episode10 「敵襲」
半年の期間が過ぎた。最初はあれほどに濃かったはずだが今はゆったりとした日常が続いている。
「今日は良い日だと思わないかべヒス」
「お前いっつもそれいってばっかだよな。」
「当然じゃないか、今日が良い日だと思わなければ悪い日になってしまうのだよ」
「はいはい」
このごろは見習い騎士としての仕事なども板についてきた。
ついでに昨日は強盗犯を捕まえた。
ナイフを持っていた、が小手先だけで騎士見習いに勝てると思わないほうが良い、と忠告したいほどに足元がおざなりだったので足を掛けて拳を顔面にお見舞いし即KO。
そして幸か不幸かしらないがまだ一人もあの連撃をできるようになっていない。
一名出来そうになっている奴がいるがそいつはいつのまにか四属性魔法を使えなくなる代わりに無属性の身体強化魔法の効果を大きく増大させるという違う方向に進んでいっているようだ。
弟子なんてできたとしても教えることなど何もないのでこのまま出来なければいいのだが。
バァアァアアアンッッッ!!
何かが倒れるような、変な爆音が鳴り響く。
「なんだ!爆発?」
爆音のしたほうへ、べヒスとともに向かう。
そこは騎士舎の門。なんらかの衝撃によって造形がわからないほど壊されている。
「ここ、か」
現れたのは甲冑を被った集団。
おそらくは帝国の騎士ではない。
「誰だ!」
見習い騎士の一人が叫びながら近づいてゆく。
だが――――――
ゴキュリ
甲冑をかぶった剣士の一人に首を捩じられ、そのまま地面に崩れ落ちる。
つまりは殺された。
「敵襲ぅ!!敵襲だ!!」
べヒスが自慢の大声でそう叫ぶとともに剣を抜いて疾走する。
「おるぅらぁあぁぁああああ!」
鎧を纏った集団の一人が向かってくるべヒスを蹴とばす。
不格好に地面を転がり血を吐いた。
「おい、べヒス!しっかりしやがれ!!」
こいつら、なんだ。
「大ッ、丈夫だ!!」
べヒスは剣を杖代わりにして立ち上がり、してやったりと鎧集団のほうを向いた。
するとさきほどべヒスを蹴飛ばした剣士が倒れる。
そうか、蹴飛ばされる瞬間に鎧と鎧の隙間、そこに剣を捩じ入れ斬り裂いた。さすがだな。
「敵か!!」
他の先輩方や見習い騎士たちが一斉にこちらに来た。
先輩の一人が声を荒げて叫ぶように言った。
「全員剣を抜け!! これから敵を殲滅する!!」
ウォォオオと叫び、甲冑の集団と激突した。
やるしか、無いのか。
一番近く、そして高い屋根に上る。
戦況を確認、驚愕した。
「町が…………」
この騎士舎は帝国の一番東側に位置している。そう、東側全土が甲冑を纏った集団に襲われていた。占領とも言っていいだろう。
「全員聞け!!他の地区もこの敵の仲間と思わしき集団に襲われている!!速やかに今の敵を打倒し、我らは町を守らねばならない!!」
そう叫んで皆はいいものの、本当にこいつらは何なのだろうか。一日二日でできた手段にしては数があまりにも多すぎる。
「フッ…」
振り向きざまに後ろから襲い掛かろうとしていた剣士を腹部から切り落とす。
屋根から落下する。その重力の力を使って下にいるもう一人の剣士に剣を突き刺し、横に体を投げる。
体を投げたことで弓矢をよけ、体勢を傾けながら地面を斜めに走り剣士たちを切り刻む。
だがそんな風に剣士をバッタバッタと倒せるものは多くないようで全体的に敵から押されている。
先輩の一人が戦況を冷静に判断し、言った。
「全員一時撤退!」
逃げではない、戦略的撤退というものだ。べヒスが簡易的ではあるが結界を張り、その内側に見習い騎士たちを囲う。
俺は外で結界を破られないように守らなければいけない。まるで最後の砦を命がけで死守する敗兵のようだ。なるほど確かにこれは意地になるしかないな。
剣を水平に掲げる。
全五感を周りに集中させる。この空間と自身が一体となったかのようなイメージ、感覚。
闘争本能らしきものをもって無駄な脳の機能を遮断し、戦闘に最高のコンディションを作り出す。
「フーーー、」
そして一気に後ろの剣士へ回し蹴りを食らわせ、それを助走として一気に切り刻む。
あの連撃を超えるほどの連撃を。
スパン、ズパン、シュン、ピシュン、パス、スパ、ヒュン、シュン、シュパリ、ガシュ、シパッ――――――
「何がっ」
「うわああ」
「馬鹿なそんな」
「強――――」
「逃げぅぅう…」
「ぐふ…」
「これは死――――」
まだまだ加速させる。誰一人としてここは通さない、通させない。
「こんの…バケモノがぁぁぁああああああ」
横に薙ぎ、なんだかうるさい剣士の息の根を止める。
【】【】【】【】【】【】【】
数が多い。多すぎる。
もう俺も満身創痍。これ以上の戦闘は無理がある。
どうやら結界も破られてしまった。
人海戦術の罠にかかってしまったのだ。
皆壁際に追い詰められているせいか全員が、いや、ほとんどが諦めた顔をしている。
「ここで結界を張ったものは誰だ」
おそらく甲冑集団の首領であろう者が厳かな声で尋ねた。
誰も答えない。
それもそのはずだ。友を売るなんてできない、ましてや俺にとっての親友だ。べヒスは。
「答えたなら見逃してやろう」
嘘だ。嘘に決まってる。みんな信じるんじゃない。、無駄に殺されるだけだ。
「皆、答えようよ」
そういったのは先輩だ。なぜ、と見習い騎士は考えていそうな表情に染まってた。
そうか、先輩が怖気づいたのか。だがこの先輩は結界を張ってくれた者がべヒスだとは気づいていないのだろう。
「皆…ここで死にたくないだろう。誰なんだ!」
恐る恐る、一人の女見習い騎士が手を挙げた。
「私知ってる……」
「誰だ?」
「それは……」
この見習い騎士の名はフレイ。気弱そうな女見習い騎士だ。
深く悩む、蒼白にそまっているその表情は仲間を売りたいくないという理性と生きたい、死にたくないという感情が鬩ぎあっているように見えた。
「それは………ッ……わ、私です」
全員が振り向く、なぜ、嘘をついた。お前が殺されてしまうんだぞ、と。
「私が結界を…張りました」
動かなければ、あの子を、皆を死なせるわけにはいかない。
動け、俺の体だろうがッ!俺のために動かなくてなにが肉体だッ!
いいから、死んでもいいから。死ぬのには慣れているから。動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動けぇぇえええええええ!!
「お前ら、ソイツを殺せ」
見習い騎士と先輩方をみて、首領の男が言った。
ふざけるな…そんなことできるわけないだろうが。
おずおずと一人の騎士見習いがフレイに、優しい女騎士見習いに。向かって剣を構える。
それを見て他の見習い騎士も、先輩方も、同じように剣を構えた。
やめろ、お前らの剣はそんなもののためにあるわけじゃない。騎士道はどこ行った? お前らは誇り高い騎士見習いだろうが。おい、おい。やめろよ。やめてくれ。
おい、べヒス、なんでお前も剣を向ける。その子はお前のために自分を犠牲にしたんだぞ。
自己犠牲を選んだものに自己保身で返すのか?おかしいだろ。
目をふさぐことしかできなかった。
「殺れ」
「「「「「「オオオオオオオオ」」」」」」
見習い騎士と先輩騎士は剣を振り上げ、おのおの自棄になったように叫んだ。
そして皆、斬り殺さんと目を見開いて進む――――――――――――
――――――――――――甲冑の集団に向かって。
「なっ……………なぜこちらに来る!!」
本気でフレイを殺そうとしていた一部の先輩方も他の見習い騎士に押さえつけられる。
「む、迎え撃て!!」
首領がそういうと、甲冑を纏った剣士たちが前に立ちふさがる。
「騎士の誇りをぉ舐めんじゃねぇぇ!」
「敵に報いを」
「死ぬとしても敵に向かって死んでやる!!」
再び剣士たちと騎士たちがぶつかり合う。
「見誤った……撤退しなければ………………」
項垂れる首領、予想外の結果だといわんばかりに。
どうやら逃走する準備をしているようだ。
「今のうちにこれを馬車に詰め!」
だが
「早くせんか!!」
「オイ」
「…………なっんっ…! なぜ動けている…お、お前は…………お前はァァぁアア!」
―――――もう治った。
俺の自然治癒力は案外人並みはずれているのかもしれない。
「死ねよ」
「まだ…死ねん!」
「いいから、くたばれよ。くたばってしまえ」
剣を振り上げる。剣士が掴みかかってくるがすべて振り落とす。邪魔をするんじゃない。
これで、この瞬間で、お前を殺して見せる。
剣を持つ手に今最大の力を込め、振り下げる。
だがその寸前。
剣士の一人が馬車そのものをぶつけてきた。
予想だにしない横槍に吹っ飛ぶ俺。
空中高く舞う。
「畜生がぁ!!」
落ちる先には、なんと川。
この高さからあの川に落ちてしまえば命はない、そしてそれを防ぐ手段もない。
どうすればいい。どうすれば。
「まだ、俺はアイツらを救わなきゃいけない」
それが俺の過去に対する贖罪だった。
だからまだ、ここで敗けてしまうわけにはいかない。何としても。
懐から黒塗りの回転式拳銃を取り出す。ベロネからもらったものだ。
魔力を込め、筋がアメジストに光ったのを確認する。
そして自分のこめかみに銃口を当てた。
「怪物に喧嘩は売らないほうがいい」
ピシュン、と。俺は確かに頭を銃弾で貫いて死んだ。
一度こういうのを書いてみたかった。
もっと長くなると思ったんだけどなぁ……
見誤った…(キメ顔)




