んだ目をしていて、それでいて自分のことは棚に上げ人に屁理屈を浴びせる。屁理屈も理屈の一つですと言ったり、ペンは剣より強しと言っては増長する。
部長も堪えていた。ここで爆発してしまったら一年生はどうなる、部活をやめようとしても親からの圧力で辞められない。
だが爆発した。これ以上は胃がもたなくなる。
「さっきからタラタラタラタラうるせぇんだよ! なにが弁が立つだ! ただその貧相な頭で人よりも優れていると錯覚しているだけだろうが!! 精神力がないからグラウンドを走るときに何かと理由をつけて休憩をとる!!お前のせいで一年が腐っていってんのだわかんねぇのか!! あぁ"!! どうせまた人を見下してんだろ!? でもそういったら「そんなことないよ」とかいうんだ!! この詭弁に満ちた虚栄心の塊が!! お似合いの言葉だろ!? ネットで見つけてお前を表す言葉としてとっておいたんだ!!もう俺はお前の顔見るだけで吐き気がする!!ああうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜうぜうぜうぜうぜ!! 逃げばかりの癖に一丁前に見下しやがって!社会のゴミが!!死ね!!屑が!!おまえは赤ちゃんより無能だよ!!赤ちゃん赤ちゃんだ!お前は!!」
ああ、またか、とカナタは思った。また頭の悪い奴が自分に八つ当たりしている。これだから無能は。と愚かにもそう考えていた。
そして―――
ガツン、と痛々しく殴りつけられる。
自分のゲームによって鍛えられた腕力とは違う、血と汗を滲ませながらも苦労してきた男の拳だった。
だけれどカナタはそれにさえ気が付かない。
「暴力だ、校則違反じゃん! 一年生!! 先生呼んできて!!」
苛立ち交じりにそういうとバレないのように部長の腹に蹴りを入れた。
「全っ全痛くねぇよカナタ!!」
「『バレなきゃ犯罪じゃない』んだよね」
しかし、ここで誤算があった。一年生の一人が此方をにらみつけていた。すべて見られていた。
「先生呼んでくる」
これ怒りに満ちた表情をしながら職員室へと向かった。
ほかの一年生もやってきて
「糞カナタ!先輩に何してんだよ! 屑はどっか行け!!」
もはや一年生は自分のことを先輩と認識していなかった。部長は保健室に連れていかれた。
確かに先生からは両成敗だったがそこから中学校生活はどんと地獄のものに変わった。
高校でもあまり変わらなかった。
いったいどこで間違えた。認識を間違えていたのか。いままで見下していたのはすべて自分よりも有能な人だったのか。
人間不信直前だった。いや、それすらも誇張なのだろう。ただネガティブになっていただけなのだろう。どうせ自分は逃げているのだろう。そうなのだろう。
そうか、自分こそが屑だったのだ。こうやって完全に孤立して初めてわかった。
もうチャンスなんてものは存在しない。
後悔だけだ、今になって頑張っても、どうせ皆自分が努力したことを信じてなんかくれないだろう。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
「うああああああッッ!」
目を覚ました。
「なんだ、夢、か。何かめっちゃ鮮明だったけど明晰夢ってやつか?」
お決まりの疑問じみた一人言。
「嫌だなぁ。もうあんなの思い出したくもない…………」
部長には土下座しても許してもらえないだろう、それほどまでにあの時は自分の性格が屑だった。性格が悪いという分野を超越していたのだ。
手を開き、握りしめる。確かに異常な握力があることが分かる。ここは異世界だ。そうやって不安を拭い取る。
「はぁ…………慣れない場所で寝るもんじゃないな」
謝礼の一つとしてタダで泊めてもらった宿だがやはり肌に合わないようだ。これでも品質は高いベッドなはずなのだが。
「顔洗ってこよ」
こんな主人公の過去書いたのが自分だと思い「もしかして俺って、性格悪い?」と考えずにいられない。