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episode2 「いざ、帝国へ。」

気が付くと胸の傷はふさがっていた。

「ここは、どこだ」


記憶をたどる。そして監獄長(弓使い)をことを思い出し、身構える。

だが、すぐ後ろにあった弓使いの死体をみて自分が殺したのだということを思い出してしまった。


「なんだよ………コレ…」


膝をつく。砂の音がした。


「俺、化物じゃねぇか…………………………」






【】【】【】【】【】【】

イストは森を走っていた。

振り返ってはいけない、それは分かってはいるがあの青年の動向を心配してしまう。


「なんであの人は………」

そう思うと自分だけ逃げているという事実に愕然とした。



いても経ってもいられず来た道をUターンして戻る。


砂浜の中心で見つけたのは横たわる一つの死体と微動だにしないカナタの姿。

「まさか監獄長を…倒した」


横たわる監獄長の姿は遠めに見ても動いていないのがわかる。


「こっちに来るな!」


そう叫んだのはカナタだ。


「お願いだ、どっかに行ってくれ。一人にさせてくれ…………………………」


悲痛な声だった。


「何が、あったの?」


答えは返ってこなかった。もし自分に責任があるとしたら償わなければならない。だが。


「お前には関係ねぇよ……………一生の願いだ、一人にしてくれよ…………………」



怪物となり果てていた記憶を鮮明にカナタは思い出すことができた。自分の手で人を殺した事実、それに罪悪感を全く感じない自分。狂ったような怪物の自分。暗闇がはっきりと見えた理由も今は分かる。


「いつもいつも俺だけこうなる。畜生が…………世界が変わってもこれかよ。これなら死んだほうがましだ」


一人にしてくれと言う願いをかなえてやることしかイストにはできなかった。

朝が来る。海から迫る波がカナタのとひざ下をどっぷりと濡らした。


「礼も言えてねぇじゃんか、それどころか俺は人も殺した、なのに心ひとつ動かねぇ。化物だよ完全な化物」


ただ黙る。ずっと硬直したまま時間だけが過ぎた。


日が昇っては落ちるという現象を三回ほど繰り返した辺り。

足音が聞こえ、ふとそちらを見れば両手に籠をもったイストがいた。


「まだここにいたんだ。腹減ったでしょ」


両手に抱えている籠をカナタの目の前に置いた。中にはいくつかの果物や魚があった。だが、カナタは手を付けようとしない。


イストはカナタの横に座る。そしてぽつりぽつりと呟いた。

「私ね、罪人だったんだ」

「………………………………………」

「その前は宮廷につかえてた最年少の回復魔法使いでね。神童、とか聖女候補の一人とか似合わない呼び名があったけれどそれが嬉しかった。」


カナタは、無反応だ。


「でもさ、ある時、すでに死んだ人を抱えて「この人の傷を癒してください」っていった人がいたの。回復魔法を使っても生き返らないことは知っていたけれど私は回復魔法で助けようとした。そしたらね、生き返ったんだよ、その人。 議会の偉い人とかもそれを見ていたからすぐ私は危険人物として牢に入れられた。その時に「あの死者蘇生魔法を国のために使うならば解放してやる」って言われたけど断った。だってさ、人はいつか死ぬものだから」

「…………………」

「16歳になって牢から脱獄した。あと数人仲間がいたんだけれど途中でほとんど捕まって、最後には私だけしか残っていなかった」

「…………………なぁ」

「ん?」

「お前って16歳だったのか…………」

「いや、今は17。」

「そうか………………」


もっと若いと思っていたら自分と同い年だとは思いもよらなかった。身長が低いな。女だからか?


「イスト………俺は何のためにここにいるんだ」

「私が知りたいよ」

「そうだな、ありがとう………」


イストは唐突な言葉に驚いたような反応を見せた。


「カナタって素直になれない人だと思ってた」

「そんな風に見えるのか、心外だ」


素直になれない人。そうだ今の俺は人なんだ。

虚無感がどんどん薄れていくのが分かった。


「なぁ、イスト。お前これからどうするつもりだ。その宮廷の奴らがまた追いかけてくるんじゃねぇのか」

「うん、どうしようかなって私も迷ってる王国の人たちしつこいし」

「軽いなおいというかやっぱり王国とかあるのか」

「一応、どっかに。王国の手が届かない帝国とかに行きたいかな」


またテンプレな、帝国って名前からは物騒な国と言うイメージがある。


「帝国とかもあるのか」

「うん、帝国と王国はいま敵対しているからちょうどいい」

「それなら王国に仕えていたお前って帝国の奴らにとっては目の敵なんじゃ…………」

「大丈夫だよ、名前も顔も知られてないから。仕えていたのはもっと小さい時だったし」


そうか、なら


「俺もついていっていいか。もしかしたら力になれるかもしれない」


勢いよく立ち上がる。

この怪物の力を誰かのために生かせるなら、俺がここにいるのは意味があることなのだと証明できる。それに、一人でこの世界を生きるには意外と辛そうだ。


「いいけど、その前にコレ食べて」


籠を指さしてイストはそう言った。



【】【】【】【】【】【】【】



王国から離れるように進むにはどうしてもこの森を抜ける必要がある。それに弓使いが帰ってこないということで誰か探しに来られたら厄介だ。

もうすでに三日経っている。これ以上時間を置くのは危険なので仕方なく森をの中を進んでいる。


草木が茂っていて通りにくい。もしかしたら異世界特有の危険植物とかがありそうなのもあり、速度が落ちる。


ここでカナタは疑問が浮かんだ。


――――――なぜ俺は全く疲れていないのだろうか。

三日なにも食わずともあまり腹減ってなかったし脚力とか腕力も前より上がってる気がする。



「カナタって足早いね、冒険者だったりするの?」

「いいや、自分でも驚きだ、 化物になった副作用みたいなもんかな、いまじゃ嬉しい限りだけど」

「そうだったね、どんな化け物だったかはしらないけれど聞いた限りでは怖そう」


自分が化物となってしまった現象についてイストに話している。イストならば大丈夫だろうし、なによりもそれが何なのか分かるかもしれなかったからだ。イストも聞いたことがないと言った様子だったが。


「お、あれは」


見えてきたのは多少開いた場所、そこには濁りの全くない湖がある。


「喉も乾いたし、流石に水浴びがあまりできてないしね。ここで休憩しよう」


森の中にある湖といえば泥水とかが混ざっていたりするものが多いのでカナタは水面に触れる。

ここから見た限りでは濁りというような濁りは見られない。純粋な水だ。

異世界にはこんなものもあるのか、と感心した。


だが、異変に気付き、カナタはその場から飛びのいく。


イストは突然の行動に驚いた顔をしている。


そして、先ほどまでカナタがいた場所に向かって湖から青い影が現れた。


「なにこれ」


流動性とクッション性に満ちたそれは理科の授業などで一度見たことがある物質だった。


「スライム?」


そうスライムという単語が一番近いように見える。だがサイズが違う。カナタが想像するようなバケツ一個分ほどのスライムとは違い、明らかに部屋一つ分は下らないほどの大きさをそのスライムは誇っていた。


暗闇でも容易に見ることができるカナタの目が、水中から近づいてくるスライムを見つけられたことが幸いしてあのスライムの下敷きにならなかった。


戦闘モードと言うべきになにかに陥ったカナタは一瞬にして視界がクリアになる。

スライムの中心に何かあるのが分かった。


あれはもしや魔石とかいうものなのだろうか。魔石ならば同時に弱点ということではなかろうか。


それは近くにいるイストに聞けば早かったのだがスポーツでいうゾーン的な状態のカナトにはその発想が消えていた。


スライムの体が跳ねる。飛ぶのか、と身構えたがどうやらこちらに進もうとしてきているだけのようだ。


その動作から数秒のタイムラグを経て、なんらかの液体のようなものを飛ばしてきた。

右に転がり回避する。液体が当たった地面は草もろとも溶けている。これは硫酸とかと同じような液体なのだろうと当たりをつけた。

実は硫酸と言うよりは王水のほうが近いのだが。


もう一度スライムの体が跳ねる。


そして液体をまた飛ばしてきたのと同時にカナタはスライムに飛びかかった。


液体を紙一重で避ける。それは現在の集中状態と以前よりも上昇した身体能力によるものだ。

力を込めた拳を標的めがけて打ち付ける。


しかし、まるでゴムの塊を殴ったかのように衝撃がやわらげられてしまう。


もともとスライムには打撃は効きづらい。そのことを知らなかったカナタはすぐさまスライムから離れる。


「カナタ!」


自分のすぐ横にナイフが落とされるのが分かった。そしてそのあと、「フレイム」という詠唱によって中位の火炎がスライムに降りかかる。


わずかだがその炎によってスライムが小さくなった、それになにより、あちらはひるんでいるようだ。


大きく踏み込み、接近するとそのままナイフを突き刺す。そのまま腕ごと入れ込むようにしてどうにか魔石にナイフを近づかせる。スライムは自分の魔石を違う部位に移動させようとしているがそれよりも先にカナタのナイフが魔石を壊した。


魔石に(ひび)が刻まれると同時にスライムはつぶれるように地面に広がった。


「びっくりした。なんなんだこれ」


一息つける。張り詰めた緊張が解けたせいでカナタはその場に座り込んだ。


「こんな大きさのスライムは初めて見たけど。もう湖にはいないよね」

湖を覗き込んで恐る恐るそう言う。


「もういねぇよ」

イストの横に並ぶように湖を覗き込んだカナタが言った。どんな暗闇でも見えるこの目はちょっと気味が悪い。


「はぁぁ。やっと水浴びできるのか」

「そうか、じゃあ俺はあっちにいってるから何かあったら呼んでくれ」


自称紳士であるカナタはすぐさま別の場所で移動する。出歯亀などはしない。それがカナタのポリシーなのだ。チキンともいえる。

イストははっきり言って美人だが、ほとんど牢にいられらていたせいかあまり人の目を気にしないという欠点があるようだった。


少し森を進む。そこらの木を背にするともたれ掛かって休む。

今、カナタは日本でいうとこの学生服だ。弓矢から貫かれところどころ破けていたりもするが大体は大丈夫。この服装はこの世界で目立ったりしないだろうか。


「うん?」


光が一気に強くなった。

顔に降り注ぐ日光の出所を探るとそれは自分たちの進行方向の先にある茂みの隙間からだ。


「もしかして、外か!」


大声で燥ぎ(はしゃぎ)たかったが森によく出るという魔物に気づかれないように小声だけにしておく。


人が多くいる帝国に着いたらどんな出会いが待っているのだろうか。やっぱりここも王道(テンプレ)で冒険者にならなければいけないのだろうか。


柄になくワクワクしていたカナタだった。





【】【】【】【】【】【】【】



森を抜けて、ずいぶんと歩きやすい地形になった。まだ草原ではるので足が痒い(かゆい)が。


「やっと出られたね」

「ああ。まだ帝国には遠いのか?」


頷いて「まだまだ先だよ」と言われ、カナタは「足が死にそうだ」と一人ごちる。


ちょうどその時、イストが一点を見つめて指さした。


「あれ、見て!」


言われるがままにそちらを向くと、この坂を下りたところに馬車のようなものが転がっているのがはっきりとわかった。どうやら視力も上がっているようだ。


「何かあったのか」


不吉な予感。というよりこれはもうテンプレとしか言いようのない事態にとにかくカナタは急ぎ足で向かった。



【】【】【】【】【】【】【】


「こりゃ、ひでぇ」


馬車の手前に転がったグロテスクな死体を見た感想が口から自然と()れる。

だがそれ以上に酷いのはこれを見てもどうとも思わない自分の精神だろうか。だがまだ大丈夫、人の身を案じれるのだから。まだ、大丈夫だ。


「盗賊とかにでも襲われたか?」

「カナタ、この人たち全員喉を一撃で刈り取られてる」


言われてみれば確かにそうだった。綺麗に喉元を引き裂いているようだ。それ以外の傷は全て浅い。

つまりはこの馬車を襲ったのはかなりの手練れかもしれない。そう言いたいんだろ?とイストの方を見やるがイストは後ろに腕を組んでどこか虚空を眺めていた。何か考え事でもしているのかと思ったが組んだ腕が少しだけ震えているのを見て、その考えを撤回する。


「心配しなくていいぞ、俺はこいつらを生き返らせろなんて言わないからな」


震えていた瞳がこちらを見た。目線が交差するがこれは礼儀として目線をはずしたりなどしない。

だがそのせいで昔カナタは不良から絡まれたことがあるのだが。


「俺はお前の仲間だ。そこは信じてくれていいんじゃないか」


もし勝手に仲間を思い込んでいるだけならばカナタは落ち込む。たぶん。高確率で。絶対。


足元に何か当たる。

馬車の近くで倒れていた一人が這い寄ってきたのだ。


「頼む…………あいつらの後を追ってくれ、聖女様が盗賊に連れていかれ…………t……」

「おい、どうした。何があったのか教えてくれ」


イストが回復魔法をかける。傷が次々に塞がっていきすぐに息を吹き返した。

気が付き、目を開いた瞬間にそいつは飛び起きて俺の肩をガシッとつかむ。痛い。


「聖女様は!早く助けに行かなければ!」

「ちょ、ちょっと待てよ。話の内容を説明してくれ。いったん落ちつけ!」


その人は金髪に平均よりは上、中の上的な顔立ちをした男だった。

さわやかな容姿とは相反する態度で慌てていたが、すまないと一言いうと今度は冷静になって話し始めた。


「私は貴族であり23代目聖女であるマルセラ・フォン・ゼクリア様の護衛騎士だった、のだがさきほど盗賊に襲われ不甲斐ないことにお嬢様が連れられてしまったのだ。報酬はいくらでも出す。どうかお嬢様をともに助けてくれ!頼む、この通りだ!」


どうやら貴族がらみのようだ。


貴族か、胡散臭そうな人だが、見た限り必死のようだしここで恩を売れば後々助かるかもしれない。


「助けてあげよう。カナタ。騎士様は義理堅い人が多いから約束はちゃんと守ると思うよ」


――――――でもなぁ、地球での騎士って騎士道とかはほとんど建前でかなり強欲というか、卑怯な奴らも結構いたって聞いたことがあるしな。この世界でもそうなのかは知らないけれど。


そもそもイストは人に対して優しすぎる。それは長所にも短所にもなる。もっと見極めを大事にしたほうがいいと、カナタは不安がっていた。


「わかった、お前がそういうなら信じよう。騎士さん。その盗賊とやらの行方(ゆくえ)は分かるのか」

「ああ、しっかりとこの目に焼き付けている。おそらく、鳳凰の迷宮の辺りだろう」


キメ顔で言ってのける騎士だったが、カナタには「そこどこだよ!」とこれまた内心で毒づいた。


鳳凰の迷宮。迷宮の一つで初級、初心者用として広く知られている。帝国と王国の中間地点に位置しているので商売の目印や移動の際に次いでとして潜る者も多い。迷宮に潜るものは「探索者ライセンス」という探索者ギルドの試験をクリアし発行される自分用の証明書(ライセンス)を持っていなければならない。


そして冒険者と探索者を併用するものが多いというのもこの迷宮が栄えている理由の一つだろう。

だけれど必要とされる心構えや技能は冒険者と探索者でおおきく違ってくるのだが。


「ついてきてくれ」


その鍛え抜かれているのであろう脚力で騎士はどのどん前に進んでいく。慌ててカナタ達も歩を進ませた。





うん、大体何字くらい書けばいいのかがわからないかれどこれくらいでいいのかもしれない。

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