episode12 「死神」
ここはどこだ。
見渡す限り真っ白な空間がどこまでも広がっている。場人ならば発狂してもおかしくないぐらいに白で埋め尽くされた空間。
俺は確か怪物になっていたはずだ。だがここはどこだ。まるでここは。
「お主、面白いの」
視認できなかった。突然現れたのではない。そこにいる誰かはずっと前からそこにいた。
黒い影、といったら分かりやすいだろうか。白と対になるように今度は黒で埋め尽くされた人型の何か。
「誰、ですか」
「うむ、死神、といえばわかりやすいかの」
死神、物騒な言葉だ。どこぞの偉人を彷彿とさせる。
「何の用ですか。そんな偉い人が」
「敬語のはずなのにお主から言われると敬語に聞こえなくなるの。安心せい、別にどうこうしようというわけではない。ただ娯楽まじりに手助けしてやるまでよ」
明らかに今の自分には敵わない、相手は神だ。
「お主にはいくつか選ばせてやろう、じゃが、まず決定事項としてステータスとレベルの概念を与えよう」
死神の指先から光が発生し、それは俺の内部へと吸収される。
「レベルというのは別に強くなるわけではない。ただお主の有り余る力を数値化して段階をつける。レベルは百までが上限じゃ。そしてそのレベル百とは百パーセントの力を表すと考えていい。つまりレベル一とは全力の力の一パーセントという意味じゃ。普通なら戦闘を重ねるごとにレベルが上昇する、戦いの勘を取り戻していくのじゃが、お主の場合は派手に変動していくのかもしれんな」
一通り説明した後、死神は腕を振って三つのボードを出現させる。
三つのボードにはそれぞれ
「 魔力増大」「迷宮創造」「管理知能」
『魔力増大』
魔力の最大量を五倍にする。
『迷宮創造』
迷宮主として迷宮を創造する能力。自由自在に迷宮を創造することができる。
『管理知能』
高等人工知能が持ち主に助言する。持ち主の深層心理から情報をとって整理し伝える。
「どれか選ぶのじゃ。どれでもよいぞ。ひとつ言えばお主の特性上、魔力が増大することはそのまま怪物としての力の増大を表す。」
この中からか……
別にどれでもいいというわけじゃない。だがこれらは本当に俺にとって手助けとなるようなものなのだろうか。どこに落とし穴があるか分からない限りは迂闊に選ぶことはできないだろう。
「…………全部もらえないか?」
「……は?」
俺の答えはすべて選ぶ、だ。
「どうなろうといい、ただこの異世界では俺は後悔などしたくない。するとしても反省までだ。だから今の俺にとって最善の選択が、これだ」
ぽかん、としている死神。
少しして、あ~、とうなり始めた。
「別にいいぞ、儂もこの異世界とは関係ないのでな。お主は飽きるほど何度もこちらに来ていたから少し余興として手助けしたまでじゃ。多少お主が有利過ぎてもそれもまた一興。」
三つのボードが混ざり合いながら粒子となり、さきほどと同じように俺に吸収される。
「死神に歯向ってくる者もいたが、こういうのは初めてじゃな」
視界が狭まる。瞼にかかる重力が増加したかのように重い。そうだこれはメルントの野郎に眠らされた時とにている。
「いつかまた会うじゃろうが期待はせんほうが善いな」
まどろみの中で聞いたその言葉がなぜかずっと耳に残った。
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「ココハ?」
起き上がる、体がマグマを入れられたかのように熱い、熱い。なんだこれ。
「これは驚いた、怪物の状態で自我を保っているとは……それに存在が魔力量が明らかに四倍以上増加している…………」
こちらを興味深げにみるのは金色の右目だ。そう、メルントだ。
「君はこれからあの反乱軍どもを蹴散らしにいくのだよねー。僕にとっても被害がこれ以上増えないうちにアイツらに死んでほしいから頑張ってねー」
手をこちらにひらひらとふり、壁に寄り掛かる。俺に任せず自分でどうにかすればいいじゃないか。
「さあ、早く行け」
メルントが無表情に変化する。右目を擦っている。
「知ッテルか。ヤラレタラヤリ返スっていう諺ガある。俺ハオマエに眠ラサレ何カシラノ改造をサレタ借リガあるンダガ」
「別に改造なんてできてない。誰か知らん奴のせいできなかった。それに今そんなことをしている場合じゃないだろう」
目からぽとぽとと血を流している。
「しまったな。許容時間を過ぎてしまったか……………………とにかく君には一応コレを預けとくよ」
投げ渡されたのは格魔力回復薬とただの回復役が数個。
「理性があるんならそれを使いこなせるだろう」
「ソウカヨ。恩に着ネェカラナ」
とにかく、この異常事態をどうにかしなければ。人として、カナタとして、騎士として。
一番被害が大きいであろう地区に向かって足を速める。
小さくなっていく背中をメルントは左目で追った。
「メルントッ!!あのバケモノをなぜ放っているのです。貴方ならアレの正体が何なのかぐらい余裕で分かったはずです!!その魔眼が使えなかろうと!」
甲高いこえでメルントを叱責するのはフリートだ。
「そうだ。わかってる。だからこそ僕はあの青年に託しただけだ。」
「なにを世迷い言を! あのバケモノは十分危険人物に値するはずです。ならば管理しなければならない!! 人の枠から外れたもの私達のように!!」
待て、と、更に問い詰めようとしたフリートを手で制する。
「そうやって間違いを犯すこともある。僕は彼の記憶を覗き見た。だからこそ言える。彼は今、人のために何かを成そうと必死になっている、人のために生きて自分の存在意義を見つけようとしているんだ。安心してくれ」
フリートは項垂れる。
「貴方がそういいうのなら頭を冷やさせてあげます」
「実際に顔を冷やすと精神が安定するらしい………しかし、ここは通せない。僕は民のためにならバケモノにだって頼る。何があろうと絶対に今はここを通せない」
使用限界に達しているはずの魔眼を更に酷使する。固有属性「烈風」も駆使するつもりだ。
「君さ、あの時約束したじゃないか。ともにこの帝国を良くしていくと。もう理想すら見れなくなったのか」
突風が巻き起こり、ピエロと人形は相対した。
【】【】【】【】【】【】【】
「ソコ、ドケヨ」
尋常ではない膂力によって地面ごと敵を抉りとる。
「なんだ…………………コイツ………」
反乱軍の首領の側近であるルンダは冷や汗を流す。
「お前は…何なんだ…………」
唐突にあらわれた一人のバケモノに委縮する。
―――――首領はどこいったこれでは殺されてしまう、そうなるとこの帝国は腐敗したままになるぞそれだけはそれだけは駄目だ。どうなろうと、ならここで私がどうにかするしか。
女ながらに頑張ってきたつもりがここで散ってしまうのか。いや、あの首領と戦って死ねるのなら本望なのかもしれない。
ここまでともに戦ってきたハルバードを持ち直す。
「我こそはルンダ。誇り高き反乱軍首領の側近にして忠実な部下、参るッ!!」
その華奢な足からは予想もできない速さで突進する。それもとある武術をもとにしてブレーキの掛けやすい速さで。
――――倒す!
だが、
すでに、
いつの間にか、
認識できないうちに、
バケモノはルンダに肉薄していた。
バケモノの拳がルンダを吹き飛ばす、なんとかハルバードで防いだ。しかしバケモノは伸ばした腕をハルバードにあてたまま一気に力を込める。
ボゥン
あっけない音がした。衝撃によりルンダは背中を地面で削る。
「…………かハッ」
「オマエ、マダマシなホウダッタナ」
バケモノは手から鍵爪を出現させる。
鍵爪が風を切り裂いてルンダへと迫る。だが。
「待った」
上空からいくたもの魔法陣が展開。
そしてその魔法陣から波動とも言える圧力の波が襲い掛かる。
バケモノはそれにさえ耐えてみせた。
「貴様か。見習い兵士の中でも特に危険だといわれていたのは」
反乱軍首領。ゲネリオル・バウセンはバケモノを見つけた。自分の初撃を軽く耐えて見せたバケモノを。
元宮廷騎士副団長、その得意とした剣術はとある魔法と併用するものだった。
「大事無いか、ルンダ」
「はい。」
「少し休んでいろ。この男は我にようがあるとみた」
「オマエガ首領か。オマエコソが元凶ダナ。潰ス」
バケモノと認定されたカナタの周りに多数の魔法陣が現れる。
術式の同時複数使用。それこそ人外の演算能力がなければできない芸当だ。
幾何学模様の中心から様々な魔法が放たれる。
すべて攻撃魔法なのはもちろんのこと、精密に編み上げられた術式によって消費魔力を減少させている。
生物として最高位の存在である怪物状態のカナタもこの怒涛の連続魔法はかなりのダメージを与えることとなる。
体中に裂傷を作りながらも、カナタはそれを耐えて見せた。
当たっても害のないような魔法は防御し、それ以外の魔法は避けるまたはいなした。
なぜ、王国の宮廷騎士団長よりも弱いはずの元副騎士団長がそのような高度の魔法を放てるのか。
怪物は考える。
走馬灯は限界を突破する。
すると周りが、すべて、理解できた。




